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フリージア王国備忘録<第三部>  作者: 天壱
侵攻侍女とサーカス

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Ⅲ123.侵攻侍女は後押しする。


「他の演目と連携が必要になりますから。新入りのジャンヌは単独の方がやりやすいと思いますよ」


そう、ステイルが声を掛けてくれたのは開幕序盤から時間も経ち中盤にさしかかる手前だった。

挨拶を終えた団長を、化粧落としと共にアラン隊長がレオンのいる客席へ連れていくべく付き添っていった後、アーサーと一緒に邪魔にならない舞台袖の端の端で舞台の様子を眺めていた。

予行練習でも見たけれど、やっぱり本格的に衣装や化粧、そしてなにより観客の歓声と本番の威力はすごい。あれだけ死にそうに……若干死相が出ていた演者も、すごく生き生きしているもの。

正直、開演前とは皆別人だ。こういうのを見るとやっぱり皆プロなんだなと思う。


そんな中、とうとう軽技系統が始まってポールによる同時演目にトランポリンの私だけが取り残された。テント天井から吊り下げられたポールを渡るのも、トランポリンを踏み込み台にポールをまるで自分の身体の一部のように登り降り回転を繰り返すのもどちらもすごい綺麗で、女性である私も見惚れてしまった。

いっそ私もこの軽技二人の演目に混ぜてもらって隅でぴょんぴょんしてれば目立たず自然にお客様からお溢れ拍手を貰えたのかなと小さく呟いた時。

傍に立ってくれるアーサーよりも先にステイルが歩み寄りながらそう答えてくれた。衣装や化粧を済ませたステイルに会うのは今日は初めてだ。

団長の開幕挨拶中でも、下働きの団員さん達と大道具の打ち合わせをしていたからこちらの舞台裏にはずっといなかった。


フィリップ、と目が合うと共に呼べば軽く顔の横で手を振って応えてくれた。

アーサーも遅かったなと呼びかける中、私は改めてステイルの衣装姿を上から下まで眺めてしまう。左手の指の先には姿を隠す用の仮面も用意されていた。そろそろステイルは出番の近いのだと思い出す。


「遅くなって申し、……すみません。補助役のレラさんに段取りを説明していたら遅くなりました」

「?そんなに難しいことなの?」

いえ全然、と。ステイルは即答だった。

少し困り笑いで話してくれるステイルによると、単純にカウント後に舞台袖から縄をちょっきんするだけの作業だ。……ただ、手品の内容が内容なだけにレラさんが何度も半泣きで確認と自分には荷が重いと訴えてきたらしい。

「もしフィリップ君殺しちゃったら……!」「私みたいなドジじゃなくてもっとちゃんとした人に」と本気でステイルの身を心配してくれた上の訴えだった。レラさん……となると、何度もアンジェリカさんが名前を呼んでいた印象が強い。少し控えめというかお淑やかな下働きの女性だ。腰が低い印象もあるけど、それ以上に頼られてる印象があるからきっとすごい働き者で真面目な人なのだろうなぁと思う。

そして、真面目だからこそステイルの文字通り命綱が重荷だと。


「少しくらい早まっても大丈夫ですし、もし早めに落ちても六十秒待ってから要救助か判断して下されば問題ありませんと何度もお伝えしたのですが」

「ンで、ちゃんと不安取り除けたのかよ?」

不安なもんは仕方ねぇだろと、レラさんを擁護するアーサーにステイルも肩を竦めてから素直に頷いた。

十回以上何度も確認と説明をして説き伏せてを繰り返し、なんとか落ち着いてくれたと。荷運びや片付けみたいに力仕事でもない裏方業務だからとは女性に任せることになってしまい自分も申し訳ないと思うと言うステイルに、多分レラさんにも優しく言ってくれたのだろうなと思う。……それだけレラさんが本気で泣きそうだったのだろうとも。


「こういう時もっとジルベールくらいの口の上手さを持ち合わせていればとは思うが」

「説得できたンなら充分だろ」

バシッと最後にアーサーがステイルの背中を叩いた。

説得の場においてジルベール宰相なんて最上級者を出さなくても、ステイルも充分以上の凄腕だ。別にタイムトライでもないのだから時間を競う必要もないと思うけれど。

それでもステイルは満足できないのか、アーサーに叩かれた後も眉の間が寄っていた。むすっとした顔のステイルに、私も話題を変えるべく彼へ笑いかける。


「衣装。すごく格好良いわね!化粧ちゃんと〝素顔〟にも合っているわ」

「!あ、りがとうございます……。〜〜っ、まだ俺は慣れませんが」

大きく目を見開いた直後、じわじわと血色が良くなっていくステイルは眼鏡の黒縁に触れ、……ようとして目元を押さえた。衣装や仮面の兼ね合いで今は眼鏡を掛けていない。

化粧に触れるのもいけないと思ったのか、目元に一瞬触れてすぐ手ごと引っ込めたステイルは恥ずかしそうに顔を伏せてしまった。アレスに衣装を選ばれた時もそうだったけれど、未だにステイルは衣装が気に入ってはいないらしい。

今見る限りすごく素敵だし、てっきり袖を通してみたらしっくりきたかなと思ったけれどステイルの感覚では未だ駄目なんだと少し肩が落ちる。ちゃんと格好良いのに。


ステイルの衣装は、確かになかなかの派手さではあった。シルエットだけならば社交界のパーティーでも着るような上下とも礼服にみえるけれど、黒地に袖や裾とか至る所に炎のような赤の刺繍や装飾があしらわれている。偏見だけで言えば、前世の社交ダンス大会や闘牛士にいそうな格好だ。

シックにまとめているけれど、マントまでバサバサはためかせて派手さと自己主張を忘れないのが流石サーカスの衣装だと思う。

更には顔も、顔全体にキラキラパウダーのような白粉や目元どころか目の周りや頬にまで服に合わせた赤のメイクが施されている。私にはいつもの美青年の顔立ちに珍しい派手めのお化粧で際立たせているけれど、実際は優秀従者フィリップの特殊能力で別人の顔に合う化粧だ。確か、赤い髪に素朴かつちょっと不健康そうな顔立ちだっただろうか……?白粉も目の周りのキラキラも恐らく少しでも血色良く見える為のものだろう。

まぁ総合して普段のステイルには想像つかない出来栄えだから、本人が落ち着かないのもわかる。

そういえばステイルもアーサーも、アネモネ王国のあの話題の服屋さんには行ったことないし余計に慣れないのもあるかもしれない。レオンならここまで首を捻らないだろう。


「別にお前は普段のとあんま変わらねぇだろ」

「全ッッ然違う別物だ。この毳毳しい装飾が目に入らないか」

視力は良い筈だろう、と。ステイルが思った以上にアーサーへ食い気味に言い返す。

そのままギッと漆黒の瞳を鋭くしてアーサーへと向けるから思わず口が笑ってしまう。二人の言いたいこともわからなくはない。

第一王子として衣装や格式の高さに拘りもあるだろうステイルにとっては全くの別物だし、そして騎士のアーサーにとっては式典や護衛で同行した社交界のパーティーの貴族の衣装を思い出せば似たようなものだろう。王族顔負けの派手な衣装は女性にも男性にもいるもの。……勿論、派手さと高級感はイコールで結ばれないけれども。


「俺のこの衣装よかは普通だろ」

「比べる対象がおかしい。お前やアランさんだからその衣装も似合うが、きちんとサーカスらしく振り切った衣装だ。この格好で本当に社交界に出てみろ。間違いなく……〜っ……」

途中で急に小さくなった。

むぎゅうと唇を結んだまま苦渋そのものの顔になるステイルは、本当に昔よりわかりやすくなったなぁと思う。そこまで気に入らないなんて。

私もアーサーと顔を見合わせて一緒に首を傾けてしまう。アーサー達の衣装が彼らだから似合うというのは確かにと納得できるけれど、ステイルも着こなせるとこっそり思う。

確かに騎士のアーサーやアラン隊長と比べたらムキムキではないけれど、ステイルだって子どもの頃からアーサーと一緒に手合わせや稽古をしている分身体も鍛えられている。……いや、第一王子が露出絶対したくないという意味でならわかる。

ステイルの衣装も、確かにアーサーにも似合うとは私も思う。でも高身長という意味ならステイルも同じ系統だし、アーサーに似合うならステイルにも似合うような気もする。


そういえばステイルの衣服っていつも格調高い系統や落ち着いた色合いばかりだったけれど、まさかそこまで派手なものが苦手だとは思わなかった。

アーサーが「お前が似合うからその衣装なんだろ」と重ねて言うけれど、ステイルはとうとう両手で熱った顔を覆ってしまった。

まさかそこまで恥ずかしいなんて!!


「だっ、大丈夫よフィリップ!私の目からみても格好良いわ!化粧だってアレスがやってくれたんでしょう?!なら間違いないわ!」

「〜〜っ……ありがとうございます……」

両拳を握って駄目押しに訴えてみたけれど、消え入りそうな声が返ってくるだけだ。ここにティアラがいてくれれば!!

どうしよう言えば言うほどステイルの顔が赤くなって背中が丸くなる。もう出番も近いのに!こんな赤面だと逆に血色が良くなり過ぎる!!

けど、ここまでステイルが恥ずかしいならどんなフォローも水泡かもしれない。私だって似合うといって貰ったドレスも露出も恥ずかしい時はずっと恥ずかしいもの。

ここはステイルの身になって……!と頭を回転させて考える。「よく聞いて」と顔を覆う彼の手首をそっと掴み、もう一度呼びかける。


「大丈夫。どんな格好でも貴方は絶対格好良いから。少なくとも私達の目にはそうとしか映らないわ。大好きな貴方よ」

掴んだことでゆっくりと手が離れるステイルに心から笑ってみせる。

まさかステイルがそんなにずっと気にするとは思わなかったけれど、絶対格好良いと自信を持てる。いつもと系統が違うだけだ。宣伝回りみたいに被り物をしてるわけでもない。

言い聞かせる前から赤く染まっていたステイルは、丸くなった目で俄かに口が開いたままで見返してくれた。ぽかんとしたようにも見える顔が、……発火した。

ボッ、とまるでライターでもつけたような顔色の悪化にびっくりしてこっちの肩が上下した。ステイル?!とうっかり口が滑りそうなのをフィリップ呼びしたけれど、まるでオーブンに火をつけたように熱くなったステイルに脈を測るべく化粧を避けて首に触れる。首もものすっっごい熱い!

ステイルやアーサーみたいに私も元気付けたかったのにむしろ緊張圧迫最上級にしてしまった!本当になんでこう悪化しかできないのか私は!!

自分の成長のしてなさに私まで頭を抱えたくながら表情筋にみぎゅっと力を込める。途端に今度は「……ブハッ」と笑い声が聞こえてきて、振り返ればアーサーがすごい楽しそうな笑顔でこっちを向いていた。

ステイルの肩を肘で突いて「良かったじゃねぇか」と言うけれど、そのフォローが傷口に塩じゃないか不安になる。


「!そうだお前、あのことジャンヌにちゃんと言ったんだよな?」

「……………………」

ん。と、微かに、本当に微かに聞こえた気がした。

こくこく頷きだけははっきり示してくれるステイルと、そのまま肩へ腕を回すアーサーに、あのことは今朝話してくれたことかなと思う。アーサーもその場にいたけれど、声が小さかったし内容は知らないもの。多分アーサーには別の時に話してはいるのだろう。私からも「大丈夫」と笑ってみせる。


「ちゃんと信じているわ。教えてくれてありがとう」

「いえ、あれはアーサーが……。〜〜、そろそろ時間なので、失礼します」

すーはーと、大きく両手を広げて全身で深呼吸するステイルに私も置かれた時計と舞台へ目を向ける。

ステイルの言った通り、そろそろ本番だ。私達の中で、一番最初に舞台に立つステイル。そしてまた間を置いてから空中ブランコ、続いて私。そして後半近くにカラム隊長だ。

頑張ってね、と声を掛けるのを最後に私はステイルの肩へ軽く手を置き、そして見送った。舞台袖ではなく配置へ向かうステイルに。



「続きましては脅威の新人!!心臓の悪い方はご注意を!奇跡の脱出劇をご覧ください!」



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