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フリージア王国備忘録<第三部>  作者: 天壱
侵攻侍女とサーカス

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戸惑い、


「ラジヤの。……ケルメシアナサーカスは無事早々に見つかったとのことで幸いでした。ちょうど公演の為に滞在していたことも行幸でしたね。流石はプライド様、日ごろの行いの賜物です」

「私もほっとしました。ミスミ王国への経由って、我が国以外にもたくさんラジヤを利用する人がいらっしゃったのですね」


兄から直接聞いたのだろうジルベールや、通信兵を介した王配の父親から、プライド達の進捗はティアラも把握している。

ケルメシアナサーカスの手がかりかプライドの予知した奴隷被害者だけでもと望んだラジヤ帝国の属州。移動型興行らしいケルメシアナサーカスがちょうど滞在というのは都合が良すぎて罠じゃないかと少し心配になったティアラだが、そもそも母親の用事と同じミスミ王国関係と知れば納得できた。

フリージアやアネモネのように異国の来賓が一時滞在しているのならば、その期間を狙いサーカスを開催するのも頷ける。しかし元はと言えばラジヤの属州にそれだけ異国の来賓が経由地として利用としていることがティアラには少し意外だった。


奴隷生産国としても大国であるラジヤだが、ティアラにはまだラジヤに対しては「悪い国」という印象が強い。

防衛戦の一件や自分の大事な姉と国が襲われたことだけではない。奴隷制と侵略で領土を広げているラジヤは、もともと良い印象の国ではなかった。

ミスミ王国へ訪れる為に、わざわざラジヤを経由したがる国は少ないんじゃないかとさえ思った。ただでさえ、現地にいる通信兵の報告でも治安も経済もお世辞にも良いとは言えない状況だ。

ティアラの適格な感想にジルベールも「そうですねぇ」と、曲げた指関節を口元に沿える。フリージア王国自体、初めて使用する経由地であった為ジルベールもラジヤへの情報は少ない。むしろ知っていればケルメシアナサーカスのことももっと早く把握することができた。


「まぁ、ミスミの開催地に最も近い位置にある国ですから。治安はさておき物流は悪くもなく、何よりあの地自体が来客を見越した経済戦略をされているのでしょう。実際、我が国もアネモネ王国も滞りなく別々の宿をまるごと得ることができました」

王族が訪れたからといって全ての地が無条件に即日で住む家や宿を用意できるわけではない。

しかし当日に王族が一時滞在できる宿を速やかに用意できたことから考えても、一時経由地として観光客もある程度確保されているのだろうとジルベールは考える。ラジヤ帝国の属州として国の原型は失った地ではあるが、全てが損失ばかりというわけではない。

大国ラジヤ帝国の支配下、そして奴隷産出の一役として商品以外の物流も確保されている。同じラジヤ帝国という旗の元、様々な地帯のラジヤ帝国属州や植民地と無条件に繋がれたも同然。結果として貿易や必要物資も交易が叶い、枯渇することはない。奴隷を産出し続けてさえいれば、一定の生活水準は確保される。

しかし、ジルベールはそれを〝良き統合〟とは決して思わない。


「ミスミの催しは有名ですから。今や世界にも注目を浴びていると名高く、ミスミにとっては周辺諸国との融和と共に重要な資金源でもあります。フリージアの同盟諸国や名のある王侯貴族が出席しています」

「我が国は初めてなのですよね?」

ええ、と。ジルベールは優雅にティアラへ笑みを返す。

古来から奴隷制度反対派のフリージア王国ではミスミがその制度を改めるまでは長らく倦厭してきた。しかし、奴隷制反対国全てが奴隷制度国を倦厭するわけではない。国の大小その発展や規模、各々の立場や利益において目を瞑り協力や親交を深めることはよくあることだ。

フリージア王国の同盟国、フリージアと同じ奴隷反対国であろうとも、必要とあれば目を瞑るほどミスミ王国の催しは昔から魅力的だった。


一度に多くの王侯貴族との接触を図れることもさることながら、自国では手に入らない貴重品や逆に自国の技術や文化を披露する機会でもある。

通常の式典やパーティーよりも遥かにミスミの催しには大勢の出席者が参列し交わる。そんな年に一度しかない機会を有効活用する招待客は多い。


王族など目にしたことのない平民にとっては、一同に煌びやかな王族が集う場はその周辺に張るだけでも目の保養になる。

結果、招待された王侯貴族そして招待されていない貴族まで、参列の為の訪問で大いに賑わう。周囲の店も宿も全ての興行地効果も果てしない。

そして競売成立した売上の一部は、開催国であるミスミ王国の財源でもある。たとえ参列ができずとも、その開催日までにその周辺で王侯貴族を目にし、交わす機会もある。

行ってしまえばたった一つの国による、世界の祭典である。

フリージア王国の宰相であるジルベールも、ミスミに対してはなかなか上手い反映方法を見つけたものだと感心する。


「我が国は外交も、ローザ様の代までは周辺国との関係を広げるよりも維持することに重視しておりましたから。奴隷被害も今とは比になりませんでしたし、奴隷制度の国には警戒を強めておりました」

そしてローザの代になり国交を広げていても、奴隷制度の国と和平を結び関わるのは周辺国程度だ。

ミスミ王国も地図で見れば大国フリージア王国にとって近隣国と呼べなくもないが、王都からは遠く離れている。

何より、奴隷制度の国も多くが行き交うミスミ王国最大の催しに参加することはローザも望まなかった。

しかし同盟共同政策やフリージア王国の学校制度の創設、ラジヤ帝国を下したことにより今は奴隷容認国からも多く同盟や和平打診が途切れない。最強を誇る騎士団も更なる強固さと、規模も拡大を続け、フリージア王国自体の立場も昔とは大きく変わっている。

単なる特殊能力者を生み出す脅威の大国ではなく、今では世界有数の発展国に数えられる。だからこそミスミの招待も初めて受けることに踏み切った。

フリージア王国とそして時代に倣い、奴隷制度も奴隷容認まで緩和されたミスミと、周辺国へ更なる理解と友好に踏み切るフリージア王国両国の歩み寄りの結果である。


「今のミスミ王国自体は既に調査も通しております。平常時にも治安は安定し、特にこの催し前後には治安維持の取り締まりは強化されています」

そしてその分、治安維持と厳戒態勢の為に観光目的や訪問目的の王侯貴族も長期滞在をするか否かの影響も及ぼしている。

厳戒態勢ということは、その分護衛であろうとも至る場所や地域で武器の所持すら認められない場所もある。

たとえ王族であろうとも立ち入りを禁じられた区域もあれば、安いレストランに入るにもボディチェックまで欠かせない。馬車で買い物へ向かうだけでも経由する場所で何度も止められ荷馬車も荷物の確認まで行われる。

国内に入ることは難しくない。ただの広場や市場には歩き放題だ。しかし国外の人間には警備の目も厳しく、たとえ在国人であろうとも顔つきがミスミ王国でなければ建物内に入ろうとすれば何度でも職務質問を受けるとまで言われている。

王族も貴族も、その権威をかざそうとも先ずは本物であるかの確認に時間を食わされる。宿を取ろうとも、定期的にミスミ王国の兵士が見回り訪問してくる。安全確保という意味では間違いないが、自由気ままに快適にという言葉からは遠く及ばない。


全ては世界規模の催しに一度でもテロや事件などの問題を起こさせない為の方針だが、その結果訪問客の一時滞在による経済影響は、その周辺国にも奪われやすい。

しかし、それを以てしても余りある財源となるのが催しそのものである。あくまで開催地としてその日は一般の民も祭りで覆いに潤うことは間違いない。


「ラジヤとは勿論今まで交流は持ちませんでしたし、まさか我が国の近隣で大規模なサーカス興行など知りませんでした。使者もこの時期にはラジヤではなくミスミ王国の調査に重点を置いておりましたから」

だからこそ〝ケルメシアナ〟という地名に覚えがあっても、サーカス団の存在など知ることもなかった。

観光客目当てのサーカスが、その一時滞在者にむけて興行をするからというだけでわざわざ調査や報告書にサーカスの感想文を送る使者などいるわけもない。ラジヤの同行調査報告は受けても、たかが小さな属州国の一個人所有の興行である。

プライドの予知である自国の民が違法に奴隷にされているなど情報を得ても、つい一年前ならばフリージア王国は関与もできなかった国だ。その国でサーカスが何人奴隷を使おうと、フリージア王国の民を奴隷にしていようとも、ラジヤの法に乗っ取れば裁くどころか回収もできない。

しかし今は、ラジヤによる和平条約反故による罰則でそれも叶う。むしろラジヤ帝国内にいてくれるならばその間に全て解決するのが一番早い。


「少なくとも現段階ではサーカスに奴隷として囲われている民は確認できていないそうですが……」

予知をしたプライド様の目にも、と。そう切り、ジルベールは指に掛けた紅茶を微弱に波立たす。

当然まだ潔白が保証されたわけではない。プライド達がいくら潜入しようとも大規模なサーカス団であれば隠す方法などいくらでもある。仕掛け部屋や大道具の中に隠すことも不可能ではない。

しかし、もしプライドの予知が〝これから〟のものであるならば、ケルメシアナサーカスも今はまだ無罪だ。


ケルメシアナサーカスの予知がどれほど先のことかわからない以上、完全に現段階で黒と決めつけることもできない。そして、今が潔白であることの方が面倒だと、ジルベールは思考の中で唸る。

今が黒であれば、処理は難しくない。奴隷を保護し、ラジヤ帝国へ勧告し処分を促して終える。つい最近フリージア王国に報復を受けたばかりのラジヤ帝国がたかがサーカス一つを庇うとも思わない。フリージア王国の要求通りに罪人を処分し奴隷を故郷へ引き渡しさせる自信もジルベールにはある。


しかしもしこれからの罪であれば長期戦になる可能性もある。

まだオリウィエルの存在を知らないジルベールにとって、原因も主犯格も不明の今が一番不透明で面倒だった。もし、これからケルメシアナサーカスがラジヤでサーカス団員商品補充を行うというのならば、どこでどの店で購入するかが重要になる。その店はつまりはフリージア王国の民を商品として取り扱っている店。そしてプライドの予知によれば〝違法〟に奴隷にされた奴隷被害者ということにもなる。


せめてその奴隷商の特定をできればと思案するが、今のところ動きはない。

先日まで消息不明だったサーカス団の団長という情報を掴んだ時には、やはりサーカス団の長である団長が主犯かとも考えた。消息不明も、その後に団長を目撃したレオンの言う風貌も、団員に気取られることなく秘密裏に奴隷の買い付けをしていたとなれば納得できる。奴隷を買うという行為を団員にも隠していることも考えられる。あくまで団員には〝新入り〟として紹介し、その実見込みのある奴隷を買っていたなど、サーカスや見世物小屋では容易に想像できる話である。

ただし今はその団長が立場を半ば追われ、やっと戻って来たばかりというのも事実。

いくら団員に慕われていようとも、それだけで信用に足ると思うほどジルベールは甘く考えない。しかし、立場を追われている間に新たな団員を奴隷として買っていたとすればあまりにも矛盾している。

そして戻ってきた今も、団長は新たな団員は携えず帰還している。表向き同行させた新入りは全員潜入を目的としたプライド達だ。奇しくも、団長の無実を保証しているのが彼女達でもある。


「どう思います?フィリップ殿。プライド様の予知も御存知である、数少ない情報共有者として御意見があれば」

「?!じじ、自分に、ですか……」


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