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フリージア王国備忘録<第三部>  作者: 天壱
侵攻侍女とサーカス
175/289

Ⅲ106.侵攻侍女は確認し、


「すみません、俺の採寸で時間食っちまって……」


良いのよ。

片腕で大荷物を抱えながら申し訳なさそうに頭を下げるアーサーに、私からそう笑って返す。

カラム隊長対アンジリカさん戦の後、運動着を片手にアーサーの採寸を待ってから私とステイルもそれぞれ用事を済ませた。アーサーが採寸中にそれぞれ済ませられれば良かったのだけれど、やっぱり護衛に付いてもらっている身としては少し時間がかかってもアーサーを待つべきだと判断した。


お着換えをのぞき見するわけにもいかず外で待っていたけれど、なかなかアーサーの採寸とサイズも大変そうだとテント一枚向こうからの声でわかった。

採寸係のミーシャさんから「足長っ!!」と声が聞こえた時は思わずステイルと一緒に顔を見合わせて笑ってしまった。私達は子どもの頃からアーサーといるから鈍るけれど、そういえばそうよねと思ってしまう。近衛騎士ではアラン隊長やカラム隊長とか似た身長の騎士にも挟まれることが多いから忘れるけれど、騎士団でも背が高い人だもの。

その後もアラン隊長の衣装も衣装調節しないといけないのにアーサーまでとか、カラム隊長は演目のお陰で衣装調節までは必要なくなったから良かったとか、ミーシャさんの嘆きのような愚痴はアーサーの採寸中ほとんどずっと続いていた。

その間ずっと「すみません」「自分も手伝えることあったら」「揃いの衣装難しいなら自分は適当でも全然」とアーサーも細かく相槌を打っていてすごい気遣っているのがテントの外でもわかった。


採寸後に「これならにアランとも合わせれるから!!」と用意された衣装の試着をアーサーが終わってから、今度は私が運動着に着替えてステイルも衣装のサイズ合わせ確認を終わらせた。

アーサーと比べれば確かに時間は全然かからなかったけれど、三人とも試着に時間かけたのだしお互い様だ。ステイルとアーサーの衣装姿も見てみたかったけれど、……残念ながらテントを閉めたまま終わらされてしまった。一回くらい開けて試着姿見せて欲しかったのに、二人とも見せるほどの格好じゃないと頑なだった。少なくとも着る前の衣装自体を見た分は、二人とも似合うと思ったけれど。

ステイルも結局アレスが選んだ衣装をそのまま試着して決めたようだし、アーサーも渡された衣装を着て即決だった。似合う?と気軽に私へ意見を聞いてくれるような隙もない。

私達三人の衣装も決定衣装として預けたし、残念ながら二人の衣装姿を見るのは明日のお楽しみになってしまった。


「アーサーはアランさんとお揃い見つかって良かったわね。今から二人のお揃い見るの楽しみ」

普段はむしろお揃いの団服だけど!!

心の中の言葉を残し、それはそれで楽しみであることを伝える。騎士団の団服で一緒の姿は見慣れていても、団服以外の格好も珍しいしきっと格好良いに違いない。

謝り倒しだったアーサーの気持ちが持ち上がればと両手でそれぞれ拳をぎゅっと握って鼓舞したけれど、アーサーは「いえ、その……」と曖昧に笑って頭を搔いてしまった。

むしろ罰が悪そうな顔に、何か言葉を間違ってしまったかしらと一瞬焦る。ステイルに目を向ければステイルもステイルでアーサーの気持ちがわかるかのように深く頷いていた。やっぱり私の言葉が悪かったのだろうか。

首をブンブンと二人へ交互に向け続ければ、アーサーが「なんつーか」と言葉を絞り出すように続けてくれた。


「……むしろアラン、さんに申し訳ないっつーか……。俺との兼ね合いで、あの衣装に……」

「安心しろ俺は笑わない。ただしお前も笑うなよ」

するわけねぇだろ、と。間髪入れずアーサーがステイルへ返す。

申し訳ない??笑う??と私一人が首を傾げてしまう。着た格好は見ていないけれど、二人の衣装自体は私も見た。確かに普段着と比べると派手ではあったけれど、普通に格好良い服だった。むしろ露出が気になる女性の私よりも男性の二人の方がハードルは低いんじゃないかとまで思っていた。

動きやすさ重視じゃないステイルの衣装なんて露出もないし身体のラインだって見せない重ね着三昧だ。アーサーとアラン隊長のあの衣装だって格好良い。むしろ見栄え重視の衣装だと思った。まぁ騎士の二人なら動きやすさなんて関係なく動けただろうけれど、それでも動きやすさも守られていて且つ格好良い衣装はすごく良いと思う。

なのに二人して溜息まで吐く始末だ。「まぁ仮面は被る」「いっそあの被り物じゃ駄目か……?」とステイルは肩が丸く落ちて、アーサーも担いでいる荷物が傾いた。

どうやらどちらの衣装も二人の趣味にはお互い合わなかったらしい。男の人みたいな衣装の私と違って二人ともちゃんと男性の衣装なのに、あれが嫌なら私は本当にどれだけ恥ずかしい格好になるのかと宣伝回りのことを蒸し返したくなる。今はもう褒めて貰えたから良いけれども。

ステイル系統も、アーサーとアラン隊長系統の衣装も嫌ならサーカスの衣装は殆ど駄目なんじゃないかと思う。まさか二人が全身タイツが好きとは思わないし、残すサーカスの衣装は団長みたいな衣装かピエロ系かそれとも……。


「二人とも、カラムさんみたいな衣装の方が良かった?」

「いえそれも」

「いやあれはもなんかっ……!!」

カラム隊長まで。可哀想。

さっき、アンジェリカさんに選んで貰ったらしい衣装を思い出しながら尋ねる私に、ステイルもアーサーも哀しいくらいに即決だった。それをアンジェリカさんに選ばれたカラム隊長の心境を考えると心配になってくる。本人はなんでも良いみたいに言ってはいたけれど。

カラム隊長の衣装も、ちゃんと全体図は見えなかったけれど格好良いと思うのに。サーカスの派手さはぬぐえないとはいえ、二人の衣装と比べたら生地は普通だった。アンジェリカさんの衣装ともきっと合うし引き立てるだろう。

うーん、と思わず腕を組んでしまう。まぁ王族と騎士の二人には合わない趣味なのだろうなと思うことにする。……カラム隊長は騎士で且つ貴族だから二倍恥ずかしいかもしれない。

前世の記憶がある私にはテレビで見たサーカス衣装や漫画やゲームの知識もあるお陰か、そこまで抵抗感はない。むしろ格好良いと思うし、コスプレとかと同じような感覚だろうか。

流石に露出とかフリフリ可愛い衣装は恥ずかしいけれど、……うん。やっぱり前世知識とか関係なく単純に男女の趣味の違いかもしれない。それにああいう衣装は今世でも別にそこまで初めて見る気がしないというかなんかどこかで……、…………あ。

ぱちん、と。思わず一人で両手の平を合わせてしまう。そうだやっとしっくりきた。前世だけじゃない、ちゃんと今世でもああいう服は見たことがある。




アネモネ王国のレオン紹介の服屋で。




初めて行ったのは確か防衛戦の後だっただろうか。

よくよく考えてみればステイルもアーサーとアラン隊長もカラム隊長の衣装も、あのお店に売っていそうな衣装だと思う。ちょっとゲーム、というか私の前世の価値観も入ったセンスのデザインだ。

ここはいっそ二人に「アネモネの最先端デザインにもそっくり!」と励ますべきだろうか。いや、でも二人は最先端とか流行とかではなく自分の趣味で嫌がっているようだし言っても意味がないか。

こうなると私も私で下手だなと反省する。せめて二人の着た格好を見れれば誉め言葉も浮かんだと思うのだれども。


「……ところでアーサー、本当にそれ重くない?辛かったら手伝うから」

「!いえ大丈夫です。御心配ありがとうございます」

考え抜いた結果、ここは衣装ではない方向に話を逸らすことにする。

衣装試着を終えた後、訓練所へ戻る途中に見かけた廃品だ。正確にはサーカス団の廃品置き場になっていた荷車に下働きの団員さん達が積もうとしていたところでステイルが引き留めた。今から直して明日の本番に使えるかもしれないからと譲って貰った廃品を、そのまま訓練所まで運ばせるのも忙しいのに悪いとアーサーが自ら自分で運ぶと言ってくれた。けっこう見かけも重厚だし重そうだしと心配になったけれど、肩で軽々と運んでくれているアーサーは流石騎士だと思う。


手伝う、……と言っておきながらも非力な私は多分まったく戦力にならないだろうなと遅れて思う。ステイルも一緒に運ぶと最初に言ったけれど、結局アーサー一人が受け持ってくれた。

お昼も過ぎて明日の打ち合わせや準備も済んだし、ここからは猛練習だ。私とアーサーはもちろんのこと、ステイルもこれから本番に向けて段取り確認や器具の準備も必要になる。


「けどこれで本当に良いのか?団長さんがちゃんと古いけど一式貸すって言ってくれてたろ」

「ああ、むしろちょうど良い。こっちの方が迷惑もかけずに済むからな」

コンコンと、木質の廃品を軽く手の甲で叩いて確かめながらステイルは、アーサーに笑んだ。

ニヤリと聞こえそうな笑みは黒さは感じなかったけれど、きっともう何か策か企みがあるんだろうなとはわかった。叩いた手応えを確認した後は、ゆっくりと私の方にも顔を向けてくれる。

今度はにっこりと満足げな笑みだけれど、それ以上は言わない。隠し事……とも思うけれど、多分今のステイルなら本当に言う必要のないことなのかなと思う。

大変なことだったら私やアーサーにはきっと話してくれる筈だもの。


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