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フリージア王国備忘録<第三部>  作者: 天壱
侵攻侍女とサーカス
166/289

Ⅲ99.侵攻侍女は戸惑う。



「やあやあヴァレンタイ」

「ア゛ァ゛?!テメェでつけた方だけ覚えてんじゃねぇトチ狂ってやがんのか」

「おお!声だけでわかってくれたか!!」


ハハハハハハハハ!と団長の軽やかな笑い声が響く。

抱き着こうとした腕のままヴァルに掴み返され動けないにも関わらず、満面の笑顔にヴァルの顔が更に引き攣った。

隷属の契約がなければ手で封じるだけでなくここで蹴り飛ばすか手首の骨が折れるまで掴む力を込めてやるのにと本気で思う。レオンの存在とプライドの許可のお陰でささやかな妨害はできても、隷属の契約で他者に危害を加えることはできない。


ヴァルにとってはこの国で一番会いたくない相手に会ってしまったと確信する。

頭にライオンの被り物をした男はパッと見はただの不審者だが、プライドと共にいるサーカス団の一味。そしてこの馴れ馴れしい話し方と声を聞けばレオンもヴァルも中身が誰かはすぐに想像がついた。しかも今の呼び名を聞かせられれば、団長に興味もなかったヴァルも虫唾と共に思い出す。

レオンと比べほぼ全く会話をしていない相手である自分をふざけた呼び方だけ覚えている目の前の被り物男に、やはり間違いなく自分の嫌いな人種だと思う。

いやあすまんすまん!と掴まれた腕から力を抜き下ろしながら、団長は改めて両手を天へと広げ直す。アレスがチケット販売から動けないまま「団長ぉッ!!アンタまでさぼってんじゃねぇ!!」と怒鳴るが、全く気にしない。


「リオ、だったな!?私だわかるか覚えているか?!ここでは少々外せないが先日酒場で……」

「ええ、もちろん覚えています。サーカス団の関係者さんだったのですね」

なんでレオンの方はまともな呼び名で覚えてやがる、と。ヴァルは腹の中だけで唸り、ライオン男を睨む。

猛獣使いの格好をしたプライドの両脇にいた黒猫と馬のステイルとアーサーには腹がよじれるほどに笑えたが、目の前の男には吐き気しかわかない。顔を隠されようとも溢れ出る煩わしさはむしろ酒場に会った時よりも増していた。

酒場で会った時は本人なりに正体は隠しているつもりだったお陰で話好きの飲んだくれ程度だったか、今は完全なるサーカス団団長として開放されている。レオンに対し「そうなのだよ!」「驚かせてすまない!」と楽し気に言う大人げない初老に、ヴァルは今すぐこの場から離脱したくなった。

そんなヴァルの殺気に気付きながらレオンは滑らかな笑みで団長に笑い返す。抱き着かれる前にと、自分から右手を差し出せば勢いよく握手で握り返された。


「明日開演だ!是非君達は来てくれたまえ!当然来るだろう?!友達は何人だ?!同行者の数は?!」

「ええと、……八人ですかね」

「よし二部公演共に十枚だ!!喜べ誰もが羨む最前列だ!!代金はいらない!!必ず十人で来てくれ頼んだぞ!!明日は満席にしないといけないんだ!!」

ばしん!!とレオンと握手を交わした手のまま反対手でポケットから取り出したチケットの束を両手で握手する形で握らせた。

自分とヴァル、セドリックとそして護衛に控えるエリックを始めとするフリージアの騎士とアネモネ騎士での八名だった筈だが、二枚も余分にレオンは受け取ってしまった。


まさかの知らないとはいえアネモネ王国第一王子相手に押し売りのような手法でチケット十枚、第一部と第二部分の合計二十枚を押し付ける団長にプライドは悲鳴がでそうになる。

なんて恐ろしいことを……!と思うが、直後には「金は要らない!出血サービスだ!」と言われれば今度は別の意味で悲鳴が出そうになる。ただでさえチケットが売れなければサーカスの興行自体が赤字にもなるというのに、それを二十枚しかも高額である筈の特別な最善列をレオンに渡してしまった。

「団長!!!!!また客にバラまいてねぇだろうな!?!!」

「良いんだ!彼らは特別な客だ!!なにせ明日は()()()()()()()なのだからな!!」




「はい?」

「なんですって?????」




直後、思わずレオンと見守っていたプライドも揃って声が出た。

目が点になりそうなほど意味もわからず団長を見つめる二人と同じくアーサーも被り物の下で目が皿になり、察しの良いステイルは顎が外れた。レオンとヴァルが団長と既に一回接触があったことは確認済みである。しかし当時は団長が行方不明であることも知らないままでの接触だった。


二拍遅れてからレオンも自身のやり取りを振り返る。

酒場で団長だと判断できた彼からサーカス団の情報を引き出す為に聞き込んだ。その為にかなり長丁場でして酒を進めたことも覚えている。あくまでサーカス団のファンと言いながら、彼の口上は語り慣れしかもサーカス団についても詳し過ぎた。

彼が恐らくはサーカス団の関係者、恐らくは団長かそれに近い立場の古株や幹部。発言権やある程度経営に関われる立場の人間ならばと、自分も情報収集とは別に彼を引っかけた覚えはある。


『一週間くらいかなと。友人がそのサーカスにとても興味を持って僕らのことも誘ってくれて、実は今回もその為にこの国へ訪れたんです』

『そりゃお目が高い。最高の友人だ。……そうか、一週間か。………………早いなぁ』


あー……と、思いだせばレオンも滑らかな笑みが僅かに強張る。

彼が団長かと推測した時点で、彼ならばサーカス団を開いてくれるのではないかと考えた。当時、アレスに「開演後に客としてなら相手してやる」とプライドが跳ねのけられた後である。

ならば上手く言って団長にサーカス団を開いて貰えれば問題は解決する。だからこそ敢えて自分達の滞在期間とサーカスを楽しみにしているという期待をチラつかせ団長に開演を促した。

貿易国の王子として交渉にも携わったレオンにとっては慣れたものだった。…………まさか開演するかどうかどころか団長本人が行方不明になっているとは思いもせずに。

ちらりと、視線の熱さを感じるままに翡翠色の瞳を向ければプライドと目が合った。彼女としてもどういうことか聞きたいのは当然だろうと理解する。

頬を指先で掻き、少し苦笑気味にレオンは発言を考えてから口にした。


「……僕らが一週間しか滞在しないと言ったから、ですか。ありがとうございます。楽しみにしていた友人達もとても喜ぶと思います」

レオンー----!!とプライドは心の中で絶叫する。

まさかゲームとは違うタイミングで団長が戻って来た原因がレオンにあるとは思いもしなかった。ステイルとアーサーも被り物の下で顎が外れた。


いやだけど!!とプライドは一人大きく首を振る。

レオンの言い分では単に酒場でたまたま知り合った相手が一週間しか滞在せずにサーカスを見逃すというだけだ。一度に大勢の席を埋めなければならないサーカスという商売を、団員全員に地獄を見せながら無理矢理開演するなどあり得ないと考える。


はしゃぐ団長とレオンのやり取りからそっと身を引きながらプライドはヴァルの傍へと移動する。団長から距離を取るべく離れていたヴァルはこそこそ話をするにもちょうどいい位置だった。

プライドの接近に片眉を上げるヴァルは「あーー?」と一音を漏らしながらもプライドに合わせ少し腰をかがめた。以前の生徒に扮していた時と違い身長はそのままで話しやすくはなったが、よくこの格好で自分にもべったりくっつけるもんだと頭の隅で思う。

ヴァルの目にもプライドの露出自体は少ないが、自分の視線位置からははっきりと彼女の露出した胸が見える。いっそ誘ってやがんのかと普通の女性相手にならば思うが、所詮プライドだと思えば未だ自覚がないのだと呆れた。

せっかく指摘したというのに、もう手で隠すのもやめて自分にぴっとりと肩まで触れる。傍に立ち耳に顔を近づけてきた。


「貴方の見解はどうですか。リオは、本当に今の言い分だけで団長にサーカスを開かせるほどの誘導を……?」

プライドの問い掛けに、ヴァルの眉間の皺が静かに深くなる。

今度は不快ではない。ただただ単純に、当時の会話を思い返す。サーカス団の情報はさておき、レオンと団長の酒飲み話には大して興味もなく更には会話に入って絡まれたくはないヴァルは酒で聞き流していた部分が大きい。

レオンがそういった白々しいことを言っていたような記憶もうっすらとあるが、細かいことまでは記憶に留めていない。しかし、少なくとも自分が聞き流せる程度の会話だったとは思う。


「…………ねぇな。普通に飲ませて情報吐かせて担ぎ上げただけだ。友人がなんだとほざいた気はするが少なくともこっちの情報はまともに与えてもいねぇ」

自分が王族だとも、王族が見に来ていると仄めかしてすらいない。

もしレオンが最初から無理矢理開かせることを目的としてならば、自分の正体は隠しても「噂で今訪れているフリージアとアネモネ、ハナズオの王族」の存在くらいは仄めかしたと考えるが、そんなことを言い出していれば流石に自分も耳をもっと傾けたとヴァルは考える。

嘘やその場しのぎの表面上の言い分ならまだしも、こちらの正確な情報を相手に与えるほど危険なことはない。


そして、少なくともレオンがそうやすやすと自分達の存在を気取られるような言動をしたとはヴァルも思わない。あくまで団長との会話は、口の軽い飲んだくれと、情報を引き抜くやり手の会話である。

隷属の契約で自分には嘘も吐けないヴァルからの言い分に、プライドもうーんと唸る。ジルベールやステイルほどではないとしても、完璧王子且つ貿易でも凄腕のレオンなら狙えば団長をサーカス団に戻すように説得ぐらいはできると思う。しかし、やはり本当にその程度で団長が戻ってくるものなのかと納得するには材料が少なすぎた。ただでさえゲームでも団長の情報は少なすぎる。

ゲーム開始時には既にラルクとオリウィエルにより殺された故人なのだから。

攻略対象者のことならばゲーム設定や攻略の中で内面も理解できるが、モブキャラどころか既に死んでいるキャラクターを正しく深堀などできるわけもない。第一、第四作目にはそこまでハマっていない。


「普通、一般的に、酒場で会ったお客さん二人そこらの為にサーカスって丸ごと開くようなもの…………?」

「知らねぇな。会ったこともねぇ他所の国にいる国民迎えに国の主戦力共巻き込んで旅に出るどっかのバケモンなら知ってるが」

「…………。……………………知ラナイワ」

せっかく一般的な感覚を求めて尋ねたというのに、バットで返された。プライドは一撃打ち込まれた感覚で視線を顔ごとを逸らす。


よくよく振り返れば自分が巻き込んでいる規模はサーカス団程度のものではない。女王である母親の同行である所為もあるが、事実上は母親と摂政の叔父、そして騎士団数隊に他国の王族まで行動を共にしてくれている。王族が座興にサーカス団を招待し貸切る方が遥かに気軽で安全である。

しかしここに来るまではケルメシアナサーカス団の存在も確証を得られなかった上、タイミングが良かっただけで今も異国の興行回りをしていた可能性もある。

〝予知〟したサーカス団の所在も現状もわからない今、こうして自分でケルメシアナ発祥の地へ訪れるのが最善だった。……と、言い訳をいくら頭で組み立てようとも口にはできない。少なくともヴァルにとっては自分も団長も似たり寄ったりなのだなと理解すれば、もうこれ以上団長の思考を邪推してはいけない気がした。


わかりやすく顔を逸らすプライドに、ヴァルもはっきりと音に出して溜息を吐く。

自分で言っておいて本当に自覚がなかったのかと思う。性格こそプライドとは全く異なる団長だが、こういう上を持つ組織はどこも振り回されるもんなんだと静かに思う。そう考えれば、団長には変わらず怖気が走るがその団長にさっきから振り回されている代表のような虎のラ被り物の団員には少なからず身近さを覚える。

今も団長が好き勝手ぺちゃくちゃ談笑している間、一人で大量のチケットを売り捌いている彼は同情にすら値する。自分の目の前でこそこそ話に臨むプライドだけでなくステイルとアーサーにすら助けを求めないところがまた、上には都合の良い種類の男だと思う。


「明日は楽しいぞ~!!なにせ期待の新人による演目が目白押しだ!!」

「新人というと、彼女もですか?実は今トランポリンの演目を見て僕らも引き寄せられたんです」

新人のぶっつけ本番を物は言いようだと学びながらレオンは言葉を返す。

自分達と、プライドの関係をどこまで明かすべきか。それを考えながら、レオンはヴァルに顔を絶賛逸らし中のプライドを手で示す。自分達に話しかける前からヴァルとプライド達が親し気に話しているのは見られてもおかしくはない。少なくともヴァルの爆笑は聞かれていても当然なほど盛大だった。


レオンの示す先に目を向ける団長も「おお!!」と声を上げ、笑顔を輝かせた。

レオン達に出会った酒場からも近く、いつくかの宿屋とも離れていないこの市場ならば目に届くかもしれないという策は成功したのだと確信する。ジャンヌのトランポリンも、普通の演目披露より遠くの人間にまで目立ち引き付けることも功を評したと考える。


「ああ彼女も新入りだ。とても才能に恵まれた我がケルメシアナサーカスの新しき女神だ!!ヴァルキュリャとも親しいようだが、もしかして君の話していた友達とも知り合いか?」

「彼はヴァルです。ええ、彼女も僕の大事な友人です。以前まで侍女だと聞いていましたが、…………なにかあったのか御存知ですか?」

「さぁどうだかな。我々サーカス団は過去ではなく未来に生きる存在だ。ところで君達もう食事は済んだか?酒が好きならこの先のルシアンの店に行くと良い。店は古いが、酒が美味くてツマミも絶品だ」

わざと逆に探りを入れるように聞き返して見れば、あっさりと口を噤む。

思惑通り自分への問いもここで打ち止めされることに安堵しつつ、良い情報を教えてくれたことにレオンは滑らかに笑んだ。

酒場で情報を引き出した時も分かったが、団長は団員のことは話してもその過去や経歴については全て大袈裟に煙に巻く。こういった交渉相手はレオンも珍しくはないが、彼の場合はそれが団員への優しさなのか疚しさなのかはまだわからない。

少なくとも昨夜までのプライドの話と団員の慕われようから考えて完全な悪人ではないのだろうとは思う。


プライド達の表向きの正体も飲み込んだ上で自分のサーカス団へも引き込んだ団長ならば、そのジャンヌとヴァルが親しいことに疑問や繋がりを感じるのも当然。

自分の〝友人〟がジャンヌ達の誰かだと勘付かれるのも普通の流れ。ならばあくまで一部だけ知った上で逆に探るのが一番早い。

腹を探られたくないほど話を切り上げたがる習性に国境はないとレオンはよく知っている。

プライド達が自分とヴァルのことをどう話しているか、話してもいないかわからない以上、口裏を合わせるよりも片方に全て任せる方が間違いない。


「早速行ってみます。最前列ありがとうございます。明日が楽しみです」

「!ああ!!男と男の約束だ!!楽しみに待っているぞ!!」

アレスまで聞こえる大声で歓迎を示す団長は、そこでやっと持ち場へ戻る。

レオンと、そしてこっちに向きもしないヴァルにも手を大振りし列整理へと向かう。演者のジャンヌは当然ながら、表向きは新入りでも実際は商人とその護衛騎士であるステイルとアーサーにもチケット売りまで手伝わそうとはしない。この程度は自分だけでも手慣れている。

何より、一週間もいない新入りに仕事を覚えさせるほど無駄なことはない。それならばわかる者だけで回す方が早く効率的に決まっている。

代わりにトランポリンの片付けと撤去だけを大声で任せ、また客のいる方へと声を張り上げた。


「さあさあ!!そろそろ終いだよ!!列が途切れればそれまでだ!!」

「おせぇ!!」と怒鳴るアレスに謝りながら列の終わりが見えてきたことを確かめる。

第一目的であるレオン達との再会とチケットを渡せれば、後は客が切れた時点で次の市場へ移動する。市場はここだけではない。今日一日どころか、アーサーとステイルの練習時間も鑑みれば午前中の内に全て回り切りたい。

団長に手を優雅に振り返し、くるりとレオンも振り返る。自分が団長と話している間に談笑をしていたプライド達に歩み寄り、ヴァルの肩へ手を置いた。


「そろそろ行こうか。美味しい酒場教えてもらったよ」

「アァ?もう開いてんのか」

らしいよ、と。滑らかに笑みながらプライド達に向き直る。何故かどこか気まずそうな彼女へと顔を近づけ、ステイルとアーサーも手招きで呼んだ。

その動作にステイル達もすぐに首を伸ばし耳を傾けた。レオンから団長と話した内容と、ジャンヌとの関係の仄めかしを共有されたところで再びレオンは背筋を伸ばす。


「じゃあねジャンヌ。明日の演目楽しみにしているよ。お客さんに困ったなら僕も勿論協力するから」

「…………ありがとうございます……」

レオンの優しい笑みに今だけは口の端が引き攣ってしまいながら、感謝だけは示す。

少なくともレオン達がお客さんとして訪れることは確定してしまったことに冷たい汗が流れる。しかも団長お墨付きの最前列だ。

今市場で集められた客だけでもかなりの前売り券が売れたと思うが、まだ満席にはほど遠い。当日券に期待を込めても、やはりここは一枚でも多く売るしかない。…………売れ残りの席数はそのままサクラという名の授業参観人数に直結するのだから。

いまラジヤに滞在中のフリージア王国の騎士団とアネモネの騎士団を動員すればサーカス団の客席は余裕で埋まる。

酒の気配に釣られ、ヴァルも荷袋を握り直し護衛達と共にレオンに続く。取り敢えず明日のお楽しみはできたと思いながら、厄介な男にまた絡まれた不快感は酒で早々に洗い流すことにした。

トランポリンを撤収し始めるステイルとアーサーと手伝おうとするプライドの姿を最後に、レオン達は市場を後にした。


「十枚かぁ。二枚余分だけど、……そういえば明日って学校休みだよね?一部にも二部にも可能かな?」

「………………ガキ共が乗り気になればな」

バラララッとチケット総二十枚を指で確かめるレオンに、ヴァルは舌打ち混じりに顔を背ける。

二枚余るなら適当に護衛を増やせとも思うが、むしろ呼ばなかった時のセフェクからの苦情が面倒だった。騎士と顔を合わせるよりははるかにマシでもある。


「君も潜入すれば良かったね。その方がセフェクとケメトも喜んだんじゃないかい?ナイフ投げとかも演目にはあるらしいし。君、得意そうじゃないか」

「テメェが的になるなら考えてやる」

暫くは歩いても引き続き耳に届いた団長の呼び込みが後を引きながら、一先ず酒場へと撤退する。

アネモネ王国の王族であるレオンが絶対に頷かないとわかった上ではっきりと嫌味で返した。レオン自身はヴァルのナイフ投げの腕前は知らず、単に彼の前科を思い返しての思いつきだ。まさか自分が一度その腕前に助けられたとも知らない。

しかしヴァルにとってはレオンが覚えていようが忘れていようが、セフェクとケメトの前で大道芸まがいの見せ物などそれこそ死んでも御免だった。


ただし、ちょうど余った二枚の行先については何も文句はないまま会話は終わった。


Ⅲ45-3

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