表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フリージア王国備忘録<第三部>  作者: 天壱
侵攻侍女とサーカス
165/289

そして把握する。


「サーカスらしいのになんだか違和感あるなとは思ったんだ。トランポリンの演目なら僕も貿易先の接待サーカスで見たことがあるけれど、もっと女性らしさを際立たせた衣装じゃなかったかい?」


見惚れて気にならなかったよ、と。レオンの指摘にちょっとだけ安心する。良かった、違和感程度で。

そう、実際のトランポリン演目に出る衣装はこんなではない。もっとヒラヒラの可愛らしい衣装や露出たっぷり身体のラインはっきりの衣装が多い。というかケルメシアナサーカスでは全部それだった。


けれどレラさんの素敵なお勧めにより無事回避できた。ステイルからの強い押しもあり、これに選ばせてもらったけれど……レオンにとっては特に奇抜な衣装だろう。

ワイシャツとタイツ。その上にチョッキと短パンの一体型衣装を着て完成した格好は動きやすいことは間違いないけれど、おそらくサーカスではこれも猛獣使いの衣装の一つだ。……あいにく〝デカ女〟の私は着れるだけで、ヒール込みでもラルクが着こなすのは難しそうだけど!


しかも、我が国も周辺諸国も女性はスカートを履くことが当然。いっそ本来のトランポリン衣装のようにレオタード系統の方が納得できる中で、ズボンを履くことがどれだけ変なのかは私もよく理解している。

前世なら女性にズボンなんて当たり前すぎるファッションだけど、今世は違う。どちらかというと男性が舞妓さんの服を着ているような感覚だろうか。着たいものを着れば良いとは思うけれども。


運動用にこっそり来ている騎士団の団服に似せた私の戦闘服だって、ティアラが着た団服だって特別なものだ。本来女性が戦場に出ること自体ありえないのだから。

我が国は女王制で女王が指揮を取る関係上女性が戦場に出ることも極稀にあるけど、レオンのアネモネ王国にはまず女性用の団服すら存在しないだろう。…………いや、女性が戦場で暴れ回ること自体我が国でも本来あり得ないのだけれども。

トランポリンで跳ねる為にタイツ足で靴も履いていないけれどこれでジャケットとブーツも履いてしまえば完全に猛獣使いだ。

レラさんは過去の猛獣使い衣装の中に入っていたこれをすごく申し訳なさそうに提案してくれたけれど、やっぱりこうやって見られることも考えるとこの衣装で良かったなと思う。感謝しかない。

昔は戦闘服の一部だったタイツスタイルを、まさか大人になってから再びお披露目することになるのはものすごく恥ずかしいけれど!!しかも短パンだから太ももまでラインが見えてしまう!


「団員の人がお勧めしてくれたの。猛獣使いの衣装だけどこれだけは一応女性用で、露出も少ないし私なら身長的にも着れるだろうって」

「そんだけ胸出しといてよく言うぜ」

むぐぅっ!!?

思わず口で返すよりも先に胸を両手で交互に押さえ隠してしまう。

呆れたようなヴァルの視線の先はがっつり私の胸元に向いていた。いやこれは別に見せたくて見せているわけじゃない!!

猛獣使いとしてならまだしも、私はトランポリン演目を行う都合で動きやすいようにボタンを胸元まで開けないと動きにくいからそうしているだけだ。むしろこれで無理矢理ボタンを第二まで締めたら絶対飛び跳ね回った拍子に弾け飛ぶ自信がある。動きやすさ重視に下にレオタードを着るか、ボタンを開けるかと言われたらやっぱりデザイン的にこちらの法が正しいと思えてしまった。

その上でチョッキのデザインが胸を避ける、というかボン存在を強調する型でもある。


「ッこれでも露出が少なくなった方なんです!!!」

「どんだけ見せつけてぇんだテメェは」

違うそうじゃない!!!!

あまりにも不本位不名誉極まりない返しに、顔が熱くなる。まるで露出を減らされたのが私は不満ですみたいな言い方やめて欲しい。むしろ露出を減らして欲しいとお願いした中での試行錯誤の結果だ。


レオンも今気が付いたように私の胸元に目が行き、すぐに逸らされた。ああもう完璧王子にふしだらな姿見せてごめんなさい!しかも元婚約者!!!

いっそこの前の候補だった衣装を見せて露出の幅大削減されたことをわかってもらおうかしらとステイルへ振り返る。「フィリップ、あの衣装を」と言ったら、…………何故か首を横に振られた。


被り物で表情どころか顔も見えないまま、無言でフルフルと首を振られてしまい理由もわからない。さっきアーサーには見せてあげたんだからいいじゃない!!

アーサーまでどうせ顔が隠れているのに、顔の角度ごと私から背けているのがわかる。ここは二人とも露出が減ったと応戦して欲しかった。

けど改めて二人の被り物姿と自分の姿を顧みると、ヴァルの言う通り猛獣使いだなと痛感する。猛獣……というよりも、可愛らしい猫と馬の被り物をした二人はマスコットに近いけれど。

短パンにタイツの女猛獣使いと、マスコット二名。…………ヴァルが開口する余裕もないくらい捧腹絶倒した理由を改めて私は理解する。世にも奇妙な猛獣使いの完成だ。

もしかしたらヴァルは、私よりもステイルとアーサーの被り物姿の方がツボだったのかもしれない。


「それにしても………うん……」

「?な……なに…………?」

再び話題を変えるようにレオンが、逸らしていた顔の照準を私の顔へと向ける。

やっぱりこの化粧もおかしい?!ともう言われる前から覚えがあり過ぎて心臓がバクバク言い出す。レオンの中性的な綺麗な顔が至近距離まで近付いて、それだけでも心臓に悪い。

顎に指関節を添えながら私を見るレオンは、すごく考えているようだった。なんとか誉め言葉を探してくれているのかしらと思えば、つまりはそれだけ本来の顔には酷いってこと?!とまた悪い方向に頭が回る。

じぃっと私の顔を見て細く唸ったレオンは、納得したように一度頷くとすんなりと顔を引いて行った。「いきなりごめん」と謝り、滑らかな笑みを浮かべてくれた。


「ジャンヌって父親似と思っていたけれど、やっぱり母親にも似ているね」


へ????????

まさかの。全く予想だにしない言葉に自分でも目が点になっていくのがわかる。父上似なのはいろいろわかるけど母上似??私が????

ティアラじゃなくって?!と思いながら言葉が見つからない。

ただでさえ今似合わない厚化粧のこの状態でどうしてそんなことを思うのか。

これにはステイルも少し気になったらしく、私の隣から覗き込むように身体を傾けてきた。「あぁ」と今気が付いたように零すステイルも、腕を組みながら納得するように被り物の頭を縦に動かした。


「恐らくいつもと違う化粧だからでしょう。公式の場での母親も目元を強調しているので、それでいつもより似ているのかと」

母上のオンとオフの顔を知っているステイルの証言に、無意識に指先が自分の目元に触れる。初めて母上に似ていると言われた気がする。

基本的に目つきも髪の色とか私は父上似で、ティアラがまるっと母上似だ。子どもの頃も全く私は言われることがなかった。

化粧をアレスにがっつりやってもらった後なのに、反対の手まで頬に当ててしまう。なんだろう顔がぽわりと熱い。口元が緩む。

ステイルの見解にレオンも「なるほどね」と微笑んだ。今はその翡翠色の目が私の目元をじっと見ているのだとわかる。アーサーやヴァルも興味が向いたように四人揃って覗き込んでくるから、それもちょっとなんだか照れる。


「あの方も今の君みたいに目元を吊り上げた化粧をされているから。ジャンヌはもともと目元がきりっとしているから必要ないけれど」

「そうですね。ジャンヌは普段そういった化粧を好みませんし」

「言われてみりゃァ……?目とかがっつり化粧するのは初めて見たかもしれません」

「もともと目がとんがってやがんのに余計化粧で尖らせる意味がねぇだろ」

レオンの言葉に同意するステイルに続いて、アーサーまで化粧の話題に乗ってくれる。最後にヴァルから手痛い指摘が刺さったけれど、でも確かにその通りだったりする。

子どもの頃からラスボス顔の……まぁ父上似でもある目つきの悪さをあまり目立たせたくなくて自分でもそういった化粧は避けている。専属侍女のロッテやマリー、それに公式の場での化粧師もわざわざ私の目つきの悪さを際立たせようとするような意地悪じゃない。

母上は逆に本来の目つきがティアラと一緒で柔らかい愛らしい目だから女王の威厳の為にそういう化粧をしているのだろうけれど……。まさか、こんなところで母上に似ていると思われるなんて。

自分でも表情筋が変になっているのがわかる中、アーサーに「どうかしました?」と尋ねられる。ぴくんぴくんと口端が痙攣するように震える中、曖昧な笑みで口を動かす。


「へ………変、じゃない?この化粧……」


「変じゃねぇです」

「むしろ新鮮で良いと思うよ」

すんなりと。アーサーとレオンの第一声がなんだかものすっごい嬉しい。

さっきまでキツイ顔にケバケバ化粧かと心配だったから、あっさりそう言って貰えたことに胸を撫でおろす。知り合いに見られるのも怖かった化粧なのに、今は普段にもこの化粧アリかしら……?とちょこっと思ってしまう。


「もともと化粧に負けれるようなツラじゃねぇだろ。クドい顔してる分際で今さら何いってやがる」

「姉、ッジャンヌは化粧が不要なほど美麗なだけだ」

やめてなんか今褒められるとくすぐったい!!!!

ヴァルは誉め言葉のつもりはない筈だしステイルが褒めてくれるの事態は珍しいことでもない筈なのになんだかすっっごい今はふわふわする!!全身を羽で擽られるような感覚に身震いする。なんだろう顔熱い!!!

我慢できず両手で頬を覆いながら視線が落ちて俯いてしまう。ふにゃあ、と表情筋のどれもが機能せず緩んでいるのだとはっきりわかる。

化粧に負けないと言われたのがフォローに聞こえたからか、それともさっきは顔を逸らして「良いと思う」としか言ってくれなかったステイルが褒めてくれたからか。それともアーサーとレオンの全肯定のお陰か。顔がくずぐったいを通り越して麻痺している気さえする。


「……おい。なにさっきからニヤけてやがる?」

「ふぇ?!べっ、別に?!そっ………~。………て、照れてるだけです……」

あー?とヴァルからの低めた一音に私はちらりと目を逸らす。

ヴァルに顔を顰められながら睨まれても、上手く顔が引き締められない。

顔の熱さを体調が悪いと心配かけたくもないしと正直に言ったつもりだけれど、なにが照れてるのかわからないのだろう。大丈夫私もわからない。

一度顔ごと逸らして呼吸を整える。すーはーと息を吸っては深く吐き、いつの間にか早まっていた動悸がまた落ち着いてから四人に顔を向ける。……何故か、今度はレオンの顔が赤くなっていた。

目が珍しいものでもみるように目を丸くして、ぽかりと口が開いたまま顔が茹っている。隣のヴァルが対照的に私とレオンを見比べてニヤニヤ笑っていたから彼が何かしたのかもしれない。

ステイルとアーサーは二人揃って被り物の存在を忘れたように手の甲や腕が被り物にぶつかっていた。多分あの辺はちょうど本物の顔がある位置だろうか。二人して頭でも抱えたいのかもしれない。

化粧を褒められただけで今更照れるとか本当何を今さらと私だって自分に思う。式典でだって来賓に「今日もお美しい」とか毎回お世辞は貰いなれているのに。取り敢えず今はレオンだ。


「ヴァル、何をやったのですか貴方は」

「あー?テメェが鏡見て言いやがれ」

酷い。化粧大丈夫発言の後に鏡はあんまりだと思う。化粧に負けないって言ってくれたくせに!!

むっと唇を尖らせれば、ヴァルはまたニヤニヤと嫌な笑みを広げて来た。さっきまで背中を摩られるのも嫌がっていた相手であるレオンの肩へ腕を回し自分の方へ引き寄せる。やっぱり何かやったんじゃないのこの人が!

「ちょうど良いじゃねぇか。レオン、折角だ明日見に行ってやろうじゃねぇか。最前列で」

「!!!!けっ、結構です!!!!べっ、別に見せるほどの演目でもありませんから!!来るだけ時間の」



「ッッおいジャンヌ!!!!!なんつーこと大声で言ってやがる!!!」



ひぃっ!?

冷やかししてやるぜ発言をするヴァルに思い切り断れば、うっかり大きな声で言ってしまった。客に対して見に来るものでは発言にアレスの怒鳴り声が飛び込む。まずい!!今のは私が悪い!!

さっきまでチケット販売に精を出していたアレスがぐるりんと被り物ごと首をこっちに回してきていた。傍に立っていた団長さんもライオンの頭でこちらを注視する。二人があくせく働いている間にわいわい長話し過ぎた。


お客さんの列を整列させていた団長さんが丸い目のまま駆けてくる。どうしよう怒られると思ったけれど、むしろ楽しげな笑い声が聞こえてくるからこれはそろそろ第二戦目でトランポリンかそれともヴァルとレオンもリクルートか客と勘違いしているかと思ったら




「君達!!ああ良かった会いたかったぞ!!!」




がばっ!!と途中から両腕を広げて猛タックルをしてきた団長さんを、次の瞬間に無防備なレオンをよそに手前に立っていたヴァルは苦々しい顔で両腕を掴み防ぐ。

…………そういえばここも知り合いだったと。被り物越しでも輝く笑顔だとわかる団長さんとこの上なく不快そうに顔を歪めたヴァルの顔を見て思いだした。


本日2話更新分、次の更新は火曜日になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ