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フリージア王国備忘録<第三部>  作者: 天壱
我儘王女と旅支度
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そして整える。


「「セドリック様!!おかえりなさいませ!!」」


「ディオス、クロイ。すまないな。せっかく来てくれたというのに少し遅くなった」

宮殿へと入ってすぐ、見知った双子が背筋を伸ばしていた。

いえ。とんでもありません!と今日二回目のセドリックの対面にいつもと変わらず緊張を露わにするクロイと、目を煌めかせるディオスは揃って従者の制服だ。

さっきまで厨房で皿洗いを手伝っていた二人だが、セドリックの馬車が到着したと聞いてからすぐに身支度を整えて他の使用人達と同じく彼を迎えるべくの配置についていた。

今すぐにも飛びつきたくて前のめりになるディオスを、クロイがそうなる前に後ろの手で裾を引っ張った。せめて休憩時間の時は良いが、それ以外は使用人なのだからやめなさいとクロイも、そして給仕長と執事にも言われていることだ。なのに、週一回会える度にディオスは一瞬忘れて飛びつきたがる。

まだ何もしていないのにクロイに服を引っ張られ若葉色の瞳をディオスは尖らせる。しかしその無言のやり取りもセドリックにはただただ微笑ましかった。

相変わらず仲が良いなと溢しながら、二人へと自分の方から歩み寄る。その肩にそれぞれ手を置き、男性らしい整った顔立ちで笑いかけた。


「ちょうど良い。これから書類を読み込むから二人で茶を用意してくれ。そのまま俺の部屋の清掃で良い」

はい!!と声を合わせる二人は教育係と共に早足で厨房へと向かって行った。

今日は紅茶淹れるの僕の番だからね。クロイはもうセドリック様に美味しいって言われただろ!関係ないでしょ。と、遠ざかっていく中も兄弟の会話は絶えない。

セドリックの厚意で茶を淹れることも許可されている二人だが、クロイの方が紅茶を淹れる上達も早かった。毎回自分が淹れたいと取り合う為順番で淹れているがディオスは早く上達したくて仕方がない。クロイが淹れた紅茶が褒められているのが凄まじく羨ましかった。


給仕のプロ達に見守られながらディオスが紅茶を淹れる中、クロイも菓子やワゴンの用意を進める。このお茶の時間が一番の楽しみの為、二人揃って覚えるのも一番速かった。


週に一回二人が使用人として自分の宮殿に来てくれるこの日だけでもなるべく出かける数は減らしたいと考えるセドリックだが、とうとう待ちに待った郵便機関の試験運行が始まった今はそうもいかなかった。

二連休初日の今日も朝食の後すぐに宮殿へと向かったセドリックは、いつもの倍は仕事を片付ける為のやる気でいっぱいだった。この日を楽しみにしているのはファーナム兄弟だけではない。

当然、……来月の長期外出に連れていけないことを残念に思うのも。


「もう来月かぁ~。セドリック様にもジャンヌにも会えないのもやだなぁ……」

「ディオス。プライド様でしょプライド様。それにプライド様には会えないの今更だし」

「!先週は会えただろ!!」

お茶を淹れ終え、セドリックの整った部屋を拭き掃除しながら会話をする二人にセドリックはまた音には出さず笑ってしまった。

毎週ほぼ確実に会えるセドリックと異なり、プライドに会える数は少ない。先週は国際郵便機関の起動を前に調子はどうかも含めてお茶に来てくれたプライドだが、それも久々だった。

そして、たった一週間しか経っていないにも関わらずもうプライドに会いたいのだろうディオスにはセドリックも色々と気持ちがわかる。


ムキッと自分を睨むディオスに、クロイは敢えて目を合わせない。今日どころか、先週からずっと「次ジャンヌにいつ会えるかな」「ジャンヌやっぱり美人だよね」「ティアラ様にも会いたいなぁ」「アーサーはさ」「フィリップって」と、ジャンヌ一人に会っただけでも煩かった。

二人きりになる度にプライドの話題ばかりする兄に、自分まで会いたい気持ちが引っ張られて大変だったことをクロイは今も根に持っている。


「そう言うな。本当ならばお前達も連れて行ってやりたかったが、学校もあるからな。流石に一日二日で往復できるような場所でもない」

書類を片手に頬杖を突きながら笑うセドリックは、ステイルの特殊能力者を頭の中だけで思い返しながら口を動かす。

もしディオスがステイルの特殊能力を知っていたらここで二連休の日だけでも来たいと言ってクロイに怒られていたかもしれないなとこっそり思う。二人を連れて行きたい気持ちは嘘ではないが、その為に第一王子であるステイルに特別処置を頼むのも気が引けた。

何より、経由する地を考えれば特にディオスは危険だ。二人にもラジヤを経由することはセドリックも話していない。当然、そこにプライドが同行することも。


「土産は何が良い?ミスミか旅途中で何かあれば買ってこよう」

「!!僕!お菓子とか食べ物が良いです!家で姉さん達と食べれるのとかっ……」

「ちょっとディオス、図々し過ぎ。一回くらい遠慮しなよ」

良いではないか。と、今度はディオスよりも先にセドリックが入った。

あまりにも遠慮が無さすぎるディオスに窓を拭きながら眉を寄せたクロイだが、セドリックからすれば言ってくれた方が嬉しい。遠慮などそれこそ社交界で慣れ過ぎたやり取りだ。結局希望を言うのならその方が手間もない。

セドリックが間に入ったことで口を閉じるクロイは少しだけ視線を落とす。こういう時に素直な兄が羨ましいとは思うが、やっぱり自分はセドリック相手にも距離を置いてしまうのだと実感もしてしまう。


ディオスの希望に、ミスミや経由予定地で何か有名な食べ物などあっただろうかとセドリックは頭を捻る。

ハナズオ連合王国へ貿易を望んできた国にもミスミ王国がありはした為、その際に国の情報をある程度は入ってきているが貿易品はまだしも名産品までは把握していない。どちらかといえば経由するフリージア王国内での村や地域の方が、城の図書館で読み込んだ分食べ物等の情報も多くある。

確か経由するフリージア王国内の村で干した果物が美味いところがあるらしいと書籍にと溢せば、ディオスも声が跳ね上がった。どんな果物ですか?!と尋ねれば、セドリックも帰り道でもし珍しい果物の干したものがあれば買ってこようと約束した。次に、口を噤んだままのクロイへ軽く目を向ける。


「クロイは?遠慮はいらん。宝石を望むわけでもないだろう」

「僕は、……ご無事に帰ってきて下されば、それで。帰ったら、またお話を聞かせて頂けると、嬉しいです」

ぽつぽつと、思いつくままに呟くような声で答えるクロイは少しだけ気恥ずかしさに口の中を噛んだ。目はまだ合わせられない。

自分も思い付いたのはディオスと同じ食べ物だが、それをここで正直にいうのは躊躇われた。ただ、今は遠方に行くセドリックの身の安全が気になった。いくら護衛がいても危険が伴うことは変わらない。


クロイの控えめの希望に、ディオスも「あっ僕も‼︎」と迷わず声を上げた。二人の気持ちが嬉しいセドリックも、その願いには笑みが溢れる。

「わかった」「約束しよう」言葉を掛けながら、クロイと目が合うまで見つめ続ける。沈黙に引っ張られるようにクロイが目を向ければ、そこですぐにセドリックの瞳の焔と目が合った。


「土産話をたくさん用意しておこう。帰ったらじっくり聞いてくれ」


はい、と。声は二重音のように綺麗に合わさった。

休憩時間になったらまた勉強を見させてくれ。そう声を掛けたセドリックは、再び資料に目を戻す。


「明日はアネモネに行かれるんですよね」

「ああ、式典に招かれている」

「セドリック様、アネモネの王子とも仲が良いですよね」


クロイにも土産は食べ物で良いだろうかと、軽く当てをつけながら。


本日二話更新分、次の更新は木曜日になります。

よろしくお願いします。

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