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フリージア王国備忘録<第三部>  作者: 天壱
我儘王女と旅支度
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Ⅲ8.王弟は準備し、


「さすがセドリック王弟殿下。短期間でここまで素晴らしい概説書をご用意頂けるとは思いもしませんでした」


しかも見事な構成で、と。

会議後のセドリックを賞賛するのは城の上層部だった。セドリックが統括する国際郵便機関との報告と打ち合わせが行われ、現状では大きな問題はない。

フリージア王国で用意した試し用の手紙数十通をそれぞれ国内の配送手続きから配達員への出国まで順調に行われた。一部は局員の通信の特殊能力者、そして試運転ということもあり特別に各配達員の状況報告役として特別に通信兵である衛兵や騎士も一人ずつ配備された。

試運転用の手紙の送り先は全て、遠方にあるハナズオ連合王国。長距離の地に、王族専属配達人以外でも無事に全組が届けられるのか。そして平均してどのくらいの期間が掛かったのかの確認も含めている。


当然セドリックも含め全員が、〝配達人〟のような速度や規模は安易に可能ではないこともわかっている。移動手段に長けた者と護身に長けた者の最低二名は最低から、複数人で一つの班になっている配達員組もいる。二人一組が最も迅速か、それとも十人近い人数でのひと班の方が効率的か。

長距離移動に長けた能力、身を守ることに長けた能力、水や食料補給などに長けた能力、野宿に長けた能力、地理に長けた能力。それが本人達の自力のものか、それとも特殊能力かも組によって異なる。


その組全ての経過を細かくフリージア王国の国際郵便機関本部へと報告をさせていた。

その本部からの報告書がまとめられ最後に行きつくのがセドリックの元である。


試運行を初めてから数十はあるそれぞれの組の配達員構成と詳細、そして配達中の経由地や進捗も全てセドリックは一度の報告で記憶した。そしてその報告を見やすくまとめさせた資料の公開と報告、今度の対応策の相談が今回の会議の主要内容だった。

途中で道に迷う、裏稼業に遭遇する、馬が疲れて動かなくなった、予定を下回る距離進行で予定外の野宿になる等小さな問題はそれぞれあったが、現状では大きな事件に発展することはない。

ハナズオ連合王国までは王族の馬車でも十日はかかる距離だが、少なくともセドリックがアネモネ王国と女王達と共にミスミ王国のオークションへ向かうまでには全組が到着もしくは失敗がはっきりしている。

ある程度時間が掛かっても良い、それよりも安全と手紙の保護を優先するようにという方針の元、今日の会議も波立つことなく終わった。

試運行が始まってから日々行われている報告会の会議だが、城の上層部ほぼ全員に対し、国際郵便機関側はセドリックを含めて彼直属の部下にあたる十名のみである。


裏稼業に遭遇や危険があっても、今のところ怪我人も出ていないことはセドリックにとっても幸いだった。

念のために通信兵という名のフリージア王国の優秀な衛兵が付いていることも安全の要因である。だが完全起動へと移ればそこには通信兵の衛兵という護衛がいない分、余計安全維持が求められることになる。

だからこそ今、試運転を兼ねて配達員の構成からその平均を把握する必要があった。通信系統の特殊能力者数の関係でたった数十しか一度に放てなかったが、ここで得た記録は大きい。

最も望ましいのは全組十日前後でのハナズオ連合王国到着だ。


「いえ、大事な本格始動を前に国から身を空ける立場として当然のことです。勿論このような物がなくとも、優秀な部下達に任せているので心配はないと思っておりますが」

柔らかく笑むセドリックに、上層部はいえいえと賞賛も含めて首を横に振る。

当然セドリック以外の国際郵便機関の幹部が優秀であることはわかっている。その選別には上層部である自分達も関わっているのだから。

しかし、だからといってこの試運転期間後に一度統括役やフリージア王国の代表である女王まで国を開けることに全くの不安がないわけでもなかった。


特に郵便機関については、統括役であるセドリック以上にこの機関に詳しい者などたかが知れている。セドリックに並べられるのも発案者の第一王女くらいのものである。

そんな中、セドリックが自分の不在中にもしもの時の為に目を通しておいて欲しいと用意した緊急時マニュアルは、上層部はもちろんのこと同じ国際郵便機関幹部も願ったりの品だった。もしセドリックが不在中に問題が起こり、最後の決断が必要になった場合そのマニュアルに最も則した方向に決断すれば良いのだから。

セドリック自らが書記官に命じて書かせた内容はそのまま〝統括役〟の意思である。


アネモネ王国と共にミスミ王国のオークションへ参列すると決まったのは、ついひと月ほど前。たったそれだけの短期間に詳細なマニュアルを作り上げたセドリックには誰もが舌を巻いた。本来であれば、本始動を行ってから一年は掛けて作る筈だったものを、セドリックは「気休め程度だが」と現時点で考えられる全てをひと月で作り上げてしまったのだから。


「帰国後は、すぐに部下達からの報告を纏めます。精巧な概説書も一年以内に完成させることをお約束致しましょう。もし軌道に乗れば、帰国後早々に件の人材募集の方にも取り掛かりたいと考えております」

「お任せ下さいセドリック様。セドリック様のご帰国までには統合も必ず実現させてみせます」

ええ、是非、期待しております。と上層部もまたセドリックと幹部達とのやり取りに鼻が高くなる。

配達員の動きは概ね順調。これから順調に規模までも大きくしていこうとしている郵便機関には期待しかない。

ここで終わったわけでもない。安全性と対処法を確認できれば今度はハナズオ連合王国にだけでなく同盟国各国へも試験配達を行うことになる。セドリックの不在中も停滞というわけではなく、部下達には別の任務も定まり、動いている。次の式典ではまた嬉しい報告が約束されたようなものだ。


「セドリック王弟殿下、宜しければこの後もう暫く語らせては頂けませんでしょうか。是非セドリック王弟殿下の御考えをお聞きしたいのです」

「申し訳ありません。今日はこの後大事な予定が入っております。……明日の11時で宜しければ、二時間ほど空いております。もし可能であればダライアス殿が先月仰っていた自慢の料理人とやらの腕を見せて頂きたい。それとも経営されておられるレストランの方がお勧めでしょうか。同席者はこの場の何人でも構わない」

おお、是非!料理人に腕を振るわせましょうと。一か月も前の話題を覚えられていたことに嬉しそうに目を輝かせる上層部はそのまま屋敷で歓迎致しますと約束を交わした。従者を持たずとも一生分の予定を把握している分は全てセドリックの頭に入っている。


上手く上層部からの誘いを落ち着け、セドリックはそのまま足早に王宮を後にした。

上層部達と別れを告げて会議室を後にし、そして部下達にも引き続き各組の報告と経過は自分の元へ寄越すようにと告げ、馬車に乗る。

同じ王居とはいえ、王宮から距離が離れているセドリックの住まいは馬車での移動が主流だ。庭園を通りながら敢えて歩いて散歩ついでに戻るのもセドリックは好きだが、こうやって部下や上層部に追われる恐れがある時はやはり馬車が一番だった。なにより、今日は大事な予定が押している。


馬車が走り出してから一息吐くセドリックは、なんとか予定時間の許容範囲で抜けられたことに安堵する。

三分五十秒遅れたが、三十分や一時間もその場に残された時と比べれば充分検討した方である。一分一秒が長く感じる今、気を紛わすように今日の会議での報告事項を頭の中で巡らせた。

二人一組よりも複数人で行動させた方が効率も各自の負担も少ない。そして敢えて時間や出発地点をそれぞれずらしバラけさせた試験運行だったが、やはり馬の扱いに長けた者の荷馬車や移動に特化した特殊能力者がいる組が圧倒的だった。

今後、移動関連の特殊能力者配属以外の組も配達所用時間に功績を残せれば、移動に相応しい馬の大量購入も必要になる。

そして功績が残せなければ、やはりフリージアの特性を生かして特殊能力者の力を充分に発揮できるようにしなければならない。

今回は通信兵も共に行動する為除外したが、中には単独での配達を強く希望する者もいた。移動での特殊能力があるが作用は自分だけの為、誰かしらと組む方が自分の力を発揮できないという考えだ。


セドリック自身、騎士団でも高速の足を持つハリソンを始めとした移動特化型の特殊能力者を何人も目にしている為その言い分も理解できる。一人であれば危険性は高まるが、同時に機動性も高くなる。

ならば、何かしらの試験などで一人行動を望む者の実力を推し量り選抜に通った者だけは一人行動を……と思考が没頭しかけたところで、馬車がゆっくりと原則を始めていった。

到着致しました、と御者の言葉を聞き、セドリックも我に返る。開かれた扉と共にいつもより少し急ぎ足で馬車を降りた。

お帰りなさいませと、使用人達に迎えられる中で



「「セドリック様!!おかえりなさいませ!!」」


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