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フリージア王国備忘録<第三部>  作者: 天壱
越境侍女と属州

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Ⅲ78.越境侍女は割り当て、


「楽しそうだし良いんじゃないかな。お互い許可は得ているだろう?」


そう、アネモネ王国の第一王子が提案したのは日付が変わる十五分前だった。

プライドも合流し、互いに情報を共有し終えればもともと遅い時間だったこともあり充分深夜に及んでいた。明日も早朝からジャンヌとして貧困街と続けてサーカス団へ向かう予定が入っているプライドは、このまま王族の宿には戻らず貸切宿に泊まることを決めた。


レオンだけでも王族の宿に返そうとするステイルをレオンも断り、彼もまたこのまま宿に素泊まりすることを自ら希望した。自国の騎士に一枚の書状と任務と共に自分の宿へ報告も任せたレオンは、既に泊まる気だった。

プライド達が女王ローザに調査期間中は護衛を付けての条件付きで深夜帰還や外泊の許可を得ているのと同じように、彼女らに同行するレオンもまた事前に家臣達に断りは入れてある。今回はアネモネの騎士達も同行だ。


「本当に良いの?リオはサーカス団やましてや貧困街にも行くわけではないし、別行動なのだから……」

「うん。だけど僕も朝から動くことは変わらないから。またヴァルと情報収集でもするから気にしないで」

ひらりと軽やかに手を振りながら滑らかに笑うレオンは、サーカス団へ潜入はしない。セドリックと同じく王族である彼はあくまで〝商人〟役へ徹することになる。プライドとその補佐であるステイルはまだしも、仮にも王族である立場の人間が安易に見世物になるわけにはいかない。

市場も酒場もどこも興味深く、レオンなりに情報収集以外でも意義のある時間を過ごせてはいる。

特に、明日はプライドの協力以外にも彼自身に用事があることをヴァルは知っていた。げんなりと息を吐きながら、自分の分の部屋はあるのかと頭の片隅で考える。最悪の場合は宿の裏で野宿も鑑みる。

宿を借りる金はあるが、たかが数時間の仮眠の為も面倒だった。トントンと組んだ腕の指先で叩くヴァルに、レオンは振り返りざまに「部屋なら充分な数借りてるし」と笑いかけた。

騎士は休息を回すのも入れても殆どは護衛である以上、ベッドを使う人数は知れている。


「女性のジャンヌは勿論別室だから安心してくれて良いよ」

「あ、ありがとう……」

にっこりと笑うレオンに萎縮気味になりながら、やはり自分は別室かとプライドは半分安心し半分残念になる。

ティアラがいないのだから仕方がないが、お泊まり会のような感覚に自分は一人個室なのはちょっぴり寂しい。しかしだからといってここでお泊り会ごっこしたいなどと大人気ないことは成人王女として言えるわけもない。


レオンが言うのならばと、ステイルも早速そこで部屋割りを考えることにした。

もともとは宿泊よりも、内密な話を聞かれることがない為に貸し切った階層の全部屋の為、具体的な割り当てまでは決めていない。

今自分達がいる部屋が最も上等で広い間取り部屋だが、王族や集団行動を嫌がる者から騎士もいる中で適当には決められない。

取り敢えず二番目に上等な隣の寝室をプライドに、と。先ずは女性である彼女の部屋を早々に固定した。王子であるレオンもセドリックもそこに異存はない。同じ王族同士でも女性に譲るのは当然、しかも相手はプライドである。

それに伴い、エリック達も騎士同士で互いの護衛配置と休息の回し方も相談し合い始めた。


「護衛の方々はもう一つ四人部屋があったので、ここより少し狭いですがそちらで自由に回して貰えれば。リオ殿の護衛も同室で宜しいでしょうか?」

「構いません。彼らも休息を回す形になるでしょうし」

僕から伝えておきましょう。そう続け快諾したレオンは問題ないと判断する。アネモネの騎士とフリージアの騎士は新兵合同演習も通じ、異国同士とはいえある程度の親しみもある。今自分の護衛についている騎士も、今までフリージアへ定期訪問でも同行してきたこともある面々である。

指定された部屋は四つのベッドが全て床に並ぶ今の部屋とは異なり、二段ベッドで少し手狭にはなるが、休憩を回すにはちょうど良い。互いの状態や位置を把握する為にも同室が得策でもある。

角部屋でもなく並ぶ部屋の中でも中央に当たる位置は、他の部屋の異常も感知しやすい。


「あとは……、一度全部屋確かめて決めるか。部屋の広さとベッドの数で考えよう」

「!でしたら私がお答えします。昨日部屋は全て確認致しましたので、わざわざフィリップ殿がお手間をかける必要はないかと」

椅子から腰を浮かしかけたステイルを、セドリックが顔の横で挙手し名乗り出る。廊下の向かって右から部屋の広さとベッドの数まで細かな壁の傷や間取りの違いまで一寸の狂いなく記憶している。

セドリックの言葉にステイルも「そうだったな」と改めて彼の記憶力の良さを関心させられた。今回は些細なことだが、国一番の天才と名高いステイルも王族として完璧と評価も高いレオンも、たった一度しか何の気もなく目にしただけの部屋の詳細など全ては覚えていない。


セドリックから部屋の配置を全て告げられれば、そこでステイルが全て判断する前にヴァルが動いた。

床に転がした荷袋を背負い直し、扉に向けて歩き出す。気付いたステイルから「どこへ行く」と尋ねれば、王族の問いにヴァルの口も本人の意思とは関係なく正直に返した。


「西の角部屋貰うぜ。そこなら文句もねぇだろ」

休むのならばうだうだせずにさっさと休みたい。

セドリックが告げた中から最も狭く古い一人部屋を選んだヴァルは、相部屋をあてがわれる前にと唾をつけた。一日の騒動に加え、瞬間移動でセフェクとケメトと会い、セフェクに昨日会えなかったことで怒鳴られた後だ。可能な限りすぐに休みたい。

レオンから「もっとゆっくりしていけば良いのに」と首を傾けられたが無視をする。ベッドも上等なのは当然いまいる部屋だが、もともと床に座り込んでいたヴァルはベッドなど硬くても柔らかくても変わらない。


「部屋数も余っていますしもっと良い部屋でも配分できると思いますよ」

「寝られりゃあどこも一緒だろ。……ジャンヌサマのベッドなら入ってやっても良いぜ?」

そういう話はしていないでしょう。と、呆れて肩を落としながらプライドは息を吐く。

階層の部屋全てを貸し切っている今、わざわざ一番粗末な部屋を選ばずとも余りある。ステイル達が部屋配分を決め終わるまで待てばと提案したのにも関わらず、あいも変わらずニヤリと不快に見える笑みを向けてくるヴァルに引き留めるのも諦めた。

アーサーやステイルからも「ふざけンな!」「もう良い好きにしろ!」と鋭い声を投げられれば、満足げにヒラヒラと手を振っていの一番に確保した自室へとヴァルも去る。

バタンとざっぱに閉じられた扉を見届けてから、レオンはちらりとプライドへ目を向けた。


「ジャンヌも。先に休んでいて良いよ。部屋は決まったし、君が一番疲れただろう?」

「あっ。……はい。そうね、ありがとう」

ヴァルと同じく部屋が確定済みのプライドへも就寝を促すレオンに、全員が一度視線を集めた。

まさか皆が解散するまで名残惜しいと言えるわけもなく肩を狭めたプライドは、曖昧な笑みで自分の部屋の方向に目を向ける。確かに女性の自分がいつまでも理由なく男性陣のいる中に入り浸るわけにもいかないとは理解する。

しかしレオンに答えた後も腰を上げることなく、ベッドの上にちょこんと座ったままのプライドに今度はステイルが眉を垂らしながら笑みを向けた。


「宜しければ妹に会いにいきますか?そこで休んで頂いても結構ですよ。寝てしまわれたらアーサーに運ばせますから」

「!いえ大丈夫です!!……〜っ、そ、それでは、おやすみなさい……」

アーサーが「!だ?!ステッ、フィリップ!」と、勝手に自分を指名してきたステイルに思わず声を荒げるとの殆ど同時に、プライドも両手と首を横に振った。

うっかり一人じゃ寂しいのまで読まれてしまったことに、慌てながらも顔が熱くなる。まさかのティアラにと言われると、ちょっぴりお言葉に甘えたくもなったがこんな深夜に「寂しいから」の理由だけで可愛い妹を夢から起こしたくない。それこそ子どものすることだ。自分以上に護衛や戦闘で疲れている筈のアーサーに、更に自分の回収移動までさせるのも申し訳なさすぎる。


仕方なくベッドから立ち上がり、早々に部屋移動を決める。

お先に、おやすみなさい、何かあったら呼んでねと言葉を重ねて廊下へ出るプライドの背中にエリックとハリソンも続いた。

最初に護衛と見張りを担うことにした二人に任せ、アーサーも休息用の部屋へ移動できる流れだったが、扉前まで見送るだけ済ませて止まった。まだステイルを始めとする王族も先輩騎士のマートとジェイルもいる中で自分だけが休みに去るのは落ち着かない。廊下に控えるアネモネの騎士へペコリと挨拶をしてから自分の手で内側から扉を閉めた。


「……では、ダリオの部屋前にはマートを。俺の部屋前はジェイルに護衛を頼む方向でどうだ?」

「!お言葉ですが、フィリップ殿の元に護衛が一名のみなのは……。私ならば結構ですので、どうぞ二名ともフィリップ殿に」

「そうはいかないだろう。それならば俺と相部屋にでもするか?」

いえそれは申し訳なく……!と、ステイルへ遠慮した筈が余計に恐れ多い提案を返されたセドリックは勢い良く首を横に振る。

王族一名に騎士一名。プライドの従者的立場の強いステイルならばまだしも、本来ならば異国の地の護衛で王族には二人ついているのが望ましい。

早速部屋割りに難色を目にしたアーサーは、ならば自分もプライド以外の王族の護衛に立つべきだろうかとも考える。騎士として不眠不休には慣れている。

アネモネの騎士に守られるレオンの部屋は早々に決まったが、フリージアの王族であるステイルとセドリックの護衛を分けるのは今の人数では悩ましかった。ただでさえ、ステイルが宿泊しようと考える部屋とセドリックの宿泊部屋は左右で離れている。


「……でしたらフィリップ様が護衛を〝向こう〟から手配されれば良いンじゃないですか?」

「仮にも宿屋の人間が下の階にはいるんだ。あまり増やしたくない。ローランドだって報告後には戻ってくる」

「ならローランドさんが帰還次第ジェイルさんと一緒にステイル様の護衛についてもらって、それまでは自分が護衛に立ちます」

アーサーからの提案に、ステイルはむっと唇を尖らせた。

アーサーに不要な負担をかけるくらいならばやはり一人二人騎士を王族の宿から瞬間移動で連れてこようかと考え直す。瞬間移動を使えば女王であるローザのいる宿からでもフリージアの城からでも騎士を派遣することは難しくない。しかし、万が一にも三階の人数が増えたことを店主に気付かれれば不信感や特殊能力者がいるともバレかねない。


眼鏡の黒縁を押さえながら思考するステイルに、アーサーはそれも嫌なのかと息を吐く。

もともと騎士一人でも部屋の配置の関係で廊下でそれぞれ並ぶ騎士はそこまで離れない。ステイルの部屋前に騎士が一人でも二人でも守り抜けると思うアーサーは、本来ならば最初のステイルの提案でも良いと思う。しかしだからといってステイルと違いセドリックには強く言えない。

セドリックも、場の空気の移り変わりに、自分なりに配慮したつもりが逆にステイル達を困らせてしまったらしいことに少しずつ焦燥を覚えた。ステイルの安全確保を優先したかっただけだが、その結果ステイルの手間をかけてしまうのならば本末転倒である。ここはやはり自分がステイルの提案に素直に甘え騎士を一人部屋前に置いてもらう形で落ち着こうと口を開き出したその時。



「いっそこの部屋で全員固まれば問題も解決するんじゃありませんか?」



滑らかな笑顔のまま放たれたレオンの提案に、ステイルだけでなくセドリックも目を丸くした。


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