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フリージア王国備忘録<第三部>  作者: 天壱
我儘王女と旅支度
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Ⅲ6.我儘王女は説明し、


「けど嬉しいな。遠征先でもプライドに会えるなら僕も楽しみが増えるよ」


滑らかな笑みで微笑むレオンは、テーブルに広げた菓子を前にカップを取った。

定期訪問でアネモネ王国に訪れたプライドに、本当であれば城下で評判の輸入雑貨店を案内しようかと考えていたレオンだが内密な話を聞けばすぐに予定も変更した。

しかも今回はプライドだけでなくステイル、ティアラも真剣な面持ちで訪れれば、ただならない気配も感じ取る。何故昨晩訪れたヴァル達が朝になったにも関わらず未だ帰らないで自分の部屋で時間を潰していたのかもやっと正しく理解した。てっきりプライドと会いたくて珍しく待っているのかと思っていたレオンだが、実際に彼が待っていたのはセフェクとケメトへの説明役だったのだろうと考える。

今も部屋の壁に寄りかかり座り込むヴァルは、レオンの部屋から持ってきた酒を順調に一本一本減らしている。既に二回目になる事情説明に興味もない。


「今年のオークションは僕も趣向を凝らす予定だったから、是非プライドにも見てほしいな。国境の城壁にも立ち入り許可を国王から貰ったから、予定が合えば一緒に上がろうよ」

プライドが女王のミスミ王国オークションへ極秘に同行。途中経由先であるラジヤ帝国で一時滞在し、予知した民を見つけ出し救出すると。そうステイルに説明されてから何度も目を見張ったレオンだが、今は大分落ち着いていた。


極秘であるその機密を教えて貰えたこともそうだが、本題であるそのラジヤ帝国での合流と協力もレオンには願ってもない依頼だった。

どちらにせよミスミ王国にアネモネ王国代表として訪れる必要がある以上、そこでもプライドに会えることは純粋に嬉しい。寧ろ彼女がよりにもよってラジヤに行くというのならばなるべく自分も力になりたい。

今回は最初から陸路での旅予定だったが、その出発も早めようと考える。もともと一、二日程度は早めに着くように余裕を見ていた長旅である。いっそ、フリージア王国からこうして極秘裏の情報も与えられたのならば堂々とフリージア王国と共に旅ができないかとまで思考する。

アネモネ王国にとっても、フリージア王国騎士団と共に行動できる方がより安全も保証される。フリージア王国も協力をこうして臨んでいる以上、早いうちから合流し共に行動する方が都合も良い。なによりプライドを隠す良い目晦ましにもなる。王族が増えれば増えるだけ護衛も増え、つまりは人も増えるのだから。


「正直、こんなに早くラジヤに足を踏み入れるのもどうかと思うけれど。でも、フリージア王国の女王も許可を降ろしたことなら僕には文句も言えないな」

「心配してくれてありがとう。母上に許可を得られたのもジルベール宰相のお陰なんだけれどね」

正直な言葉を口にするレオンにプライドも小さく肩を竦めながらカップを取る。

レオンもまた、プライドをラジヤに関わらせたくないという気持ちはある。しかし、同時に次期王となる者として永遠に避けられるものでもないと理解している。

ラジヤ帝国への無条件での通行権利を得たフリージア王国は、ただでさえ今後もラジヤを経由することも方が賢い選択になる時は来る。ハナズオの防衛戦の時のように国交としてラジヤ帝国の皇帝と関わらなければならない時もある。

いくら最高権力者になろうとも「昔怖い思いしたから近付きたくもありません」と拒めば、それだけで国として多くの選択肢を失うことにもなる。そういう意味でも、プライドが公的に城や国から出られるようになる前にラジヤへ関わる予行演習にはなる。変に遠回しさせ囲い込み続ければ、プライド自身にラジヤという言葉すら禁句になる時期がくるかもしれないとまでレオンは冷静に考える。

個人的には不安で心配だが、それ以上に彼女がどういう理由であれ踏み越えようとするならば背中を押したい。もし彼女にラジヤが不要な傷を与えようものならば排除したい。


「相変わらず優秀な宰相だね」

滑らかな笑みの下に隠しながら、プライドの困り笑顔にレオンは改めて絶対にフリージア王国と旅も同行の方向で進めようと考える。

自分と同じことを思考済みだろう第一王子に目を向ければ、すぐに漆黒の瞳と目が合った。にっこりと、含みを持つ笑みを返されレオンから同じ温度の笑みでそれに返した。

それだけで、彼もまた今回も協力してくれるつもりのようだと発言前から理解する。


「もしアネモネ王国さえ良ければ、レオン王子と騎士団も我が国と共に出向はどうかと考えています。ご一緒されるセドリック王弟も協力してくれることは了承済みですし、三国の代表が移動すれば、道中も安易に襲ってくる者はいません」

「おっ襲ってきても我が国の騎士団なら絶対安全ですっ!!」

ステイルの言葉にティアラも前のめりに拳をぎゅっと握る。

自分がプライドと同行できない分、できる限りプライドにも協力してくれる人にも安全に旅をして帰ってきて欲しい。純粋にそう願う様子のティアラに、レオンも「アネモネ王国騎士団も強いよ?」と返す言葉を飲み込んだ。

今は彼女の善意をそのまま受け取ろうと、クスリとした笑みの音だけを溢す。


そうだね、是非。と承諾の言葉をティアラに向けて返し、自分からも国王に許可を今日にでも願い出ると約束した。他でもないフリージア王国との移動ならば、父親も信頼して任せてくれると考える。

流石にプライドが国外に出ることは言えないが、フリージア王国の第一王子やハナズオ連合王国の王弟と共に隣国のラジヤ帝国停泊も同行すると提案しても反対はされないだろうと予想する。どちらの国もアネモネとしても関係を深めていたい国には違いない。

優雅な茶会の中、落ち着いた雰囲気で話がまとまろうとしたその時。


「それってもしかしてヴァルも行くんですか?」


最初に声を上げたのはケメトの方だった。

さっきまではあくまでプライド側の事情とレオンへの協力要請だけを話すステイルの説明だった為、そこにヴァルの名は一度も出なかった。三日前にヴァルが依頼された時も学校にいたケメトもそしてセフェクも未だに彼が話に乗ったことを知らない。

しかし、この時間までヴァルが何故かレオンの部屋から出かけようとしなかったことと、何よりプライドがそんな危ないところに行くのならばと見当がついてしまった。

ケメトの言葉にセフェクもハッと息を飲む。ぐるんっ!と髪が広がる勢いでヴァルの方へ振り返れば同時に「行くの?!」とこちらにも直球を投げた。

今更気づいたかと思うヴァルも舌打ちを零せば、一言でそれに返した。次の瞬間にはセフェクの放水がヴァルの顔面へと放たれる。

ぶわっ?!と、顔面から息ができなくなり腕で顔を庇うヴァルだが、セフェクへ怒鳴るよりも先に「なんで先に言わないのよ!」と怒鳴られる方が先だった。


「そういうの昨日も言えたでしょ!!」

「アァ?!今王子が説明したんだから良いだろうが!!」

「ヴァル!ヴァルもどれくらい行くんですか?!僕も学校休んでついていっても良いですか?!」

一気に家族喧嘩を始めるヴァル達に、プライドも半分笑った顔のまま固まってしまう。行き場のない手を席から伸ばし、ステイルがいるから二日に一回会えることを言おうにも自分の中途半端な声など覆い消せるくらいに二人の声は大きい。

更には上等な客間がみるみるうちに水浸しになっていくことも気になる。ティアラが仲裁に入るべく椅子から立ち駆け寄った時には、ヴァルは荷袋の砂で壁を作ってまでしてセフェクの放水を塞ぎ出していた。土壁に阻まれた水がそのまま四方へ飛び散りプライド達にまで跳ねた。


「私達も行く!!ヴァル一人でラジヤなんか言ったら死んじゃうじゃない!!」

「レオンも行くっつってたろうが!!別に戦争に行くわけでもねぇんだ!!」

「レオンじゃまたヴァル死んじゃうでしょ!!!!」

「僕!僕も行きます!!学校もちゃんと先生にお休みするって言います!」

はははっ……と、今度はレオンまで笑いを零す。

自分もハナズオの防衛戦ではそれなりにヴァル達と共に民の救出や遠距離での攻撃は披露した筈なのになと思う。しかし、それ以上に奪還戦でヴァル達に命を助けられたことの方がセフェクには記憶に残っているのだろうことも理解した。「プライドが相手じゃなかったら僕も強いよ」と言い張りたいが、流石に本人の前でその過去は掘り返せない。

怒りをぶつけるように土壁へ水をぶつけ続けるセフェクに、土壁から回り込んでヴァルに駆け寄り袖を引っ張るケメトの姿はレオンの目には微笑ましかった。

学校に行くようになって少しずつ距離も置いても落ち着けるようになった彼らだが、それでもヴァルをラジヤに行かせるのはセフェクもケメトも心配だった。


「落ち着いてください二人ともっ!大丈夫ですよ!今回はレオン王子も兄様もアーサーもみんな一緒ですっ!ヴァルもお姉様を守る為に一緒に行動してくれるだけで、ちゃんと二日に一回は兄様がセフェク達に会わせてくれますから!」

駆け寄ってティアラが慌てて背後からぎゅっとセフェクを抱き締める。

ティアラに止められ仕方なく水は止めるセフェクだが、吊り上がった目は未だにとんがったままだった。セフェクの攻撃が収まったことでヴァルも静かに土壁を解除する。

最初の攻撃でずぶ濡れのまま部屋で袖を絞るヴァルに、ケメトもタオルが無いかと周囲を見回した。


ふー---っ!と息を鋭く吐き出すセフェクは、胸を張り出して最後に鼻息を荒くする。ティアラが自分達に嘘を吐くわけじゃないことはわかっているセフェクも、少しだけ頭の熱が収まった。二日に一回、つまりは今と同じ頻度ではちゃんとヴァルの安否も確認できるのだと思えば少しは冷静になれた。

話を聞く構えになったセフェクとそして自分にしがみつくケメトに、ヴァルはうんざりと顔を歪める。こうなることがわかっていたから自分だけで説明するのも面倒だった。

レオンと一緒だと言い張れば少しは納得するかと思ったが、実際は全く二人には効果もなかった。しまいにはセフェクまで駆け寄ってきて結局濡れた自分の腕を二人揃って掴んで喚き出す。

本当に平気なの?何かあったら僕も呼んでくれますかと言われても、ヴァルからすればそんな奴隷国に二人を連れていくことの方が落ち着かない。寧ろ二人が安全な学校の寮にいる方が自分も楽に危ない橋でも裏通りでも歩き回れる。


「せ、セフェク、ケメト。ごめんなさいね、二人もヴァルが心配だと思うけれど私もちゃんと責任持って」

「へぇ。主がどんな〝責任〟取ってくれんだ?ベッドにでも呼んでくれるか?」

「ッ今はそういう話をしていないでしょう!!!!」


せっかくの助け舟に自分から火を撒いてくるヴァルに、思わずプライドも声を上げる。


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