ヒュウリ
初めて見る異質な存在に、私は目が離せずにはいられなかった。
周りには無数の血痕やひっかき傷などがあり、このすべての原因がこの化け物の仕業なのだろう。
音を出さないように内ポケットにある拳銃を取り出しながら、目の前の化け物に近づく。
一歩、また一歩と進むと、いきなり化け物がこちらに振り向く。
そいつは化け物にしては人間の面影を持っており、不気味な顔はさながらゾンビのようだ。
「なんて警戒心……」
すると、化け物は突如大きな鳴き声を出した。
――瞬間、目の前には大きな牙があった。
「――おっとっと、いきなりですか」
獲物を見つけた狩人のように、目の前にいる化け物が襲ってきた。
腰をそらしながら右手に持っている拳銃で相手の腹部に二発発砲する。
「しつけのなってない化け物ですね」
私にかぶりつこうとした化け物は、しばらく地面をはったのち動かなくなった。
たぶん死んだのでしょう。
新種の生物とかイキまいたことを書いていましたが、誇張のしすぎな気がします。
「意外とあっけなか――!?」
突然背後から攻撃をされるが、それを間一髪でよける。
やれやれと思いながら背後にいる化け物を見つめる。
「てっきり一匹だけかと思ったんですけど、まさかこれほどとは……、これは骨が折れますね……」
この場所はこの化け物の住処なのでしょうか? そのぐらい多い気がします。
それに、特殊部隊が全滅した理由がなんとなくわかった気がしました。
全員がこの化け物ことヒュウリの餌にされたのでしょう。
目の前にいるヒュウリは、まるで人間のように服をきて、いっちょ前に二足で立ちながら銃を構えていた。
「おいおいライフルはないやろがい――!!」
目の前のヒュウリどもは遊び相手が見つかった子供のようにライフルを撃ちまくる。
急いで部屋から出る。
ついでに閉めた扉は、ヒュウリどもの銃撃に耐えられづに跡形もなく壊れていった。
「まさか人間様の技術を使ってきますか……、なかなかにめんだくさい」
数十秒後に音がやむ。
壁越しで中の様子を見ると、弾のでなくなった銃をぶんぶんと振っていた。
今ならばあいつらを殺すことができるかもしれない。
こんなに音を出しただから増援を待つのもいいのだが、正直多数であの化け物どもを倒せる気がしない。
今も、敵はイライラをぶつけるように壁を攻撃する。
その攻撃の振動は壁越しでも十分に伝わる。
「ここで考えていても無駄ですね。 シンプルに考えましょう。 敵一人に弾一発、殺すだけ」
そう言って部屋に入る。
敵は四体――
腕で換算すれば八、いける。
私の侵入に気づいた一体が大きな声を出す。
それを聞いた他三体も私の侵入に気づく。
まず一体に向けて発砲する。
銃弾は綺麗にヒュウリの眉間へと着弾する。
「まず一体――」
一体の攻撃が私に飛んできたが、それを難なくとかわす――
すると、よけた先にもう一体が待ち構えていた――
すかさず発砲――
「残り二体――」
一体目によけたヒュウリは後ろから攻撃をしてくる――
ギリギリのところでかわし、発砲。
「ラスト……」
対象のように私を見つめるヒュウリ。
私はラストのヒュウリに発砲する。
しかし、その発砲は当たることなく後ろの壁に当たった。
次の瞬間、ヒュウリの拳が飛んでくる――
「うっ――!!!」
途轍もないほどの威力が体全体に響く。
とっさに後方に下がりながら攻撃をガードしため、ダメージを最小限に抑えられた。
しかし、吹っ飛ばされた衝撃に、持っていた銃を放してしまった。
「――いてて、まるで車みたいな威力ですね……」
すぐに立ち上がり、体勢を立て直す。
目の前のヒュウリは、チャンスと言わんばかりに近づいてきた。
ここは格闘戦で何とかしなくてはならない。
「圧倒的にこちらが不利ですね――」
こちらの攻撃を回避しながらこちらも攻撃をする。
パンチ、蹴り、回避を繰り返しながらこの状況の打破を考える。
私のフィジカルでは相手を吹き飛ばすぐらいしかできないため、決定打にならない。
おまけに、攻撃、回避をするたびに相手の動きが洗練されていた。
何とか銃をとって眉間に一発入れればいいのですが……、相手が攻撃をした次の瞬間に、渾身の足蹴りを顔面目掛けて振るう。
ヒュウリは思いっきり吹っ飛んでいき、壁に手をついた。
「行くなら今ですね――」
位置的に若干ヒュウリ側に近いですが、この距離ならば私の方が速い――!
が、私の考えていることを読み取ったヒュウリが、近くにある屍をこちらに投擲する。
「――マジですか」
投げられた屍は、私の体に綺麗にヒットした。
その隙にヒュウリは目の前にある自分の銃をとる。
そして、慣れた手つきで私に引き金を一回だけ引く。
幸いにも、私の手元にはさっき投げられた屍があるため、それを盾に使うことができました。
「邪魔ですね――!」
持っていた屍を適当に投げる。
刹那に、一発発砲されましたが、難なくよける。
目の前のヒュウリは、今何が起きたのか分からないみたいな動きをしていた。
「よけられるのは予想外でしたか?」
何とか相手の懐にまで近づくことに成功した。
それと同時に、至近距離の一発の発砲をよけながら、相手から銃を奪いとる。
銃口を下に向け、足めがけて一発。
「チェックメイトです――」
何とか最後の一体を倒すことに成功したが、なかなかにしんどかった。
引き金を引いても弾は出てこない。
ケチって十一発しか入れなかったのですが、流石にやばかったですね。
今の日本では銃弾を買うのも簡単ではない。
「これ以上は何もなさそうですね……」
机に置いてある資料を何枚か持って外に出る。
資料の何枚かは、カメラで撮り保存しておくことにした。
念のためですが……
「いたいた。 遅いから心配したぞ」
中に長く居すぎたためか、組織の人がきたみたいですが、なんとまぁ見たことのある人でした。
火のついた煙草を銜え、スーツを身にまとい、無精ひげをした元先生がいた。
「久しぶりですね」
「ういっす……、まさかお前が引き受けていたとはな」
「知らされていなかったのです?」
「いや、単純にめんどくさかっただけだ」
「よくそれで指導者になれましたね……」
上からは正式に評価されているため、こんな人でも役に立つと思ったのでしょう。
世も末ってやつですかね?
「んで、見つけたのか?」
「もちろんです」
持っている資料などを渡す。
元先生は、もらった資料に目を通したのち、「めんどくさい案件だな……」と言った。
「美音、お前はもう帰れ。 ここの後始末は俺たち大人のやることだ」
「ではお言葉に甘えます」
「判断はええな」
正直、中での戦闘で結構疲れたので、今すぐシャワーを浴びたい。
ここからまた六㎞ぐらいの道を行く。
今の時間は八時半ぐらいですね。
あれ? 終電やばくね?
何とか遅れずに自分のアパートまで帰ってこれた。
重い足取りで自分の部屋まで歩く。
すると、私の部屋に女の人が立っているのが見えた。
「あれは……雛森さんですかね?」
どうやら、お隣さんが私に用があるらしい。
近くまで行くと、「いないのかな……?」と、少々戸惑いを見せていた。
「雛森さん、私に何か用ですか?」
「あ! 夜魅さん! どこに行っていたんですか!! 学生がこんな時間まで出歩いてはいけませんよ」
「すみません。 用事があったので……」
「どんな理由でも、遅くまでの外室は控えてください! 何かあってからでは遅いんですよ!」
プンプンと頬を膨らませながら「もぉ!」と言ってくる。
正直かわいい。
態度は大人のそれなのだが、見た目が私より小さいため、どうやっても可愛く見えてしまう。
「それに、あなたはもう高校生なんですよ! 大人なんです! もう少し自覚を持ってください!」
「心配させてしまい申し訳ありません。 今度からは気お付けるようにします」
まぁ嘘なんですけどね。
「と、忘れていました。 これ余りものですけどどうぞ」
「これは?」
「カレーです。 たくさん食べたいと思っていっぱい作ったんですけども……食べきれなくて……」
「ありがたくいただきます」
雛森さんから鍋を受け取る。
結局、雛森さんは、料理の越訴分けに来たわけですね。
「たまには一緒に食事しませんか?」
もじもじと、そして恥ずかしそうに食事の誘いをする雛森さん。
それに対し「良いですよ。 したい時に連絡をください」と言うと、目をキラキラさせながら「ほ、本当ですか!! ありがとうございます!!」とだけ言って、そそくさと自分の部屋に帰っていった。
「ふふ、これで男はずるいですね」
鍵穴に鍵を入れ、回す。
ドアノブはいつも通りに動き、扉も開く。
電気をつける。
何の面白みのない空虚な世界に光がともる。
椅子に座り、もらったカレーを食べながら考え事をする。
考えているのはもちろん今回の任務に関してだ。
「美味しい……、この上にカツでものせたらさらに美味しいんでしょうね」
それにしても、今回の任務はいささか、上の奴らの焦りが見れた気がしました。
焦りの原因がヒュウリであり、今の社会の状況でしょう。
なんせ、生物兵器が今現在の世の中にばらまかれている可能性があり、それなのに、ヒュウリの生態を何も理解していない。
その証拠に、今回の任務先では、沢山の死体があった。
予想外の行動に対処できなかったのが分かります。
だからといって、私一人にやらせるのも頭のおかしいことですけども。
「それにしても、雛森さん料理上手くなりましたね。 ちょっと前まではダークマターしか作れなかったのに。 彼自身、料理自体は好きみたいだから、専門学校に行くのもありなんですけどね……」
まだ、彼には難しそうですね。