私以上に嫌いな私
聞いた。
この子の過去の全容を。
そこには、やはり私じゃない私が、そこに存在した。
「魅夜さんとはそんなに長く居たわけじゃないけど、それでも、私を変わらせるきっかけになったのは事実、魅夜さんなんです」
彼女の恩人と言える魅夜とゆう人物は確かに存在したのだろう。
そして、目の前の美友音さんからしたら、私の姿はさながら特撮のヒーローに差し支えないのだろう。
それなのに、なんで私は、覚えていないのだろう。
この体は何故知らないのだろう。
なんで私が、私がここにいるのだろう。
「そうなんですね……確かに、美友音さんからしたら私はあなたにとっての正義のヒーローであり、あの瞬間だけの家族だった」
「そうだよ魅夜さん――!!」
「でも、ごめんなさい。 私は美友音さんが知っている【美稲魅夜】なんかじゃない。今は【美稲夜魅】ですから」
私から彼女に言ってあげる慰めの言葉は出てこない。
なんせ私は美稲魅夜じゃないのだから。
「そうですよね……わたしなにいってんだろ。 魅夜さんが魅夜さんじゃないのはもう聞いたのに……私ってホントにバカだよね……」
「…………それは――」
また私は何も言えなかった。
目の前には滲み切った目を私に見せてくる美友音さんがずっと見つめてくる。
「なんで魅夜さんじゃないの……」
いきなり私の胸がズキッとした。
苦しい。
ここにいたくない。
とても苦しい。
「なんでって言われましても……」
「返してよ……返してよ……返してよ!! 私の魅夜さんを返してよ!! なんであなたなの! 久しぶりに再開できると思ったから、あの時のこと謝ろうと思ったのに――!! そして、それ以上にありがとうって言おうと決めていたのに……!!」
そんなの、私が痛いほど理解してる。
なんで私がここにいるのか、場違いにもほどがある。
死ねよ、自分なんて。
私じゃない私なんて死んで、死んで死んで死んで、死んでしまえばいいと毎日思っているよ。
「なんで……世界は、恩人にすらありがとうって言えないの……!!」
吐き捨てるよに言った言葉は、静寂の教室に響き渡る。
そのまま、何もできないまま、さっきまで目の前にいた美友音さんが視界から消え去る。
「分かってるよ……痛いほど……」
人がいなくなった室内には、些細なことでも目立ってしまう。
「……帰ろう」
いつも思う。
この世界は、私たちにとって不条理な現実を押し付けてくる。
仲のいい友達にすら本当のことを言わせてくれない。
なんだったら、その人がもういないかもしれない。
最後くらい、二次元のように正直になりたい。
それをさせてくれない、こんな世界はなんて理不尽なのだ。
記憶に関してもそうだ。
今回はたまたま記憶が少しだけ戻っただけ。
次からは、さっき戻った記憶を頼りに、記憶内の物について調べなければならない。
皮肉にも、記憶を戻すためには記憶を頼りにしなければならない。
それに、また、こんな思いをすると思うと、とてもじゃないけど、胸が締め付けられる。
自分を卑下しなければやっていけなくなる。
「いやだなもう……」
そういえば、彼女の話にはもちろん続きがある。
あの後、私の家だったところを出たのち、親に捕まったらしく、それをなんやかんやで助けた。
それに、もう一人の相棒だった人と、食事をしたこと。
「そういえば、あの男の人って誰だろう? 記憶では、ずっといた気がする」
もしかしたら私にとっての大切の人だったのだろうか?
それなら、ちょっとやだな。
◆
はてはて。
美友音ちゃんが気になってこっそり見ていたけど、なんとも気まずい状況ですな。
それに、夜魅さんもなんか……うん、まぁ……気分はよくないな。
おっと、夜魅さんがこっちに来る――
「あれ? さっきそこに人がいた気がするんだけど……気のせいですね」
――あぶねー!!
こんな状況で顔なんて合わせたくないよ!!
いなくなるまでここでステイしてよう。
そして待つこと一時間。
「いったかな……? いったよね? さすがにこの時間までいないよね……?」
ロッカーの扉を静かに開ける。
夕方に照らされた廊下には、なんとも言えない雰囲気が出ている。
「てか、もう下校時刻すぎてるじゃん!!」
もしこれで、先生なんかに見つかったらえらいことになるぞー
よし! このままステルスで敷地を抜け――
「ここで何をしてる」
「あ……」
私の学校生活一日目最悪の終わり。
ゆっくりと、背後を向くと、そこには火のついていない煙草を口にくわえた先生がいた。
いや、なんで火点けとらんねん!!
「もう一度聞くが、お前はここで何してる」
「あ、えと……あの、そう! 忍者ごっこ!! 忍者ごっこしてたんで――」
言い切る前に頭に強烈なチョップが炸裂する。
その瞬間、私は「いっだあああああああああ!!!!!」と無様に転がる。
なにこの先生!!
ルロイ修道士なみに手加減なしじゃん!!!
「規則を守っていないお前の責任だ。 それに、こうでもしないと守らないだろ」
「それでも暴力はないじゃないですか!!!」
「暴力じゃない。 愛ある体罰だ」
「いやただの暴力じゃありゃませんか!?」
「そうか? 体罰は愛の行動じゃないのか?」
「価値観ぶち壊れてんですか!?」
いやはや、最初は厳しい先生だと思ったけど、ただの価値観がバグってるだけだった!!
しかも、なかなかめんどくさい!!
「んで、一時間近くロッカーに隠れていた理由を聞くが」
「――忍者ごっこです!!」
またチョップを食らってしもうた……
「どうせ、盗み聞きをしてたら、見つかりそうになって、とっさに隠れたんだろ」
「エスパーかなにかなんですか先生は……」
「それで、何か問題でもあったのか?」
ふいに先生がそんなことを聞いてくる。
私達関わって一日もたってないでしょうにすごいなこの人。
「いえ、そんな気にすることじゃないので」
「そうか……くれぐれも、一人で悩もうとするなよ」
「わかりました……」
そんなこんなで、軽い注意を受けたのち、私はそのまま帰宅した。
◆
今の私は何を考えれば良いのか。
昨日のことを振り返りながら登校ルートをたどる。
「夜魅さーーーーーん!!!!」
この声に関しては、私の日常生活の平常運転だと思う。
平常運転と言ったら、今日の朝にも変なことを頭の中で発していた。
確か、平等と公平についてを熱烈に考えていた気がする。
「ねぇ夜魅さん聞いてる!!??」
「きいてるきいてるー」
「じゃあさっき私が言ったこと言ってみて」
「…………」
「ほら聴いてないじゃん!!!!」
「そうだね……」
話によると、今日のホームルームで重大発表があるらしい。
正直、私からしたらそんなのどうでもいいことなのだ。
どんな発表があろうとも、別に私の障害になるわけでもないし。
なんだったら、今が少しぬるいだけあって……いやぬるくはないですけども、それでも、今更大変になるってことは起こりえないでしょう。
それに、今一番重要なのは私の記憶だけなのですから。
学校生活二日目。
担任の先生が来るのを、凛子と喋りながら待つ。
ちなみに、美友音さんは今日は来ていない。
まぁ、昨日あんなことがあったら立つ治るのも大変だろうな。
とか考えていると、教室の扉が開く。
「全員いるな」
先生がそうゆうと、ある生徒が、「先生、竹取さんと高橋さんがいません」と言うと、先生は「そいつらならこの学校を出たぞ」と淡々と言った。
それに、周りの生徒はとても不信感を感じていた。
無論私もそうだし、凛子だってそうだ。
「質問は俺の話を聞いてからにしろ」
そう言うと、ざわざわしていた教室内の雰囲気がなくなった。
「人によってはもう知っていると思うが、今から重要な任務をこの中の生徒に依頼する。 名前を言う。 三浦凛子、美稲夜魅、以上二名を任務に借り出てもらう」
案の定でしたが、やはり私と凛子ですか。
先生は次に「ホームルームが終わったのち、さっき呼んだ二名は会議室に行くように」
そう言って、間もなくホームルームが終わった。
「やった私達選ばれたよ!!」
「何言ってるんですか。 案の定ですよ」
「でも、選ばれたのは素直にうれしくない?」
「まぁ信頼されるのは悪い気はしませんよ」
そんなこんなで、会議室まで歩いていると、他のクラスにも指名されていたのか、会議室の近くは群がっていた。
私たち合わせて七人ぐらいの人がいた。
「意外と少ないんだね」
「重要な任務なんですから当然でしょ」
「そんなものなのかな?」
「そんなものです」
凛子は少々のんきが過ぎる気がします。
他の人たちを見習ってほしいです。
そう思いながら周りの人たちを見てみるが、可もなく不可もなしのような感じだった。
と、適当なことで時間をつぶしていると、会議室の扉が開き、中から先生が「入ってこい」と言ってきた。
言われた通り中に入ると、見知った顔をしたが何人かいた。
どうせ、私の使命もこいつらがやったのだろう。
自分の名前の書いてある所に行き、近くの椅子に座る。
「よく集まってくれた。 ホームルームで言われただろうが、君たちには重要な任務に就いてもらう。 と言っても、任務内容はさほど難しくない」
一人の男がそう言うと、隣にいた男が「難しくないならわざわざ呼ばないでくれない」などと言ってきた。
まぁ分からなくもないですが。
「まぁそう言うな。 任務内容を話すと、君たちには今から学校に行ってもらう」
「学校? 学校なら今も入ってるじゃん」
一人の男がそう言った。
それに続き、次に女が「な、なら私よりもて、適任者がいると思います」根暗そうな女の子がそんなことを言っていた。
「落ち着いてくれ。 学校は学校でも、こことは違う一般校に入ってもらう」
「私たちが一般校に入る理由とは?」
疑問を素人、男の人が質問した。
「ここ最近、事件事故の発生が増えているのは分かるかね。 特に多いのが、未成年への被害及び、未成年が起こす犯罪が取り上げられている。 そこで、君たちエリートにこの被害を防いでくれないかね」
とまぁ、依頼内容を聞くに、私たちは学校の用心棒になれとゆうことでしょう。
凛子はノリノリなんだなって見てわかる。
「仮に、その依頼をしたところで、俺たちに何のメリットがあるんすか? まさかただ働きなんて言わないですよね?」
「そこは問題ない。 任務期間中の生活は私たちが保証しよう」
てな感じで、何やかや話が続いていくのだった。