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パンラル・ルージュ  作者: 4コマ
きっかけ
1/9

開始

 朝は何度でも来る。それと比例して昼も夜もやってくる。そうして、世界は幾億の時間を過ごしてきた。

 そして、それはこれからもこの先もずっと行われるのだろう。

 それなのに人生というものは終わりが来る。

 なぜ私たち生物には寿命があるのだろうか? なぜ個体差が生まれてしまうのか? 

 誰しもが通る道なのだろう。

 でも、誰もがその答えをあやふやにする。

 だって、私だってそうだから……


 あの日、私が目覚めてから私の人生が始まった。

 最初は何が何だかよくわからなかった。本来知らないはずなのに、それはもともと知っているかのように、知識だけが脳裏に浮かんできた。

 自分の名前、生年月日、仕事関係。自分に関連するものを次々と思い出していく中、一つだけ知らないものがあった。

 私には生まれて15年の記憶がない。

 それなのに、私の知らないところで知らない私が、この体で活動していたのだ。

 それを知った私は、自分がもともと誰で出来ているかについて知りたくなった。

 最初は、よく分からない組織で言われた任務をただ実行するようになった。

 そこに私の記憶を呼び覚ますための鍵があることを信じて。

 しかし、そんな日常をしていても、私の記憶は一向に治らなかった。

 ただ自身の大切な時間を棒に振るだけだと考えた私は組織を抜けた。

 いや、違う……

 組織を抜けることは自分の過去の手掛かりから遠ざかる行為なのだ。

 私は、時間がもったいないといった理由を盾に、自分という自分を諦めていた。




 毎日を変わらず過ごすことはとても良いことだと思う。しかしだ、それは毎日をただ無駄に過ごしているのと変わりないのではないだろうか?

 ただでさえ何も出来ない奴が何もやらず、同じ行動を永遠と繰り返していたらどう思う? はっきり言って無駄だろ?

 それなのに、この世界では沢山の無駄がある。

 その代表が私たち人間なのだ。


「眠い……」


 布団から体を起こす。そして、眠い私の目をこする。 

 この行為も、何千何百と行われている行為。

 目をこする作業なんて無駄でしかないのだが、こうでもしないと私の体は動こうとしない。

 顔を洗いに洗面台のところに向かう。


「ひどい顔……」 


 珍しく気分がすぐれないらしい。

 そんな中で、蛇口から出る冷水で顔を洗う。

 朝食はいつも通りベーコンエッグでいいだろう。

 どこで教えてもらったのか私には分からない。

 ただ、私が生活する分には何も困らないので別に気にしていない。

  

「いただきます……」

 

 今日の予定が書かれた書類を眺めながらコーヒーをすする。

 相変わらずコーヒーの味は苦く、渋みのある味だった。

 

「今日は……始業式でしたね…………」

 

 今日からまた、あの無駄な組織の任務に付き合わされると考えると、せっかく開けた瞼がまた閉じそうになる。

それでも、任せられてしまったら断るのも逆に失礼だと思ってしまった私は、何食わぬ顔で布団の中に入り込む。

 やはり、布団の中は癒される。

 いつも私の疲れをとってくれる。

 寝てるときは私を離さないし。

 それなのに、任務に行ってしまったらこの布団とも数時間の別れとなってしまう。

 世界とはまた残酷なことをするものだと考える。


 すると、こんな朝っぱらというのに玄関から私を呼ぶ声が部屋全体に聞こえる。

 この声からして、玄関にいるのは凛子(りんこ)だろう。

 

「起きろ~~!!!」


 数分間にわたってどんどんと聞こえる玄関。

 まるでホラゲのワンシーンみたいだ。

 しばらくすると声がやむ。少しすると玄関の扉が開かれる音がする。

 確か凛子には私の家の合い鍵を渡しているんだった。そのため、入るのは容易だろう。


「いつまで寝てるのさ! 学校遅れちゃうよー!」


 スタスタと床を歩く音が聞こえる。

 数秒後に私の部屋の扉が勢いよく開けられる。

 扉が開けられた先には、制服姿の凛子だった。 

 凛子は今の私の姿を見てなのか、呆れた表情になっていた。

 布団にいる私を無理やり起こし「起きて()()さん!」と言ってきた。


 そんな感じで、いつもとは少し違う朝を過ごした私。

 

「ほら夜魅さん速く着替えていくよ!」

「わかった」


 そう言って、約20秒で着替えを終わらせる。


「はや!?」


 そんな感じで、凛子に手を引っ張られる形で家から出る。

 何か忘れ物をした気がしたが、別に大したことではないと感じたため、気にせず鍵を閉めた。


「も~う! 夜魅さんのせいで遅刻したらどうするのよ!」

「それなら私を置いてけばよかったのに」

「なんでそうなるのよ!」


 なぜ、凛子がこんなに焦るのかというと、これから任務だからだ。

 今回の任務は、私たちの所属している組織の育成機関に潜入し、スパイを捕まえるのが仕事。

 正直、私からしたら関係のない話なのだ。

 だってその組織には私はもういない。

 私が勝手にやめてそれからなにも関わっていない。

 それなのに、なぜか組織から任務を頼まれてしまった。

 頼まれた任務が、凛子のサポートだった。

 本来なら断っていたのだが、それなりの額を支払われてしまったのでやらざる負えない状況だった。

 と、こんな誰が聞いてるのか分からない事を考えながら歩いていると、凛子がしゃべりかけてくる。


「夜魅はいつになったら戻るの?」


 その言葉が何を意味してるのか理解しているのにも関わらず、私は白々しく「何がですか?」と返す。


「だから……組織に戻ってくる気はないのかなって」

「今更なんで戻らなくてはならないのですか? ただでさえ、私達少年少女をコマのようにしか扱ってくれないリーダーになぜ私が命令されないといけないのですか?」

「私達がコマって……そんな言い方はないんじゃない? 逆に私たちみたいのがいるから世界が平和になっていくんじゃない」


 凛子はまるで気づいていない……

 本当に世界を救っているのなら、今現在で年頃の子供を任務に使うわけがない。

 何が世界平和だ。そんなのただの理想論だ。

 理想だけ並べても、やっていることはただの戦争と変わらないのに。


「ま、こんな暗い話はやめやめ! 今日から新しい学校生活! 友達作って世界を平和にしますぞ~!」


 凛子は誰が見ても正義感のあふれた少女だ。

 その故、組織からは扱いやすい対象なのだろう。

 ただ純粋である彼女の正義は平和を目指す奴らからしては好都合な人間なのだろう。

 そんなことを考えていると、後ろから女性の甲高い悲鳴が聞こえてきた。

 振り向くとそこには、見た目に反してキラキラのバッグを抱えて走る男の姿だった。


「その人捕まえて!!」


 見てわかるが、あの女性はひったくりにあったらしい。

 女性は私たちに助けを求めていた。

 男は全速力でこちら側に走る。

 

「よっと――」


 男が私たちの横を通り過ぎる瞬間、隣にいた凛子が男の前に足を出す。

 男は凛子の足に引っ掛かり、派手に転ぶ。

 その隙に凛子は男からカバンを取り上げた。


「これは返してもらうよ」


 凛子はドヤ顔で言った。

 そんな言葉に反応してひったくり犯が起き上がる。

 凛子を睨むように見た次の瞬間、男は叫びながら私たちに襲い掛かる。

 男は凛子に対して拳を振るおうとしていたが、それに対し凛子は得意な合気で軽くいなす。 

 いなされた男は、自分と凛子では力の差がありすぎると感じたのか、標的を私に変えてきた。

 

(あ、私の方に来ちゃうのね)

 

 男は、懐からナイフを取り出してきた。

 そのナイフを私に突き立てながら私に向かってくる。

 しかし、その攻撃は私に届きはしないのだ。絶対に。

 向かってくるナイフを素手ではじく。

 すかさず男のミゾウチに拳を叩き込む。

 そうすると、男はばたりと倒れた。


「なかなか物騒な人だったね」


 ドン引きしながら凛子はそんなことを言った。


「たかがナイフごときで物騒と言っていたらこの先もっと驚くわよ」

「何それ……」


 男から取り上げた鞄は持ち主の女性に返した。

 女性は私たちに感謝を述べてからどこかに消えてしまった。 


「これでまた平和に一歩近づいたね!」そう無邪気にいう凛子。

「こんなので近づいたら苦労しませんけどね」


 そんな感じで、一つの事件を解決しながら再び歩き続ける。

 すると、いきなり凛子が大声を出す。


「あぁぁ!!!!」

「どうしましたか?」

「始業式始まった……」

「………………」


 なんとまぁ最悪ですね。

 あわてて走る凛子についていく。



 学校につくと、外の門はとっくに閉まっていた。

 そんなのお構いなく飛び越える。


「どうする夜魅さん……」


 震えた声でそんなことを言ってくる凛子。

 まぁ凛子がそうなるのは仕方ない。なぜなら私たちは大事な組織の学校にいるのだから。

 簡単に言えば、警察学校の初日に遅刻をかましたのと同じなのだ。

 ついでに任務初日にやらかした焦りもあるのだろう。


「この時間帯であれば始業式は終わっていると思うので、そのまま教室に向かうのが良いでしょう」

「えぇ……でもなんか言われそうじゃん……」

「この際、行ってもいかなくても何か言われるのは必然ですけどね」

「そんなー!!」


 そんないやいや言っている凛子を引きずりながら教室に向かう。

 運がいいのか、凛子と私のクラスは同じであった。

 そこらへんは組織側が何かしたのであろう。

 そんなこんなで、教室の前に到着する。


「くぅぅ! 入りたくないよぉぉ!!」


 教室の前で子供のように駄々をこねる凛子。

 多分だが、その声は教室内にまで響いているだろう。


「何言ってんですか。登校中は友達作ってついでに世界を平和にするとか言ってたじゃない」

「だって!! このまま入ったら私、初日で遅刻したやばい奴って見られるちゃうじゃん!! あとついでじゃないから!!!」


 (ここで騒いでる時点でやばいのでは……?)


「大丈夫だよ。 私は気にしないから」

「クラスの人が気にするじゃん!!!!!」

「友達が出来るきっかけになるじゃん」

「そんな変なきっかけは求めてないよ!!」


 と、そろそろ中に入らないとまずい気がしてきた。

 教室の中がざわざわし始めている。

 完全に私たちの会話は聴かれているだろう。


「それに、ホームルームが終われば少なくとも他のクラスメイトに見られるですよ? そうなれば、他のクラスメイトは「あ、こいつ遅れたんだ」ってなるでしょ? 大勢にバレるか、たったの23人にバレるかのどっちかです」

「むむむ……わかりました! 私意を決して入ります!!」

 

 そう高らかに宣言したことを確認して勢いよく扉を開ける。

 扉を開くと、そこには23人の人たちが椅子に座って、前にいる指導者の話を聞いていた。

 扉の音にびっくりしてこちらを向く子もいたが、すぐに前を向いた。


「これ凛子の座席表」

「あ、ありがとう。 て、夜魅さんの隣じゃん……!」


 凛子は声色には出さなかったが、小さく「ラッキー」などと言っていた。

 と、そういえば凛子が私の名前を言ったときに誰かに見られた気がする。

 気のせいだろうと思いながら椅子に座ろうとすると、目の前にいきなりナイフが飛んできた。

 それを華麗にキャッチする。

 それと同時に、隣にいた凛子からも声が出る。


 「あぶなぁぁぁ!!!! 何でナイフがいきなりぃ!?」


 ナイフが飛んできた方向を見ると、そこにはこのクラスの指導者である人がいた。

 投げたのは彼で間違いないだろう。 


美稲(みいね)夜魅、三浦凛子、32分の遅刻だ」


 目の前の人は私たちにそう注意をした。

 当然のことなのだが、社会に入るとこのように叱ってくれる人はいなくなってしまう。そう考えれば、この指導者はなかなか当たりなのではないのだろうか? 


「第一次、第二次世界大戦中だった場合、極刑は免れないぞ」


 指導者である先生がそう言う。

 今の時代に過去の出来事をぶっこんでくるのやめてほしい。

 今と昔では価値観が違うのだ。

 正義の考え方、国への忠誠心の仕方もまるっきり違うのだ。


 「すみませ。今度から気お付けます」


 心にも思っていないことを軽く言う。

 そんな私の言葉に続くように、凛子も先生に謝罪をする。

 謝罪を済ませて自分の席に座る。

 私たちが座るのを確認したのち、先生は再び話を始める。


「今来た生徒のためにもう一度言うが、入学おめでとう。入学したばかりだが、この学校では一般的な授業のほかに、組織直属の任務もある。 任務に関しては人によってさまざまだ」


 そんな感じで先生はこの学校についての基礎情報を教えてくれた。

 私にとっては聴きなれたような言葉だが、今回の任務では新人の子たちが多い。

 もちろん私たちのように組織から任務を任せれてここに入学をしている子たちもいる。

  

「ここでは一般的な学校などのルールはほとんど適用されない。 君たちの知っている社会の仕事と変わりないことを忘れないでほしい。 そして、この学校は目標のために大切な機関だ。 くれぐれもいざこざを起こさないように」


 そう言いながら先生はそのまま教室を後にした。

 あたりの教師かと思ったが、なかなか堅苦しそうな人が相手になっちゃったな……

 それに、あの教師は私たちの現状を知っているのだろうか?

 一応この任務は極秘の物なのだが、これについて教師一同は把握してるのだろうか?

 もし把握されていないとすれば、むやみに動くわけにはいかない。 

 それに、任務としてこの学校のスパイを捕まえることもある。

 もしスパイに私たちの存在が知られてしまったら終わりだ。


「それにしてもあの先生やばかったねー」


 長い夢から覚めた凛子が私にそう言ってきた。

 てか、あんなことがあったのに堂々と寝てたんだ。


「まぁ、いきなりナイフを投げてきたのはびっくりしたけど、もしあそこで対処できなかったら、それまでの奴だと思われるだけなんでしょう」

「緊張感には慣れてるんだけどね……」

「凛子は緊張よりも経験自体が足りていない」

「ええぇ……」


 凛子とたわいのない話をしていると、後ろから肩をトントンと叩かれた感触がした。振り返ると、そこには、きりっとした目線でこちらを見る金髪ポニーテールの女の子がいた。

 とっさに「なんでしょうか?」と聞くと、彼女は何も言わずに私の顔をジロジロと見ていた。

 私の顔に何かついてるのかな?そう思っていると、しばらく黙っていた金髪ポニテの子が口を開いた。

 

「あんた組織のスパイでしょ!!」


 突如意味の分からないことを口にした彼女に思わずポカンとしてしまう。

 私に向かって組織のことを言ったのだから少なくとも組織関連なのだろう。

 そもそもなぜ彼女は私の存在を知っているのだろうか?


「いきなりなんですか? 私に何かを言いたいのならもう少し言葉をまとめてからきてください」

「は? 何言っちゃてるわけ。お前は私の聞かれたことを喋ればいいんだよ」

「はぁ……それで、組織のスパイとはどうゆうことですか?」


 これ以上何かを言うのは時間の無駄なので、聞かれたことに対して質問をする。

 その間、隣に座っている凛子はおどおどした様子だった。


「とぼけるんじゃねよ! バレバレなんだよ!!」


 彼女は怒った様子でしゃべっている。

 しかしだ、私が彼女に怒られる要素がどこにもないのは私自身、凛子が知っている。

 

「戸籍がない時点でお前は黒なんだよ!!」


 そう言うと、彼女はいきなり私の手を掴んでどこかに引きずられた。

 そんな姿を見ていたクラスの人たちはポカンとしていた。

 もちろんこの私も何も分からない状態なのでポカンとしていた。

 それにしても戸籍がないとはどうゆうことなのだろうか?

 そんなことを考えていると、いつの間にか中庭の方まで来てしまった。


「ここなら邪魔にならないわね」


 そう彼女が言うと、彼女はいきなり私の胸ぐらをつかんできた。

  

「さぁ言いなさい!! 何が目的なのか、敵の本拠地の場所とか洗いざらいはいてもらうから!!!」


 正義のヒーローになったつもりなのか、彼女は高らかに言ってきた。

 なぜか敵のスパイだと思われている私。

 しかも、もう確定事項みたいだ。

 これではどれだけ言っても聞こうとしないだろう。

 

「何のことか私にはわかりませんし、そもそもあなたが思っている人間とは違う」

「とぼけないでって言ってるでしょ! 全部証拠は出てるんだから!!」

「証拠? 証拠とはどんなことですか?」


 そう言うと、彼女は制服のポケットから三枚の写真を見せつけてきた。

 一つは私が鳥の足についたロープを解いてるところ。

 二つ目はよく行く武器屋で買い物をしている私。

 三つ目が、取引先との名刺交換をしている私の姿。

 全部が日常的な写真だった。


「えっと……これは?」

「見てわからない? 証拠よ! 証拠!! しょ! う! こ!」

「はぁ……」


 それにしても、傍から見ればやばい写真にしか見えないのだろう。

 知らんけど。


「さあおとなしく白状しなさい!!」

「白状するどころか、証言することがないのだが……」


そもそも彼女が最初に言っていた国籍云々だが、意味が分からない。

 私にはしっかりと国籍がある。

 記憶にはないけど、私の知識ではそれが当たり前なのだ。

 だから国籍がないのはおかしい。

 

「まず国籍がないってどうゆうこと? 私の知識だと国籍があるはず」

「確かにあなたの言う通りあなたの国籍自体は今も存在している。 【美稲魅夜(みよ)】としてならね」

「それってどうゆうことですか?」

「ここまで言ってんのにまだ分からないの? 美稲夜魅は何処を探しても記録としては残っていないのよ」


 確かに彼女の言っていることは正しいのかもしてない。

 考えてみれば、私の戸籍などの知識なんて貰い物なのだ。

 そして、彼女が言った美稲魅夜こそが本当の私なのだろう。


「さぁそろそろ白状しなさい!! あんたの罪を数えなさい!!」

「そう言えば、あなたもあの組織から依頼された子?」

「それが何?」

「なら、あなたは大きなミスをしている」

「ミス?」


 そう。彼女は大きな間違いをしている。

 それは彼女が組織に入っていることだ。

 彼女の言動からは、明らかに矛盾がある。

 まず前提に彼女が組織の一員だった場合、この騒ぎなど起こっていないのだ。

 それは、彼女と私が同僚だった場合当然のことなのだ。

 もし、チームや場所が違くとも、あれほどの組織に入っているのならば、仲間のことは知っていることは当然だ。

 まぁ私は全く分からないけど。


「なら質問します。私の今の仕事はなんでしょう」

「だからスパイでしょ!! 何度言わせるのよ!」

「ぶっぶー不正解」

「そうやって逃げるつもり? そうはさせないから!」

「あなたがそお言うなら勝手ですけど、やるなら自分の情報ぐらい守らなくては意味がありませんよ?」

「へ?」

「そもそもあなた此処の生徒じゃないでしょ。 だって、あなたの見た目と、書類の証明写真が違いすぎますし」


 あらかじめ朝のうちにクラスメイトの名前写真、出身中などもろもろを確認させてもらったが、あんなに派手な子なんていなかった。


「イメチェンしたとかならばおかしいですね。 もともとの高橋麻衣さんは身長が151㎝なのにもかかわらず、今の麻衣さんは160はくだらないぐらいの身長です。おかしいですね~。 もしかして骨延長術でもしましたか?それでもおかしいですね~。 もしそうだとするならば、足とかに丸い跡があるのですけども?」


 彼女の足を見てみるが、そんなものどこにもない。誰がどう見ても健康的で綺麗な足だった。

 私のマシンガンのようなトークのせいか、彼女は終始圧倒されていた。


「これを込みにすると、あなたの方がスパイに近いんですよ」

「たかがそれだけのことで私の方がスパイだといいたいわけ!?」

「たかがとあなたは思いますが、あなたが思っているよりもはるかに、この世界は情報にあふれているんです。 やろうと思えば自宅のスマホ、パソコンでも個人情報を調べることは容易なんです」


 二十一世紀であるこの社会は、昔とは比べ物にならないぐらいの情報にあふれている。

 武力ですべてを制する時代は終わったのだ。

 それ故に、自分という存在をどれだけ守れるかが問題なのだ。

 いくら強くても、自分の弱みを握られたら終わりなんですから。

 

「なら証拠あるの!? ないでしょ! 私と違ってありきたりの推理じゃ証拠なんてつかめないでしょ!」

「証拠ならさっきも話したはずです。 証拠はあなた自身が証明してるんです」


 私は、内ポケットからスマホを取り出し、自分のクラスメイトの写真、名前が載っている写真を見せる。

 さっきも言ったが、証拠は彼女自身が証明している。

 見せられた写真を見る彼女の顔はみるみるうちに青ざめていく。

 誰が見てもわかるぐらいの偽物だ。

 こんなの、学校に入る時点で押さえつけなくてはいけないのだが、生憎、今の現代社会は情報をしっかりと確認するといった行動をしない。

 そのため、クラスメイトは気づかないし怪しまない。


「とゆうことなので、今度はこっちから質問させてください。 あなたがスパイで間違いないですね」


 彼女は何が何なのかが分かっていない状態だった。

 頭の中では疑問だけが飛び交っていそうなそんな表情で私を見つめる。

 

「そうよ……私だよ…………私がスパイだよ!!! それがどうしたっていうんだよ!! ここでお前を黙らせればこの話はもともとなかったことになる!! あんたが不慮の事故で死ぬだけ!!!」

 

 彼女は開き直ったかのようにポケットから拳銃を出し、私に向けてきた。

 見た感じ、銃には慣れていないらしい。

 その証拠に……


「私を殺すのならば好きにすればいい。 その代わりセーフティーはしっかり外さないと撃てないですよ」

「そんな言葉信じる馬鹿がどこにるっての!!!! あんたはここで死んでもらうわ!!」

 

 彼女は勝ち誇ったかのように、引き金を引く。

 しかし、引き金を引いた拳銃からは何も出なかった。

 それは当然なのだ。本当にセーフティーがかかっているのだもの。弾どころか、引き金が動くはずがないのだ。


「なんで!? なんで弾が出ないのよ!!」

「だから言ったじゃないですか」


 そう言いながら、銃に夢中になった彼女に近づき、拳銃を奪いながら彼女を拘束する。

 突然のことだったのか、彼女は何が起こっているのか分からない状態だった。


「人の話はしっかりと聞き入れた方がいいですよ」

「くそ!! 放せ!! 私にこんなことしてただで済むと思うなよ!!! 殺してやる!!! 跡形も残らないぐらい拷問したのちにじわじわと殺し――」


 さっきまで騒いでいた彼女が突如黙り始めた。

 それに少し驚き、少しだけ押さえる力を弱め、彼女を見る。

 すると、彼女の足に注射器が刺さっていた。

 

(口止め? それとも助け?)


 注射器の中を調べるために組み付きをやめる。

 彼女に刺さった注射器を抜き、簡単に確認してみると、それは睡眠剤だった。

 すると、どこからか声がした。声がした場所を見ると、そこにはこっちのクラスの指導者ならぬ先生の姿があった。


「煙草を吸いに来たはずなんだがな……、なんだこの状況は?」

「こっちが聞きたいです」

「せっかくバレずに吸っていたのにお前らが来たせいで台無しだ」

「校則を破っている人には言われたくないですね」


 先生の左手には、まだ火がついている状態の煙草があった。

 銘柄的にキャメルですかね?

 と、右手には少し大きめな拳銃が握られていた。

 あれで注射器を飛ばしたらしい。


「んで、こいつがスパイなのか?」

「自分で言ってましたしね」

「なら、あとは俺がかたずける。 お前は先に戻ってろ」

「お願いします」


 そう言いながら中庭を後にする。

 それにしても、こんなにあっさりスパイが見つかるとは……

 これから何を目標にここにいればいいのやら。

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