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スマホ

作者: 神無月 零

「はっ‥」

勢いよく見開いた目と寝汗か冷や汗か分からない汗。そしてドクドクと僕の心音が体内に響き渡る。なんか夢を見ていた気がするんだけど‥何だったけ。働いているか危うい頭を抱えながらタイマー切れしたエアコンを入れ直す。汗をかいたTシャツが体に引っ付いて相当な不快感を抱いてしまう。どうしようもなく渇きを覚えた喉を潤わせにベッドへ残ろうとする身体を無理矢理起こし、台所へ向かう。その片手にはスマホが握り締められていた。いつものようにを電源を入れロック解除しようと顔に画面を向けると、スマホが震えた。と同時に心臓が締め付けられる様な感覚に襲われた。ゼェゼェと息が荒くなり、走った後のような疲労感が突如俺を襲う。

「っはぁ‥?なんっ何だよ…」

あまりのキツさに日頃運動していない俺はその場に座り込んでしまった。暫く深く呼吸をしていると、落ち着いてきた。いつも通りの自分の身体だ。きっと寝ぼけていたのだろう。もう何もお考えたく無い俺はさっさと水を飲んで、タイマーの切れたクーラーを入れ直し、再び眠りへとついた。

朝、けたたましい音量のアラームで目が覚める。だが音はいつもの場所からではない。ポケットからだ。昨日起きた時に入れたのだろう。寝起きが悪い俺は乱暴にスマホを取り停止ボタンを押そうとした。


キュゥッ


心臓に痛みが走る。夜と同じ感じだ。咳き込みながらも何とかアラームを停止し、また深く呼吸を繰り返した。ゆっくり大きく何度も何度も。何とか落ち着いた時にはもう出社する時間で、俺は朝ごはんを逃して駅と急いだ。いつもの電車に何とか間に合ったことに安堵していたが、昨日からの体調不良に不安を拭い切れなかった。

もしかしたらなんか病気かな?いやでも、会社の健康診断なにも引っ掛からなかったけどな…

やっぱり運動不足からくるなんかなんだろうか…でも会社にはいかなきゃだし。今度の休みに病院でも行くか?

酒もタバコもしない、面白みとはかけ離れている俺は特に悪い所も良い所もなかった。過去にも大きな怪我や病気はない。恐らく一番の怪我は小4の時友人だったヤツから滑り台で突き落とされた骨折くらいだろうか。そんな俺が立てなくなるほどの心臓の痛みだなんて。はぁ…気が重いなぁ。やっぱり年か?

そんなことを考えながら、電車に揺られていると急に爆音で失恋ソングが電車内に響き渡った。出勤ラッシュの朝でただでさえ周りが余裕が無い状態故、空気は一瞬でピリついた。出所は俺のスマホ。音楽を聴く習慣がない俺のスマホから鳴っているのだと気付いたのは周りの痛い視線でだ。頭に疑問符を浮かべながらも、何故か起動していた音楽アプリを消して音量もゼロにした。一応周りに会釈をしておこう…何だか今日は朝から参ったな。……まぁ、何とかなるか。仕事で巻き返そう。

次はさっきよりも大きい音量で元気ソングが電車内に流れ始める。出所はまたしても俺。流石に2度目気まずくなってしい、俺は最寄りの駅じゃないのに降りてしまった。

もしかして携帯も調子が悪いのか?まだ買って数年しか経ってないのに…

「人も機械も意外と呆気ないもんなのかね。」

携帯も俺も、調子が悪そうなので会社に欠勤連絡をして病院に行くことにした。会社の人間とこまめなコミュニケーションをしていなかった俺は、嫌味を多少言われて何とか休ませてもらった。誰も俺のことなんか心配してくれなかった。

まぁ、普段から仕事の会話しかしない人間の心配なんかしてくれるわけ無いか。こういう場合は内科に行けば良いのかな‥何かあってもすぐ対応してもらえるように総合病院にするか。

会社に行かなくていいと思うと、心なしか身体が軽くなった気がしたが取り敢えず病院へ足を向かった。平日に病院に行くのはいつぶりかわからなかったが、待合室はお年寄りばかりで日本の高齢化社会をヒシヒシと感じた。きっと1番若いいのは俺だろう。この人達に年金が入っているのか…そんな暗いことを考えながら座っていたら、緊急アラートが鳴り響いた。出所はまたしても俺のスマホ。周囲の老人達は訝しげに俺の方を見て、ヒソヒソし始めた。流石にもういても経ってもいられなくなった俺は待合室を後にして、携帯ショップに駆け込むことに決めた。きっと今時の若いもんはと話し始めている頃だろう。



「いえ、特に不良ではない様です。」

携帯ショップで3時間待った不調の回答は最悪だ。

「あの…でも急に音楽が再生されたりとか、緊急アラートがなったりとか本当に昨夜から変なんです。」

「左様ですか…ですが、確認した所機能的な面では不良は確認されませんでした。

仮に水に浸かったとしても、大丈夫な機種ですし。大きな衝撃などは与えられましたか?」

こんな会話を30分以上したが、結局原因不明。不良も確認出来ない為、交換は不可。もし変えたいなら、新規でという最悪な結果に終わった。

本当今日は朝からついてねぇな…仕事もしていないのに、ドッと疲れが来た俺は重い足取りで帰路に着いた。

もう何もしたくない…何なら明日会社にも行きたくない。折角有給使ったのに全然問題解決できなかったし。

まだ夕方だし、少しだけ…眠ろう。









ぱっと綺麗に目が覚めると、俺の家に知らない人がいた。しかも女性。

「あの…お、おはようございます…ってあれこれは正しいのかな?」

「だ、誰ですか?!こ、ここ俺の部屋なんですけど!!あれっここ俺の部屋だよね?!!」

「あ、はい…そうなんですけど。取り敢えず落ち着いてもらっても…」

暫く女性とまともに話していない俺はテンパってしまった。何故か突然大きめのTシャツ一枚しか着ていない女性が家に居たらもうビビりまくっていた。

「突然入ってしまったのは本当にすいません!あの実は鍵がかかっていなくて…」

あれ?もしかしてこの人、殺人鬼とか俺のストーカーで俺はこのままこの人に包丁か何かで刺されて死ぬ?あ、もう俺死ぬんだ。何もないつまらない人生だったなぁ。せめて殺されるなら一思いに…

「私のストーカーから逃げるのに必死で、つい入り込んでしまいました。今は警察を待っている状態です。本当に厚かましいのですが、警察がここに着くまでいさせてくれませんか?」

「わ、わかりました…取り敢えず俺を殺したりとか、金目の物を強奪とか…」

「そんなことはしません!!今私携帯しか持っていませんし…」

相手に殺意がないことは明らかだったが、念の為に聞かせてもらった。彼女の話では10分以内には着くだろうと説明されているらしい。それくらいならまぁいいか。だけど、こんな汚くてむさ苦しい男の部屋に入ってしまうなんて可哀想に。そう思うと俺は、この部屋がとてつもなく恥ずかしくなってきた。軽く片付けるか。せめて食い残しとかゴミ袋に…俺がのっそりと起き上がり軽く片付け初めると、彼女は慌てて手伝い始めた。

「私も手伝います!やらせて下さい。匿って頂いているのでこれくらいは!」

「い、いやぁ大丈夫ですよ。それよりもこんな汚い部屋ですいませんね。片付けまめにしない方でして。」

「そんな!お仕事していたら面倒ですよね。溜め込んじゃうのしょうがないですよ。」

意外にも和気藹々とした雰囲気になり、2人で俺の部屋を片付けた。床がかろうじて見えていた部屋は、久し振りに床の全貌を見ることができる様になっていた。そして外はもう夕方ではなく、夜になっていた。

「すいません!もうこんな夜遅くになってしまって…!!!あれから警察から連絡とかは来ていないんですかね!?」

「…あぁ、本当ですね!つい夢中になっていたので気づきませんでした。

携帯震えてないので、まだ来てない…ですね。」

「そう、ですか。」

どうしよう。彼女をこれ以上長く俺の部屋に留める訳にはいかない。だからと言って、家まで送りますというのも…でも追いかけられたと言っていたし誰か男手があった方がいいのは確かなんだが…



キュウゥッ



突然、心臓にとんでもない痛みが襲い掛かる。まるで誰かに粗暴に握られているような…なんだ?!前の二回と違う!!桁違いだ…っ!俺の携帯を目で探すも視界にはない。俺の後ろか…!残念ながら後ろを振り返れる余裕がない。気管支からヒューヒューと聞いたことがない音が部屋に響き渡る。か、彼女に助けを…!




「お探し物はこちらかしら?」

俺の目の前に聳え立つ彼女は口端をこれでもかと言う位に上げて、俺を見下ろしていた。手には俺のスマホ。



なんで、どうして、このことに関して何か知っているのか疑問は多く出てきたが、それよりもいち早く彼女の手から俺のスマホを手放すのが先決だ。上手く酸素が回っていない中で彼女にスマホを離すように伝えようとするも、ただヒューヒューと音が鳴るだけで話せる状態にならない。

「あぁごめんなさいね?これで良いかしら。」

彼女は俺のスマホをポケットへとしまった。その瞬間心臓が通常通り機能していく。

「な¨ぁっんで…ゲホ。」

疑問を聞こうとするも声がまだ上手く出せない。彼女は一体何者なのか。どうして俺のスマホだと一発で解ったのか。もしかしてストーカーの話は嘘なんじゃないのか。聞きたいことは山積みだ。

「あのねぇ、私のこと覚えてないかな?小学校同じだったんだけど。

まぁ女の子は変わるって言われているしね。私は一発で気付いたけどお。」

俺が聞きたいことの答えが一切入っていない話を彼女は俺を待たずにペラペラと話始めた。

「私さぁ、貴方のこと骨折させちゃったことあったのよ。私が転校してきてすぐ。滑り台で。

初めて転校先で遊んでくれる友達ができてテンション上がっていたのよねぇ。まだ純真だったわ。

早く行ってよって前の子が滑り終わるのを待っている貴方を無理矢理押して、ぶつかりたく無かった貴方は滑り台から自分から落ちた。

その時の貴方の顔ったら…」






思い出した。

俺は女子の前なのに鼻水流して泣いて、その上痛さの余りお漏らししたんだった。上から見下してる女子がいて…



「そう、滑り台で見下ろしいていたのが私。そしてあの時が私の性の目覚めだった。貴方もでしょう?

骨折して、泣きじゃくってお漏らしもしていたのに勃起していたんだもの。」





え?






そんなことあっただろうか?全く記憶にない。





「まぁ人の記憶なんて都合のいい部分しか覚えてないわよね。しょうがないわよ。」

っていうか何で俺話していないのに会話?なりったってんだ???まだ呼吸整えているのに。

「貴方のスマホが教えてくれるのよ。貴方がリアルタイムで考えていること、感情、テンションとかね。

まぁそういう風にしたのは私なんだけど。」



は?!!


あまりの事実に思わず顔を上げるが、彼女は気にせず話を続けた。

「私、その日から貴方のことが忘れられなかったの。一日だって記憶から消えたことはないわ。

あの後すぐにまた転校したっていうのに脳裏に焼き付いてしまって…

どうにかして貴方のあのだらしない格好がまた見たいと思ったの。

住所とか大学とか勤め先は分かってたんだけど、タイミングが難しくてね。

どうしたもんかと思っていたら、アプリがあったの。

【彼の心臓ごと貴方のもの❤︎】っていう怪しさ満点なものが。


絶対失敗はできなかったから、試しに入れたの。そしたら、見事大当たり!!

貴方の体調や感情まで全てこの掌の中で分かる快感ったら…最高。」

「つまり、昨日からおかしかった原因は貴方ってことですか…」

ようやく話せるようになった俺は口を開く。彼女はうっとりとした目で俺を見つめ、頷く。

「今、私は貴方の心臓を持っているわ。貴方が苦しむ姿を見たいの。この目で!!!!!」

ポケット越しに俺のスマホを強く握り締める。

瞬間気持ち悪くなり、嗚咽をしながら戻してしまった。体が震えているのが自分でも分かる。心臓が締め付けられ、酸素がうまく回っていない中彼女の高らかな笑い声が部屋と脳内に響き渡る。

殺す気はなくても、俺にこんな拷問染みたことを繰り返したいなんて…もう死んだ方がいっそ楽なのに…

気持ち悪くなった俺は、そのまま床に倒れ込んだ。俺のことを待っているのは地獄なのだ。どうしようもない。諦めるしか…








再び目が覚めると、俺は真っ白な天井と目があった。自分の部屋ではないことは確かだが、それ以外不明。

消毒液の匂いと共に警察の方が僕の所に来た。

僕が倒れてからすぐ、大音量で緊急アラートが永遠鳴っていたらしい。携帯の電源を切っても、切れなかったらしく不審に思った近所の人が通報してくれたんだとか。彼女は警察に不法侵入で取り調べを受けているらしい。余罪が出てくるだろうから検挙されるだろうと知った時は、心底胸を撫で下ろした。

携帯は結局買い換えていない。金銭面もあるけど、俺のことを守ってくれたし…流石に電話番号とかは変えた。

携帯は個人情報だから、ほとんど俺の分身みたいなもんだよな。もうちょっと普段の扱い丁寧にしよ…

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