宿題やらない大作戦
俺は魔法学院に入学するにあたって『宿題やらない大作戦』というものを考案した。ネーミングセンスが終わっているのは見なかった振りをしてほしい。
俺の意志を曲解した母及びおっちゃん等の常連客の善意の押し売りにより、もはや入学は避けられなくなってしまった。けれど、俺はなるべく学校に行きたくないし、勉強したくないし、お金を稼ぎたい。
だから俺は頭を働かせることにした。不本意ながら多くの人の期待を背負ってしまった以上、学校をサボるなどして行かないという選択肢は俺にはとれない。全員の気持ちなんて無視して自分の気持ちを優先することも一度は頭に浮かんだが、人として何かを失う気がして早々にやめた。
ならば、せめて家庭学習の時間だけは意地でも削ろうと思い至って考えついたのが今回の作戦である。学校にいる間が地獄なのに、家に帰ってまで地獄を継続したくはない。
ならばどうするか、と考えたときに前世で大学に通っていた時の記憶がうっすらと蘇ってきた。当時の俺は親が大学に行けとうるさいので、それに従って大学に進学することを決めた。だから学校なんて正直どこでもよかったし、学部も適当に決めてしまった。
文系と理系だったら数学と理科の方が暗記が少なくて済むからちょっと得意だと思って理系を選択し、化学系統の学部に進学した。それが間違いだった。理系学部は一年次から必修が大量にあり、時間割は初めからほぼ埋め尽くされていた。
大学生になったらいっぱい遊んでサークル活動に勤しんで、アルバイトも掛け持ちして、なんてイメージを抱いていた俺の予想していた大学生活とは掛け離れた授業詰めの日常が始まったのである。後から文系の友達に聞いたところ、文系、特に文学部などでは比較的余裕があるらしく、俺はしっかり学部を選ばなかったことを後悔した。国語も嫌いではなかったのに。
必修必修必修の毎日を馬鹿真面目に過ごしていたある日、俺は不思議な現象に遭遇した。俺は毎回授業に出ていて、課題も提出していた。その頃の俺はまだお金を稼ぐ楽しさに目覚めていなかったため、まだ真面目だったといえるだろう。しかし、授業をちょくちょく休み、あまつさえ授業中は携帯をいじって碌に話を聞かないやつが最終テストで俺より高得点を取ったのだ。
腸が煮えかえる思いだった。どうして俺が負けたのか、理由が分からなかった。だから少し調査してみることにしたのだ。
「よぉ早野、お前××教授のテストめっちゃ良かったらしいじゃん。何?勉強してたの?」
「いいや?俺は上手くやったんだよ」
「上手く…………?」
「ほらこれ」
そういって差しだされた一枚の紙はテストの問題だった。全く同じ問題に答え。書かれている日付が一年前であること以外は全てが同じだった。
「これは…………」
「あのおっさん、毎年問題変えてねえんだってよ。だからこいつの答え丸暗記すれば終わりってわけ!こいつはサークルの先輩から手に入れたんだよ」
「うそだろ…………」
「あ、お前もしかして真面目に勉強した口?残念だったな、大学の授業は情報戦なんだよ。先輩から楽単の情報聞いたり過去問手に入れたりすんの。勉強になってよかったじゃん」
「ああ…………そうだな」
そいつとはその一件があってから地味に仲良くなり、ノートを見せたり、飯を奢る代わりに情報を回してもらったりと色々融通してもらったりしたっけ。結局は俺もあいつに利用されてただけだったんだろうけど。
さて、今の俺がするべき事、それは早野と同じ利用される側ではなく、利用する立場になることだ。多くの情報をかき集め、最小の勉強量で学園生活を乗り切るのだ。
だから俺はそのために必要なものを三つピックアップした。
一つ目は真面目だけど人付き合いが上手くない友人だ。前世における早野に対する俺が正にそうだった。そいつに対して色々と融通を利かせてやる代わりに勉強を補助してもらう。課題の答えを写させてもらえると最高だが、そう上手くいくとは限らない。なぜなら俺がこの立場として選んだのがカサブランカだからである。彼女は見ての通り人付き合いに難がありそうだし、俺とは違う本物の秀才だ。正義感が強そうだから、俺がずるをすることを許してくれそうにないため、そこは手八丁口八丁で騙す。チョロそうだし大丈夫でしょ!
二つ目は頼れる先輩だ。授業の情報などを教えてもらうため、気に入られる必要がある。出来れば単位選択をする前に知り合いになっておきたいところだ。これは後から探す。
三つ目は教授と仲良くすることだ。大学の教授は意外と人情で動いてくれることがあり、仲良くしておくと提出期限などを融通してくれることがある。これは全員がそうなのではないため注意が必要である。
この三つを手に入れれば俺のバラ色の魔法学院ライフも間違いないことだろう。まずは一つをクリアできたため、次は二つ目に手を付けよう。
上手くいくといいですね^^