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入学しちゃった…………

 どうもマツバです。十才になりました。この世界でも春夏秋冬のような季節の変遷があって、現在の季節は春だ。実際には四季には明確な区分は存在しないけど、大体一年という数え方はあって、前世と完全に異なるのは、一ヶ月が四十日ということと、一月が春から始まって九月で終わるということだ。



 そして一月は前世でいうところの年度始まりでもあり、学校の入学式などは一月の初めに行われる。



『まず、入学生の皆様、ご入学おめでとう。ドゥナー魔法学院は君たちを盛大に歓迎する』



 そうそう、こんな風に。



 打ち上がる各種の魔法、舞い散る花を模した魔法、どこからともなく祝砲の音がなる魔法。



 数々の魔法に祝われつつ、俺はドゥナー魔法学院に入学してしまったことを改めて実感する。



『君たちは選ばれし精鋭だ。今年は特に入学を希望するものも多く、その分試験も難しかった。しかし、君たちは勝ち抜いて今ここにいる。君たちは年も離れているかもしれないし、立場が異なるかもしれない。でも今日から君たちは学友だ。これから数年間、同じ魔法の道を究めんとする仲間だ。よく勉学に励み、我が国と魔法の発展に貢献できる人間に育ってほしい』



 学園長の挨拶に歓声が上がる。しかし、俺には何にも響かない。



 ただただ、この無意味な時間が早く過ぎ去ってほしかった。学園長が話していた数分間の間にどれだけの客を相手できただろうか、と考えて、ただ空しくなるだけだと気づいてやめた。



「ちょっとあんた!」



 すると、隣から小声で話しかけられる。何かと思って顔を向けると、ぱっと見、俺と同い年くらいの女の子がいた。彼女の表情からなんだか怒っているような気配を感じとる。出来れば無視していたかったのだけれど、そうもいくまい。



「何?」


「あなた、話ちゃんと聞いてるの?お爺さま……じゃなかった学院長がお話してくださってるでしょ!ちゃんと聞きなさいよ!」



 うっわ、めんどくさいのに絡まれた。こいつ無駄に真面目な学級委員長タイプの女子だ。しかも学園長の孫だって?まあ、立場が違いすぎるし、言うことを聞いておこう。



 それにしても彼女見た目がいい。太陽の光をそのまま反射したのかと疑いたくなるほど艶やかな赤髪を腰の辺りまで伸ばし、先の方をゴムで止めている。目の色は髪と同じで鮮やかな赤が二つくりんと輝いている。高級そうな青のドレスとのコントラストが美しい。



 大きくなったら国で五本の指に入る美人になるんだろうな、と素直に思える顔つきをしている。胸はまだガキなのでこれからに期待と言ったところ。



 あんまりじろじろ見すぎるとまた怒られそうなので、壇上の学院長に目線を戻す。



 隣から「ふんっ。最初から聞いてなさいっての!」と聞こえてきた。すみませーん。



 それから入学式の終わりまで隣から視線を感じていたので、真面目に聞いてますアピールをし続けなければならなかった。何で無給で頑張らなきゃいけないんだ。



 入学式が終わると全体オリエンテーションへと移った。教員達の自己紹介と一年を通したスケジュールの説明の後、単位の説明に入った。



 この学校で唯一良かったと思えるのが単位制であるということだ。日本でいう総合高校や大学の制度によく似ている。必修はあるものの、自分の好きな授業を自分で選択できるのはありがたい。特に歴史関連の勉強は二度としたくない。



 その後いくつかのグループに分けられて学校側が決めた担当教員に振り分けられる。ゼミの振り分けといって差し支えないだろう。一人の教員に対し大体十人ぐらいが割り当てられている。教員は六人いるから今年の入学生はおよそ六十人といったところか。大分限られてるなあ。



「先ほども自己紹介しましたが改めて、私があなたたちの指導教員のライラ・アルバムです。専門は水を用いた魔法類です。よろしくお願いしますね。これからしばらくの間、ここにいるあなたたち九人で行動を共にすることも多いことでしょう。まずは自己紹介といきましょう」



 俺の担当教員は優しそうなおばあちゃんの先生だ。優しそうに見えるけれど、本当は厳しかったなんてことがないことを祈るばかりだ。専門は水ということで、俺はまだ使えないけれど、もし興味が湧く、もしくは楽単なら授業を受けてもいい。



 その後は各々の自己紹介に移った。だれから始めるか、互いに窺っていたところ、武将ひげを生やし、白衣を何故か着ている男が手を上げた。



「あー、じゃあ、おそらく年長の俺から。エト・イグニシュタットだ。今年で三十二になる。どうも二回りほど離れた天才児が二人ほどいるみたいで自信なくすなぁ…………ま、よろしく」



 話の後半は明らかに俺と隣にいる先ほどの赤髪の彼女を指していた。そう、学院長のお孫さんであろう彼女と俺は同じ指導教員に割り当てられていた。なんだか粘着されそうな予感がして嫌だ。



 そのまま年齢順に自己紹介が進んでいくのかと思いきや、赤髪のお嬢様が流れをぶった切って自己紹介を始めた。



「天才児とはお褒めいただき感謝するわ。でも、あたしはしっかり努力して入学を勝ち取った秀才でもあるわ!あたしの名前はカサブランカ・ハーレライト。きっと後世に名が残る偉大な魔法使いになるわ。その第一歩に立ち会えたこと、光栄に思いなさい!」



 へえ、やけに自信家だな。俺は嫌いじゃない。こういった子どもの受験は親がどれだけ金を注ぎ込めるかにもよるというけれど、この学院に入学するためには並大抵の努力では不可能であるということを身をもって体感した身からすると、ただの天才児として済まされてしまうのはちょっと腹が立つ。



 ただ後半はちょっと大言すぎて心配になってしまった。もしも達成できなければ、後悔するのは自分なんだよ…………?



 カサブランカは自分の自己紹介に満足したのか、次はお前が行け、と言わんばかりに手で合図をした。周りの注目は自然と俺に集まる。やりやがったな!



「マツバです。今年で十才になりました。魔法使いになれたら…………お金をたくさん稼ぎます。よろしくお願いします」



 特に意気込みなどあるわけもないので、地味に挨拶を終える。カサブランカは俺の挨拶が気に入らなかったようでもっと言い返してやりなさいよと言いたげな表情をしていたけれど、わざわざ敵を作る必要もあるまい。



 いって!脇腹抓ってきやがったこいつ!え、何?後で時間よこしなさい?どうやらめんどくさいやつに目を付けられたようだ。

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