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楽して稼ぐか、それとも

 俺は人気のない廊下を歩きながら結局どうしようかと思案していた。


 リヴァディアさん、改め先輩と話して分かったことはいくら才能があろうがなかろうが、ああはなるまいという反面教師的な訓戒と、結局自分の出来ることをそのまま金に変換出来るシステムを構築するのが早いということだ。


 彼女は他人に自分の研究成果を売ることで生活費を稼いでいるみたいだけど、俺にはそれは出来そうにない。そもそも魔法に対する知識が段違いだからだ。


 とりあえず彼女の研究の手伝いをすることは約束させられたから、それのお礼金は出してくれるらしいけど、大した額は期待できない。というか大した額を出そうとするかもしれないけれど、さすがに受け取る気にはならない。なのでとりあえずのところは頭を使って稼ぐのではなくて、体と時間を使って働くのが良さそうだ。



「あら、マツバくん。どうだった?何かいい方法は思いついたかしら?」



 そういえばゼミ室に荷物を置いてきたままだったことを思い出し戻ると、ライラ先生が仕事をしている所だった。相変わらず机に書類やら書籍やらを大量に積んでいるので、こちらの様子は見えない筈なんだけど、俺が来たということは何故か筒抜けだったようだ。



「いえ、実はまだ…………今すぐ参考に出来そうな部分は少なくて…………」


「あら、そうだったの。だったらごめんなさいね。お時間もらっちゃって」


「ああ、いえ。いいんです。一応研究の手伝いをさせてもらえることになったのと、それで報酬は出していただけるみたいなので」


「それはそれは…………良かったわね。それにしても彼女が他人に研究を手伝わせるなんて初めて聞いたわ」


「多分被検体としての参加だとは思いますがね。僕は魔法は使えますが魔法に関する知識は皆無ですし」


「ええ、そうね。魔法についてはこれから頑張っていけばいいわ。経験が先にあって後から知識を得る場合、経験が知識の裏付けをしてくれるから覚えるのも早いとおもうわよ」



 なるほどそういう考え方もあるか。なんとなく感覚でやっていたものの理論を言語化して理解できたとき、完璧に頭にたたき込まれた状態になる、と。


 ライラ先生にお礼を言って学院を後にする。今日一日だけでも随分と疲れがたまったような気がする。一日働いていてもあまり疲れは感じないのに、学校となると急にこうだ。精神的なストレスが段違いだからだろうな。


 それにしても一日目だというのになかなか濃い一日だった。その中で利用できそうな人は二人。


 一人はブラン嬢。彼女は僕をライバル視しているみたいだが、実際は勝負にならないレベルで彼女の方が上だ。そもそも魔法への理解だけを考えれば僕はこの学院に通う誰より劣っている。実際に魔法は使えるかもしれないけれど、使えるだけだし。


 だから彼女のライバルで居続けるためにはかなりの勉強が必要だけど…………するわけないんだよなぁ!どうにか彼女を利用する形で楽できる方法を考えておこうと思う。


 もう一人は先輩。彼女をどう利用するかについては大体考えついている。宿題やらない大作戦その2の信頼できる先輩としての利用は無理だ。しかしその3の足がかりとして彼女を利用することは出来るかもしれない。


 つまりこういうことだ。どうにか彼女をあの教室から引っ張り出して授業に参加させる。そうすることで教師からの評価を得ようという作戦だ。彼女なら授業に参加するだけでほとんど単位獲得は確実。つまり教室に運んでしまいさえすればいい。


 ちなみにライラ先生はダメだ。あの人は多分めちゃくちゃ真面目なタイプだ。平民の生まれで教師になっているということは、おそらくとんでもない努力家で、勉強を苦だと思わないタイプだろう。


 というかこの学院にいる人って大体がそういう人なんじゃなかろうか。あのレベルの入試を突破するためには、俺みたいに最初から知識的なリードがない場合、とてつもない勉強量を求められるし。



「ただいまー」



 家に帰ると母はまだ帰ってきていなかった。いつもならいるのにどうしたんだろう、と一瞬疑問に思ったが、すぐに理由に気づく。今日はゼミだけだったから、まだ正午を少し過ぎたばかりだったんだ。いつもは職種の関係上俺の方が帰ってくるのが遅かったからなんだか違和感があるな。


 時間だけがあっても手持ち無沙汰でなんだかうずうずする。やれることといえば、勉強くらいなものだけれど、もちろんやるわけがない。制服を綺麗に脱いで母と二人で一つの布団の隣に畳んでおいて、くたくたの私服に着替える。


 ちなみに洗濯に関しては母が働く店の魔導具の洗濯籠を使わせてもらっているのでかなり綺麗に保たれている。


 やっぱり暇だ。ならば、と外に出てみることにした。


 小学生のころって多分こんな風にずっと暇だったんだろうけど、あの頃の俺はどうやって暇を潰していたんだろう。ああ、そうか。友達と遊びに出かけていたんだった。


 そりゃ、暇にもなるよな。友達の一人もいないんだからさ。

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