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平民と天才

「ちなみに先輩ってちゃんと授業出てた時代はあるの?」


「うん、まあ一応。半年くらいは?」


「それ何年前の話?」


「えーっと12の時に騙されて入れられたから~…………3年前?」



 ということは彼女は現在15才か。若いな。天才ともてはやされるのも無理はない。弱冠十五才が成し遂げていい功績じゃないだろ。


 てか、騙されて入れられたって凄く不穏なこと言ってなかった?いや、俺も俺も。俺も騙されて入ることになったの。一緒だね。



「それがどうかしたの?」



 そうだそうだ。聞きたいことがあったんだった。あまりに強烈な返事しかやってこないものだから、それどころではなくなっていた。というかさっきから彼女と会話しているといつの間にか本筋を見失っている気がする。きっとそれは俺も彼女も自由に自分のやりたいことをしたいという気持ちがあるからなんだろうけど。はい、また思考が逸れた。



「何かオススメの授業とかってある?」


「何を言ってるの。ないよ。全部等しく無価値だよ」


「うん、そうだとは思ってた。じゃあ聞き方を変えるけど、この授業は特にダメってのあった?」


「それでいうと、ライラちゃんの授業かな。だって寝てても無視してくれなかったし~」



 その半年間ほとんどの授業を寝て過ごした彼女の姿が容易に想像できる。ライラ先生はそんな彼女ですら見捨てなかったのだろう。



「てことは単位一個も取れてないんじゃないの?」


「いやいや、全部取ったよ」



 彼女はあくびまじりの声で何でもないようにそう言った。ほぼ全ての授業で寝ていたのに、フル単!?



「は!?それでフル単!?どんな魔法を使ったらそんなことが!?」


「ふるたん?何それ、新しい呪文?」


「あ、えっと全部の単位を取得することを俺はそう呼んでて…………ってそんなことはどうでもいいんだよ。どうやったの!?」


「どうって…………全部満点取っただけだけど」



 あぁー…………と思わず感嘆の声が漏れる。うん、小テストと期末考査と実技テストで満点さえ取って、後は出席さえしておけば、いくら授業態度が悪くとも、最低限単位は勝手に手に入るのか。相変わらず参考にならねぇ~!



「先輩くらいになると勉強も宿題もしなくても満点取れるのか」


「まあね~」


「俺には無理そうだな」


「そう?あーいやそっか。君平民だったっけ。流石に厳しいか~」



 勘違いしないでほしいが、彼女は今平民を差別したわけではない。むしろ僕が彼女のように出来ない理由を的確に指摘しただけの話である。



 単に平民の生まれの子どもが専門的な学問を修めるのはハードルが高い。俺の生まれたこの国は豊かで裕福だから、平民に対しての教育も行われるが、義務化されているわけではない。例えば家業がある子ども、職人であったりの子どもには自宅での技能教育が行われるからわざわざ学校に行かないということもあるらしい。


 つまりこの国では勉強するかどうかは選択制である。俺がまだ今よりずっと幼かった頃からかんむり屋で働いていてもお咎めがなかったのは、こういう前提があったからである。


 大体の平民は子どものために学費を払って学校に通わせるのが一般的だ。学校では文字の読み書き、小学校内容の計算、歴史、そして礼節を学ぶことができる。レベルは低いけど。


 学費は年間30万イェン。ぶっちゃけそんなに高くない。うちみたいに極度の貧困状態にあった家庭でもなければ普通に払える金額だ。


 こういう一般常識的な知識を学ぶ分には平民でも難しくはない。問題は専門知識、特に国家資格を得ようと思うとかなり厳しいと言わざるをえない。



 ちなみにこのドゥナー魔法学院、年間の学費はいくらだと思う?



 正解は300万イェンだ。10倍だぞ10倍。うちの母が三年働いてようやく手に入るかどうかという額だ。なぜそんなに高いのかといえば、それだけの価値があるから、としか言いようがない。だって魔法使いの平均年収は500万イェンだから。例えば俺がこれから四年かけて資格を取ったとして、三年もあれば元が取れる計算になる。しかも母数が少ないから食いっぱぐれる心配もない。そりゃ高いよ、学費。


 あと、そもそも平民は入学することすら難しい。入学試験に向け、受験勉強をしなければいけないが、一般の学校に通っているくらいの学力じゃお話にならないので、追加で先生を雇ったり、教材を購入したりして対策を図る必要がある。しかし当然魔法学院に合格させるために雇う先生なんて払わねばならない給料が馬鹿高いし、教材も希少だから高い。


 ということで、平民にとってはまず手が届かない世界なのだ。だから俺が今ここにいるのは奇跡以外の何物でもない。もっと違う形がよかったけどね!


 ちなみに俺は独学で入学した。それは読解と算術の試験の勉強が必要なかったからである。最後の一科目である歴史だけ死ぬほど暗記した。



 さて話を戻すがどうして平民の僕が彼女のようにできないのかは、学院に入学する前についた差が大きすぎるからだ。


 おそらく彼女、この学校に騙されて入ったと言っていたが、その前から家庭で魔法についての教育を施されていたのだろう。ありえんほどお金を使って。でもないとこんな天才は出来上がらない。天才とは生まれた時から天才であるのかもしれないけれど、それが誰が見ても天才だと言われるようになるには、恵まれた環境での育成が欠かせない。


 某野球ゲームで例えると分かりやすいかもしれない。いくら天才選手であろうが、毎週遊びやデートばかりで練習をしなかった結果オールCの能力の選手になったとしたら、果たして世間は彼を天才と呼ぶだろうか。


 さて、多くを語ったが、結局言いたいのは、彼女は何も参考にならん、ということだ。もしや宿題やらない大作戦その2の信頼できる先輩が早速できたのでは!?、と思ったんだけどな。残念だ。

ブクマ、評価ありがとうございます~。これからもよろしくです、いえ~い。

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