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【コミック①巻8/30】元婚約者から逃げるため吸血伯爵に恋人のフリをお願いしたら、なぜか溺愛モードになりました【本編完結】  作者: 当麻リコ


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11.美しくなるために必要なこと

シキの美容特訓はなかなか難しそうなものだった。

その内容が、今まで私がまったくしてこなかったことばかりだったから。


シキが寝ずに考えた特訓メニューを発表する日、オスカーも私の寝泊まりさせてもらっている客室に顔を出した。

どんなことをするのか興味があったらしい。


まず、睡眠時間はしっかり守るようにと言いつけられた。

全てはそこから始まるのだと、彼女は至極真面目な顔で言い放った。


「睡眠不足は美容の一番の敵っす!」

「でも私、せめて少しでも伯爵のお役に立ちたいのだけど」

「俺の?」

「すぐに完璧には無理かもしれませんが、書類仕事は出来ます。計算や文章を書くことも。今までのお仕事を見せていただけるなら、自分で調べてある程度できますので教えていただくお手間も取らせません」


家では事務仕事を一手に引き受けていたし、だいたいのことは一度で覚えられる。

何の説明も引き継ぎもなく仕事を任されることが多かったゆえに、必死で身に着けたスキルだ。

期限に間に合わなければご飯を抜かれたりするので死活問題だった。


使用人たちの仕事を手伝うのはダメでも、領主の仕事なら少しは手伝えるかもしれない。


「おおっ、それは助かる」

「ダメっす!!」


そう思っての申し出だったけれど、提案を受け入れようとしたオスカーに対してシキが鬼のような顔で言った。


「美は一日にしてならず! 悪女も一日にしてならずですよ! 美しくなることを犠牲にしてまで勤勉に働く悪女がどこにいますか!?」

「んだよそんなにキレなくてもいいじゃんよ」


シキの剣幕に負けて、オスカーはいじけたように唇を尖らせた。

自分が言い出したことだから言い返せないらしい。


「ふふっ」


その意外なほど子供じみた仕草に、不覚にも少し笑い声が漏れてしまった。

それを見てシキとオスカーが顔を見合わせる。

失礼だったことに気付いて慌てて口許を手で覆ったけれど、二人は同時に二ッと笑顔になった。

その表情がまるで兄妹のようにそっくりで、また小さく噴き出してしまう。


「ごっ、ごめんなさい」

「いいぞ、もっと笑え」

「楽しいこといっぱいしましょうねフレイヤ様!」


揃って全開の笑顔で言われては、謝っている自分が馬鹿みたいに思えてくる。


「まあシキに任せたのは俺だ。おまえの判断に従おう」


諦め交じりのため息で言って、それから私の方へ向き直る。

そしてこちらへ真っ直ぐ近付いて、そっと私の顎に触れて視線を合わせた。


「俺のことを考えながら寝ろよ、ベイビー」

「んぶふっ」


オスカーの気取った表情とセリフに、硬直してしまった私ではなくシキが噴き出した。


「っひーウケる! 今の顔最高っすオスカー様! かっけー!」

「だろ? 俺この路線で行くわ今日から」


それから二人はケラケラと笑い転げ、ひとしきり笑い終わるとすぐにまた真面目な顔でメニュー発表の続きに戻った。

どうやらこの屋敷では常にこんなノリらしい。


流れの速さについていけない私は、顔を真っ赤にしたまま俯いてしまった。



睡眠だけでなく、食事にもシキの指導が入った。


今まで忙しい両親に合わせて食事時間はバラバラだったし、徹夜仕事が度々あったから夜食も当たり前だった。

家ではとにかく高い食材で高カロリー、家族全員が好きではなかったため、野菜は少な目だった。


それを言ったらシキに「ありえない!!」と絶叫されてしまった。


伯爵家では朝昼晩と決まった時間で食事をとり、もちろん徹夜はしないから夜食もなく、栄養バランスの整った豪華なものを出された。


私も野菜嫌いだと思い込んでいたけれど、そうではなかったらしい。

領内で取れたという野菜はいつでも新鮮だったし、コックの腕がとても良いらしく何を食べても美味しいのだ。

むしろこってり高カロリーのものより、上品な味付けの野菜メインの料理の方が好みに合った。


勉強も仕事もせずに、睡眠時間や豪華な食事をたっぷりとるのは罪悪感が強い。

けれど、シキの言う通りに数日過ごしただけで確実に肌ツヤは格段に良くなっていった。


家では両親の仕事を深夜まで手伝うのが当たり前で、手が空いた時でも勉強をしていた。

少しでも役に立ちたかったし、自分が無能ではないと言える存在になりたかったから。


両親に褒めてもらいたい。

兄に認めてもらいたい。

妹にバカにされたくない。


そんな一心でのことだった。


だけどこの屋敷では、そんなことをしなくてもよく食べてよく眠っただけで褒めてもらえる。

肌の調子が少しよくなっただけで、すぐに気付いてくれる人がいる。


それがとても不思議だった。

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