後編
女主人公視点。
私はとある国の王太子の婚約者です。時魔法の使い手とも呼ばれていましたね。まあ、本当は未来から来た管理者の一人なのですが。私が過去に渡った理由は歴史の修正です。私の婚約者である殿下を王にすることが目的なのですが、殿下が婚約者を見つけられないという理由から王にはなれませんでした。その婚約者を見つけさせるということが私のするべきことでしたが、私が婚約者になってしまいました。失敗です。過去に渡るということは多くの制約があります。その中には【歴史上に名を残してはいけない】という制約もあり、制約は絶対です。必ず守らなければなりません。はい、お分かりの通り完全にやらかしてます。公爵令嬢として過去に割り込んだところまでは良かったのですが、平民を助けるために時魔法を使用してしまいました。しかも、その平民が実は平民のフリをした貴族だったのです。最悪です。私の時代では時魔法は普通の魔法でしたが、この時代は希少な魔法だったようで・・・はぁ、最悪です。さらに不運なことに目的の王太子と出会った際、一目惚れをされてしまうという・・・本当に最悪です。それからはトントン拍子で婚約者になってしまいました。このまま王太子が王になれば私が王妃・・・はぁ、正直頭を抱えました。ですが、役目を投げ出すことはできません。なので、婚約者として振舞いつつ、タイミングを見てから事故に合ったことにして未来に帰ることにしました。
その後婚約者として過ごすしていたのですが・・・はい、彼を愛してしまいました。忙しいにも関わらず、少しでも時間ができたら私の元に来てお茶をする。私の嘘の誕生日パーティーにも何があってもパートナーとして参加する。私の些細な変化も見逃さず、事ある毎に愛してると呟く。いやぁ、私の負けです。完敗です。まさか、自分がここまでちょろいとは思いませんでした。ですが、私が歴史に名を残すことは許されません。そのため、彼が王になることがほぼ確定してから未来に帰ることにしました。そして彼が王になる1週間前、私は準備していた帰還計画を実行しました。馬車での移動中に事故が起きたという虚実と共に【一通の手紙】と【私の祈りと魔法を込めた星のピアス】が彼に贈られるように。
そして、未来に帰った私は裁判にかけられました。私の名が歴史に残ってしまったそうです。やはりタイミングが遅かったようですね。もっと早く計画を実行することもできましたが、彼と離れる決断がなかなかできませんでした。ほんと、管理者失格です。裁判で私は修正された歴史を聞かされました。どうやら彼は明君になれたみたいです。安堵しました。過去を変えるということは非常に困難なことであり、彼を王にすることはほぼほぼ不可能と思われていました。何故かって?婚約者をずっと選ばなかったんですよ。しかし、何故か私の見た目が奇跡的に彼の好みだったようで・・・どんな確率なんですかね?まあ、そんなことはどうでもいいことです。今は裁判中です。でも、正直裁判もどうでもいいです。制約違反は重罪、処分されるのがオチでしょう。彼が王になれただけで満足です。・・・え?もう一度過去に戻れ?名を残したのは重罪だが、歴史を修正した功績も大きい?だからもう一度戻り、名を残さずに修正すれば制約違反は無かったことにすると?なるほど、分かりました。もちろん過去に行きます。もう一度彼を見れるのであれば行きます。そして私はまた過去に戻りました。彼のいる時代に。
というわけで、また公爵令嬢として戻ってきました。今度こそ私の名を残さないようにします。ですが、彼に顔を見られるわけにはいきません。また一目惚れをされたらそれこそ戻ってきた意味がありません。さあ、頑張っていきますよ!
それから私は彼と会わないように気を付けつつ、彼にふさわしい婚約者候補たちを見定めてました。そして見定めた令嬢を彼と接触するように誘導しますが、彼は婚約者を決めようとはしません。どれだけの令嬢と接触しようとも婚約者にはしません。令嬢たちも婚約者に選ばれようと必死でしたが、彼は紳士的に対応しつつ受け流します。そんな姿も素敵・・・えー、失礼。私情が入りました。それからしばらくして、彼の様子が少しおかしいことに気が付きました。長年一緒にいた私だからこそ気づいた些細な変化と言いますか、纏っていた雰囲気が変わったのです。1度目の過去で私と出会った後のような雰囲気にです。気にはなりましたが、直接お話をするわけにもいか・・・え?彼が来た?は?なんで?どうしてか私が住む屋敷に彼が来たようです。不在ということにしようとしましたが、何故か屋敷にいることがバレています。あ、メイドがいることを伝えたみたいです。なんてことを・・・。ですが、それよりもどうしてなのでしょう?今回は魔法も使っていませんし、彼が私に気付かないようになるべく地味に過ごしていました。なので私のことは只の公爵令嬢にしか見えないはず。まあ、仕方ありません、こうなった以上会うしかありません。覚悟を決め彼の待つ部屋に入った瞬間、彼が言いました。
「君は時魔法を使えるのだろう?」
と。頭の中が真っ白になりました。今回は一度たりとも魔法は使用してません。彼が知っているわけがありません。困惑している私に彼はこう続けました。
「信じてもらえないかもしれないが、私は死に戻りをしたんだ。私はこの国の王として人生を全うしたはずだった。しかし、気が付いたらこの時代に戻っていた、この星のピアスと共に。このピアスは君が私に贈ってくれた最後の贈り物だったんだ。」
それを聞いた瞬間、私は喜びと同時に後悔をしました。やってしまった。ピアスが願いを叶えてしまった。いや、叶うように願ったのは私なんだが・・・最悪だ。私はこの時点で名を残さないという制約を守れないと悟りました。未来に戻り、罰を受けようとも思いました。ですがその瞬間、時空の裂け目が目の前でできたではありませんか。中から管理者の一人が出てきました。彼は突然のことで動けないようです。そして管理者の一人が言いました。
「過去になるか、未来に戻るか、選べ。」
もちろん私に言っています。そして私は過去を選びました。どうせ未来に戻っても処分されるのがオチです。ならば、今度こそ彼と共に人生を歩みます。2人でこの国の未来を築きます。そう答えると管理者はいなくなりました。その後彼に私の全てを話しました。彼は驚きましたが、すぐに笑みを浮かべて言いました。
「そうだったのか。だが、私の気持ちは変わらない。また私の婚約者になってくれ。そして、今度こそ私と共に歩んでくれ。」
ぽた・・・ぽた・・・。私は聞こえるはずのない音をこぼしながら答えました。
「はい、もちろんです。貴方様をこれからも一生愛します。」
・???にて
とある人物がモニターを見ながらこう言った。
「あれは過去を選んだか。そうか。優秀だったんだがな。惜しい人材をなくしたものだ。過去は簡単には変わらない。起こった事実もまた然り。それが例え嘘の歴史だとしても。まあ、私には関係ないか。さて、仕事に戻ろう。」
その者は部屋を出ていった。残されたモニターにはボロボロに倒れた馬車が映されていた。