これは、余命1年を宣告された女占い師と、その運命の伴侶の物語。
第一話
ホムラが、その少女と出会ったのは、本当に偶然だった。
真昼の街道をブラついていたら、1人の少女が男たちに取り囲まれている場面に出くわした。本当に、ただそれだけだった。
まったく。
ホムラは、ひとつタメ息をつくと、
「エナジ-フォール」
ゴロツキたちにエナジードレインを食らわせた。
今回は、半殺しで許してやる。これに懲りたら、真っ当に生きるんだな。ま、無理だろうけど。
ホムラは、倒れた男たちが復活してこないことを確認した後、
「おまえも、今後は気をつけるんだぞ。いつでもどこでも、都合よく助けが入るわけじゃないんだからな」
少女に忠告した。と言っても、今のホムラは気配を消しているため、その言葉は独り言に近いものだった。ところが、
「はい、気をつけます。それと、助けてくださって、どうもありがとうございました」
少女はホムラの言葉に応えて、ペコリと頭を下げてきた。
はい?
ホムラは回りを見回したが、周囲に人の姿は見当たらなかった。
「え-と、もしかして、俺のこと見えてる?」
ホムラにとっては、予想外の事態だった。ステルスモードに入ったホムラの姿は、普通の人間には見えなくなる。そのため、この少女も見えていないと、タカをくくっていたのだった。
「はい、見えてます」
少女は、きっぱり答えた。
やっぱりか。まあ、それだけ、この娘の力が強いってことか。ま、別にいいけど。俺が、この娘に何かしたわけでなし。俺を見て驚かないなら、こっちとしては、別になんの問題もないわけで。
ホムラは、そう気持ちを切り替えた。
「あの、どうかされましたか?」
「いや、なんでもない。とにかく、無事で何よりだ」
「はい、本当にありがとうございました。それに安心しました。わたしの伴侶が、あなたのような優しい方で」
少女は、ホムラに微笑みかけた。
「はい?」
ホムラは思考が数秒停止した後、
「伴侶?」
なんとか、それだけ問い返した。
「はい」
「え-と、いったい、なんの話をしてるのかな?」
「ですから、わたしの伴侶になる人が、あなたでよかったという話です」
「いや、だから、そこをもう少し詳しく」
「あ、そうですね。すいません。わたしったら、初対面の人に、いきなりこんなこと。あ、そういえば、まだ自己紹介もしてませんでしたね。わたし、シャイレンドラ・アリスノ-トと言います。あ、長かったら、シャインと呼んでください。親しい人は、みんなそう呼ぶので」
シャイレンドラは、屈託のない笑みをホムラに向けた。
この世界では、地位が高くなるほど名前が長くなる。苗字と名前だけということは、一般人レベルということだった。
「俺はホムラだ。あ、名字がないのは、別に元奴隷だからとかじゃないからな。単に、記憶喪失で、名前以外思い出せないだけだから」
「え? そうなんですか?」
「そう」
かれこれ100年ばかりな。と、ホムラは、心の中で付け加えた。
「で、さっきの話なんだけど」
「あ、そうでしたね。実は、この旅に出る前に、大婆様、あ、わたしの占術の先生なんですけど、その人に言われたんです。おまえは、この日この時この場所で、生涯の伴侶と出会うことになるって」
「それって、要するに結婚相手のことか?」
「はい。だから、さっきは困ってたんです。あんなに大勢の人のなかから、どうやって見つけようかと」
「……いや、さすがにコイツらは違うだろ」
ホムラは、倒れている男たちに視線を走らせた。
「でも、そこへあなたが現れて、わたしを助けてくれたのを見て確信したんです。ああ、この人が、大婆様の言っていた、わたしの伴侶なんだって」
「いやいやいや、ちょっと待て。どう考えても、おかしいだろ、それ」
ホムラは眉間を押さえた。
「どこがですか?」
「どこがって、見ればわかるだろ。俺はゴ-ストなんだぞ」
どう考えても、選考の対象外のはずだった。
「はい。だから余計に確信したし、ホッとしたんです」
「ホッとした?」
ホムラにとって、シャイレンドラの言動は、すべてにおいて謎過ぎた。
「はい。だって、わたし、もうすぐ死にますから」
シャイレンドラはそう言うと、満面の笑みを浮かべたのだった。