神鵡猪のAI育児録~星花女子プロジェクト第10期キャラクター紹介~
私、転素神鵡猪(てんすかむい)は苦労を知らなかった。
裕福な家庭に生まれ、アメリカの大学を主席で卒業し、自分が社長を務める会社は飛ぶ鳥を落とす勢い。私の辞書に「不可能」の文字は無かった。
……かに見えた。
少々ヤンチャが過ぎたらしい。
「……兎尾(とお)、重鹿(しげろく)、拾象(ひろかた)。お前らを呼んだのは他でもない」
ある日、私は日本支社の一室に三人の男を招集した。
「喜べ。彼女が妊娠したぞ」
陽性反応を示している状態の妊娠検査薬をチラつかせた。お互いを見合い、うな垂れる、私の三人の彼氏。
「本来なら、DNA検査で誰の子か調べるのが順当だが……面倒だ。お前ら全員父親になれ。異論は認めない」
そう、私にも不得手な事物が存在したのだ。
子育て、というものがな。
◇
それから幾年月が流れたある日、本社のあるインドから日本に帰ってきた。理由はもちろん、この国に置いてきている家族に会うためだ。
「見ろ! これが私の新作だ!」
「「「「????」」」」
「絶対装甲の大釜が極東より、大いなる美味しさを叩きつける! 艦載砲の砲弾さえ弾き返せ! その名はAI炊飯ジャー『米鎧(ライスガイ)』!」
「「「おぉ~~~!」」」
「ふっふっふ。これは戦地などの特殊な環境でも壊れないよう頑丈な外装を施し、識字率の低い国でも調理を行うためにボタン一つでメシが炊き上がるよう、プログラムを組んである! さあ牟亥(むい)! 我が社の耐久実験を突破したコイツを果たして打ち負かすことが……」
「えいっ」
「ガぁぁぁイッッッ!」
私の娘、転素牟亥(てんすむい)。常に最新鋭を追究する私とは正反対に、彼女は石器の作成を嗜んでいる。……いや、炊飯器を一刀両断できる石斧を持参してきたなんて聞いてないぞ。
「おまっ、おまお前! 私の息子になんてことをぉっ!」
「わたしのゆーこと聞けない奴は壊しちゃうもんね」
「ううう……。ガイ、もっともっと強い子にしてやるからな……。……まったく。この常識の通じなさは誰に似たんだ?」
「「「神鵡猪(かむい)くん」さん」ちゃん」
もはや恒例行事と化してしまった。