魔法の威力
兵士長は木でできた大きな執務机にどしりと構えていた。
「ヘンリク、お前は下がってろ」
「はっ、ベールヴァルド兵士長...」
ほほーん...このつんつん頭の兵士はヘンリクさんでこっちのめちゃ怖いおっさんがベールヴァルドさんって言うのか。それにしてもヘンリクさんめちゃカクカク震えてますけど...
まぁこんな眼力威圧MAXのおっさんが居たらそりゃ怖いよね。俺だって怖い。
作り笑顔を貼り付けた俺はヘンリクを挟んで右にいるホルグを見る。
うわぁ...すんごい泣きそうな顔しちゃってるよホルグのやつ...。
ホルグは少し涙目で俯きながら、木目張りの床をじっと見て完全にフリーズしてる。
正直俺もあのおっさんからは目を離したい。
ヘンリクは兵士長に拳を胸に掲げた敬礼をすると振り返り際俺たちに「頑張れよ坊主」と言葉を残してそそくさと部屋を出ていってしまった。
残された俺たちと兵士長の間に暫くの沈黙が訪れる。
「......、」
「.......、」
「...おい」
最初に口を開いたのは兵士長だった。俺は咄嗟に「はい...!なんでしょう!と返事をするつもりが「ひゃ、ひゃい!!!なんでしう!!!!」と盛大に舌を噛んだ。
もう最悪だ....。
しかし兵士長はでかい声で噴き出し笑い出す。俺も隣のホルグもなんとも言えない顔でお互い顔を見合わせた。
「ふ、ふはは....すまん、すまん。そう緊張するな。今日は君たちが起こした昨日の爆発に関する話を聞きたい。爆破の後は凄まじいもので私も報告書を書かねばならんのだ。」
兵士長はそう言いながら執務机の椅子から立ち上がると、そのすぐ前にある応接ソファーへ座るよう促す。俺たちは机を挟んで兵士長と向かい合うように椅子へと腰をかけた。
あれ?兵士長って実はめっちゃいい人かも???
皆が机に着いた所で兵士長は話し始めた。
まず兵士長が昨日大規模な爆発が起きた地点へ兵士を偵察に出したらヴァルシークは居らず大規模な穴と周辺一帯が焼けた荒地になっていたこと。
余りにも爆破による被害が広範囲で被害状況が全く掴めないという事だった。
俺が思ってたよりあの魔法はマジでやばいらしい...。
「....というわけで昨日兵士を呼びに来た少年と爆心地域から走ってきたそこの少年から詳しい話を聞きたい。」そう言いながら俺たちを交互に見遣る。
俺は自分の自己紹介と事の顛末を、ホルグにした説明と余り変わらない内容で話し始めた。
「....それで、魔法を撃ったら爆発したんですよ。俺まさかあんな凄い威力だとは全く思わなくて...とりあえずヴァルシークを倒せれば良いかなって思ったんです。」
やっぱり兵士長も全く納得いかない様な顔をしている。
そりゃぁそうだ。どんだけ吹き飛んだのかは知らないけど、だいぶ広範囲荒地にしちゃったっぽいもん俺。
しかも魔術具も無しに子供がそんな力持ってるとなれば尚更だ。
俺が居た世界の大人からしてみれば、多分子供に玩具として核爆弾与えてるもんなんだろうな...。お遊び感覚で街一つ滅ぼしちゃったけど悪気はなかったんです的な。
もちろん俺の最後の記憶は成人してるし、心も大人のままなわけで、手当り次第この馬鹿でかい危険爆破魔法を撃とうなんて全く思ってない。
「...魔術具も何も無しにあれだけの威力の魔法を撃ち込んだとはとても信じ難いが...とりあえず魔法発動者の君は...はウルフと言ったか?君が撃ち込んだ魔法がどれだけの破壊力だったかその目で見た方がいいだろう。」
そう兵士長から言われた俺たちは兵士のヘンリクさんと兵士長と共に爆心地へと連れていかれることになった。
見張り塔から歩いて3分程で辺りは徐々に姿を変える。草原の地面には所々に岩が突き刺さり茶色い土が草を覆っていて緑はまばらにしか見えない。
さらにそこからもう少し進むと熱で燃えた草花の灰と、まだ燻る様に煙をあげる小さな炎が見え、視界には巨大なクレーターが姿を表す。
そのクレーターの大きさは思ったよりもずっと大きく広がって居て、多分直径1kmはあると思う。それぐらい巨大な大きさだった。
「人が巻き込まれたという話は聞かないが...相当の規模の爆発だ。近くの村のハーフルトもそれなりに被害を受けているはずだ」
「ハーフルトって.....」
ホルグが少し目を剥いて驚愕した顔になる。そうだ...ハーフルトってのは俺とホルグの村だ...。
「俺、こんな酷いことになるとは思わなかったんです...。すみません...。」
俺は思わず2人に謝る。
兵士長は少し難しい顔をしてこの報告をどのように書くか悩んでいるようだった。
「とりあえず君の魔法の威力は危険だし、王国を揺るがす力になりかねない。こんな事態が王国に伝われば、反王国軍や王国騎士団、魔導師協会は君を喉から手が出るほど欲しがるだろう。君が他にどれ程の魔法を扱えるのか私は分からないが、その力で街ひとつを滅ぼせる力もある。このまま君を王国に危険人物として差し出すことも出来るが、私はまだ幼い君を親元から引き離すなんて事はしたくない。この事態は私が上手く報告する、今後無闇に力を行使する事を控えるように」
「はい...。反省します」
後々聞いた話ではヴァルシークの中に自爆する傾向があるダークファイアーボムが混ざっていてその自爆がヴァルシークに思わぬ変異を起こし魔力による大爆発に発展したと言うことにしたらしい。
俺は少々無理がある言い訳だと思ったが、王国の騎士団が怪訝な顔してそれでも受け取って帰ったのだからすごい。
俺でこそ、なんだこのめちゃくちゃな報告書と叫びたくなる内容だが....
___まぁ、終わりよければ全てよし。
俺たちはそのヴァルシーク爆破事件の跡地から見張り塔に向けて来た道をまた戻る。
その間も俺はホルグと口を聞く機会をなかなか作れずにいた。
すると兵士長の後ろ、真ん中を歩いていたヘンリクが俺たちに話しかける。
「君たちは、いつも2人でいるのかい?」
「いや...いつもウルフとシェスティンと居ます」
ホルグはそうヘンリクに答えた。ちなみにシェスティンと言うのはウルフの記憶をたどると同じハーフルトに住む少女らしい。俺とホルグは今年10歳みたいなのでシャスティンの方が2歳年上のお姉さんだ。
「へぇそうなんだ、君たちは仲良しなんだね」
「ウルフとは小さい頃からずっと一緒なんです。俺が出来ないことはウルフがしてくれたし、ウルフが出来ないことは俺がしてきました。それにシャスティンは俺たちを上手く仕切ってくれて。」
ホルグがどんなことを口にした。俺は思わず感動する。
大半は前のウルフのことで俺の事じゃ無いだろうけど。
でも俺はホルグに感謝を込めて「ありがとう、これからもずっと友達で居てくれよ」と言った。
ホルグは少し驚いてから戸惑った表情になった後に「勿論だよ」と返してくれた。
俺にはそれだけで十分だったし、俺の事をキチンとホルグに伝えようとその時心に決めた。
見張り塔まで送って貰ってから俺たちはハーフルトの村に帰る準備を整えて夕方にはヘンリクと一緒に見張り塔を出立する。
兵士長の「ハーフルトもそれなりの被害を受けているだろう」と言う言葉が俺たちの足を先へ先へと早めていく。
俺はホルグに「みんな無事だといいな」と口にした。夕日を受けたホルグの表情は少し曇っているようにも見える。そんなホルグは俺の問いに小さく頷いただけだった。
本当は見張り塔からハーフルトがある東に向けて抜けた方が1番近いけど、そっちは俺が爆破したおかげで街道も木っ端微塵に吹き飛んだ所か周辺岩だらけでまともに通れず危ないので、仕方なく北側から川を沿うように遠回りをしてハーフルトまで抜けるらしい。
ハーフルトの家の屋根が見えたのは、もう日もだいぶ落ちて一番星が輝き出すほど空が群青色に染まった頃だった。
俺たちは日も落ちてきたしヘンリクに村へ泊まるように言ったがヘンリク曰く今夜は夜番らしく早く戻らないと夜番の交代が出来ないとの事だったので村の入口でヘンリクを見送る。
_____そういえば何も言わずに1日も家開けちゃって父さんも母さんも心配してるだろうな...。
そんな思いが何故か浮かんできた。
ハーフルトの村へ入るとやはり爆発の影響か家の窓が無くなっていたり、屋根に土が被っていたりした。それでも大きな被害がなかったことに心から安堵する。ホルグも「良かった....」と安堵の表情を浮かべていた。
俺はホルグに「早く帰ろうぜ」と伝える。きっとホルグの両親も何も言わずに1日も家を留守にしていたのだから凄く心配しているだろう。
俺はホルグに「明日大事な話をしたい」とだけ伝え、手を振りながら、ウルフの両親の待つ家へと足早に向かった。
やっぱりあの魔法はやばい魔法でした。
そしてめっちゃキャラクターどんどん増えていきます。
兵士長のベールヴァルドは見た目は怖いけど結構優しいおっさんです。でもヘンリクさんタダの鬼上司だと思ってます。
次はハーフルトの村について書きたいと思います。
異世界転生した尊の波乱万丈は止まりません...