ヴァルシークとの戦いとホルグの疑心
ヴァルシークはほんとに気持ち悪い見た目をしてると思う。
シークって言うのは羊のシープから来たんだろうか?それにしても何処をどう見ても可愛くない...。オーラを纏って羊みたいなんて思うけどその下はガリガリの犬体型。あのプードルとか羊ってモコモコした毛があるから可愛いと思えるけど、あれって全部剃ったら全く可愛くなくなるじゃん?まさにそんな感じ。黒い禍々しいオーラは透けてて遠くから見ればそこそこマシなのに近くで見たらダメなやつだ。
とりあえず少し離れた所からジリジリと詰め寄ってくるヴァルシークを威嚇するように睨みつけさっき頭に入ってきた戦闘の知識を脳みその引き出しから必死に引っ張り出す。
攻略方法が分からない以上手当り次第攻撃してみるしかない。
「えっと...とりあえず使える属性は...火属性、土属性、水属性、光属性....って全属性じゃないのかよ。どうせ他者より優れた才能くれるならそこは全属性だろ...闇と風の属性はどこいった...」
ひどい話だ。
どうせくれるなら全部くれりゃいいのに...。
まぁいくら嘆いても仕方が無いので使える属性で戦うしかない。俺は最も危険な剣での殴り合いは出来るだけ避けたい。魔法があるなら魔法を使いたいし、その方がリーチも長い。魔法がないなら仕方なく剣で戦っていたけど、短剣じゃ心許ないことこの上ない。
俺はあの謎の女性に与えられた知識を元に、とりあえず真っ黒いから光属性が効くんじゃ...?とか安易な考えで光属性の魔法を打ち込む
「とりあえず強い方がいいよなぁ...範囲系が1発で狩れるから広範囲で強力そうな魔法...。これかな...?....シャイニングバースト!!!」
そう言い終えた瞬間だった、真上からとてつもない光と熱源が現れ10〜20mはあるんじゃ無いだろうかという程の小さな太陽が出現する。
それがゆっくりと降下していきヴァルシークの集団がいるど真ん中に着弾した瞬間に、眩しいほどの光を放ち轟音と共に爆発する。その轟音は空気を震わせ、さらには踏ん張っていないとぶっ飛びそうな衝撃波が俺を襲った。
それは見るからにやり過ぎというかなんというか...。ともかく、その規格外な魔法を使った為か新たな危機が俺に迫っていた。そう...隕石が落ちた時の様に周りの土が抉れてとてつもない大きさの岩や石、更には土が巻き上がって空から降ってきたのだ。それも結構な速度で...。
バーストって言うくらいだから爆発する事はなんとなく察しがつくけど、そこそこデカいミニ太陽が爆発するなんて思ってもいなかった。
ヒュッと風を切りサッカーボール位の岩が俺の真横スレスレの地面にドスッと鈍い音を立てて突き刺さる。
「ひぃっ!!!!まって死ぬ!!!俺死ぬ!!!岩で死ぬとかダサすぎる!!!」
ここに来て助けに来たホルグが見たのが降ってきた石で死んだ俺とかとても情けない。それに、こんな爆発なんだから多分あのヴァルシークとかいう魔物は絶対に木っ端微塵だと思うし、舞い上がった土煙で詳細は分からないけど出来れば生きてていないことを祈るしかない。
其れよりも俺はこの襲いくる岩をなんとかしなければ..."といっても逃げるだけなんだけどね"
俺は一目散に駆け出した。背後からは岩が地面に刺さる鈍い音が俺を追うようにして聞こえてくるし、舞った土が口の中に入ってジャリジャリする。
おえぇ...と嗚咽を漏らしながらがむしゃらに走った、ただひたすら走った。
多分2、3分走ったと思う。...遠くてよくわからないけど、道の先から何人もの人がこちらへ走ってくるのが見えた。
どんどん近づいてくるその人たちはどうやら銅色の甲冑を纏った兵士の様だ。そしてその先頭には見張り塔へかけて行ったあのホルグの姿が見える。
多分彼らにも後ろで巻き起こってる出来事が見えるのだろう。すぐ様その足を止めてキノコ雲のように舞い上がる煙と空へ舞い上がった無数の石を呆然と見上げている。
俺はその集団へと到達するとホルグ含めた大勢の兵士に声をかけた。
「あんたら、早く逃げないと降ってくる石で死ぬぞ」
ホルグは状況を上手く飲み込めないようで「なんだよあれ」としつこく聞いてくる。
「説明は後でするから早く逃げるぞ!見張り塔の中まで逃げれればなんとかなると思う。見張り塔までそんなに遠くないだろ?」
「それはそうだけど...見張り塔着いたらちゃんと説明してもらうからな....!」
ホルグはそう言うと引き連れてきた兵士に"とりあえず戻ることを告げる"兵士の中には石ころ程度で死ぬなんて"と石を甘く見て笑う者も居たけど、ドスッと間近に岩が落ちてくればすぐにその顔から笑顔は消えた。
心の中で「巻き込んでごめん...!」と多少の反省をしながら俺たちは見張り塔まで逃げることになった。
あの場所から見張り塔間では意外と近かった。
この見張り塔は門と共に道路に設置されていて左側に大きな見張りの塔が、右には2階建てで石造りの宿舎が併設されている。
とりあえず俺らはその家へと駆け込んで扉を閉めた。
流石に見張り塔まで遠くなると大きな石は飛んでこずパチパチパチと小さな石ころや砂が窓を叩く音が響く。
俺は心から死ななくて良かったと思った。1度ならず2度も死にかけるとは思ってなかったし、何よりあの攻撃があれほどの威力なのは予想外だ。
あれは自分の身にも危険なので今後は使わないで心の奥の引き出しに封印しておこうと思う。だって自分の攻撃で自滅なんてしたくないし。
見張り塔に駆け込んだ瞬間俺はホルグの質問攻めにあった...。
「まずウルフ。あれはなんだよ。こっちまで爆発の音が聞こえてくるし、外はこの有様だし一体何があったんだ...?」
「いや...何って言われても...。攻撃したら爆発した」
ホルグは本当かと問うように訝しげな顔になる。
でも嘘はついてないぞ。ちょっと強い魔法打ち込んだらすげぇ爆発しちゃったんだから。
「あれはお前がやったのか?」
「そうだけど...」
「短剣しか持ってないのに...?」
「なんか魔法打ったらああなった」
嘘はついてないのにホルグはどんどん俺を疑る様な顔になる。どうやらホルグが言うには魔法を撃つためには物、すなわち杖や魔術具といった道具が無いと魔法は扱えないし、そもそも魔力を持つ人間は余りいないって話だ。そんな事を言われても、撃てたもんは撃てたし何もやましいことなんて俺はしてない。
事の経緯に関しては詳しい話を兵士長が聞きたがっているらしく、とりあえず俺たちは今日は見張り塔の横の宿舎に泊まり、明日兵士長に会うことに。
初日からの災難と何度も全力疾走した疲れはすぐに出てきて俺は布団に入ると夕飯も食べずに寝てしまった。
次の日何事も無かったかのような快晴の青空、差し込む朝日の光で目が覚めるとすぐに兵士が俺を呼びに来た。
"そういや兵士長が詳しい話を聞きたいとか言ってたっけ..."
昨日ホルグに伝えた時を思い出す。ホルグがあんなに信用していなかったんだ、とてもじゃないけど兵士長ともなれば多分もっと信用されない気がする。でも、何度も言うけど嘘は言ってない。
本当に何もなしに魔法が打てたし、本当にあんな威力だとは思わなかったし、本当に予想外だったんだから、俺だって被害者だと思ってる。
とりあえず夕飯も食べなかったせいか、すこぶるお腹がすいた俺は朝食は食堂に既に用意されていると兵士から教えて貰ったので、廊下で鉢合わせした寝起きで眠そうなホルグと食堂へ向かった。道中する会話も特にある訳じゃないけど昨日の事を考えると少し気まずい。
食堂は宿舎の1階部分をまるまる使っていて多分30人は入れると思う...多分。
俺たちは4人ほどが座れそうな丸い食卓テーブルに腰を降ろすと50代位の少しふくよかなおばさんが料理を運んできてくれた。少し固めのパンと野菜のスープ、それに焦げ目が付いた美味しそうなベーコンが2枚。ちょっと質素だけど腹が減ってた俺は頂きますと口にしてご飯を頬張った。
だけどホルグだけが少し周りを気にしてる。
「どうしたホルグ?食べないのか?」
「いや...ちょっと...」
んー???どうしたんだろう?俺にはそのちょっとがわからず首を傾げていると、料理を出してくれたおばさんが何かを察したのか食堂にいた兵士たちに声をかける。
「ほらアンタたち!何時までも喋ってないで、朝ごはん食べたならさっさと自分の仕事に就きなさい!」
その一言で食堂に居た兵士たちがどんどん外へ出てく。そこに来て気づいたのだが兵士の目線が少し痛い...悪い意味じゃなくて、なんかこう珍しいものを見るような好奇心に溢れた視線だ。しまいには"あいつだろ、例のヴァルシーク事辺り一帯吹き飛ばしたって奴"なんて声も聞こえてくる。
えっまって...?俺そんなに広範囲吹き飛ばしちゃった感じ...??
残った兵士も食堂から退出しガランとした食堂は一気に静かになった。
「ホルグ、まさかみんなに見られて恥ずかしかったのか?」
「違うよ...!そうじゃなくて...いやそれもあるけど...ちょっと違う...」
ん〜...何がどう違うのか俺にはさっぱり分からない。あれかな。ちょっと寝不足とかそんなので不機嫌とか...?
そうこう考えるとホルグが「後で話す」と言った。
後っていつ..俺すごく気になっちゃう。
とりあえず気になって仕方がない思いを悶々と抱えながら朝食の時間は終わった。
そこから俺たちは一旦部屋に返され10時の鐘がなるまで各自部屋で待ってるように言われた。
部屋に返されて間もなくホルグがやってきた。どうやらさっきの後では今のことの様だ。
「それで、どうした浮かない顔して」
「お前本当にウルフか?」
俺は一瞬ドキリとする。少し引きつった顔で「なんでそう思う?」と問いかけた。
「だってウルフは魔法なんて使えないし、そもそも自分からヴァルシークに挑むなんてそんな馬鹿なこと絶対しない」
「いや...それはどっちにしろ危なかったし...殺られる前に殺らなきゃと思って」
俺が実はウルフでは無いとバレてるんじゃ無いだろうか...?そんな不安が頭をよぎる。別にバレたってどうってことは無いが、ずっと友達らしいことをしたいと夢見てた病弱な俺にはちょっと心身的な大ダメージが大きい。
「俺実はお前がはぐれたヴァルシークに襲われるところ見てんたんだ。赤い血が飛び散って絶対死んだと思ってた。すぐに大きな群れが来て兵士を呼びに行かなきゃって思った」
その話を聞いて俺はやっぱりか...と思った。あの場にヴァルシークは居なかったけど確かに強いあの禍々しいオーラをすぐ近くに感じた。
ホルグは話を続ける。
「でも...俺が兵士を呼ぼうと思って見張り塔の方向を向こうとしたら、お前が何も無かったみたいな平気な顔で立ったんだ。走ってきた時も服は破れてたのに傷すら無かった。」
聞いてみれば納得する。そりゃぁ血飛沫あげてぶっ倒れた人間が平気な顔で走ってきて傷一つありませんでしたなんて所を見れば驚く所かホラーものだと思う。
ホルグは何ともない普通の顔してたけど、多分信じたくなかったんだろう。知ってるウルフがウルフじゃ無いことを。多分ホルグはもう薄々気づいてると思う。
「なぁホルグ...俺...」
そう俺が言いかけた時10時の鐘がなって数秒後部屋のドアがノックされた。
「兵士長がお呼びだ」
外から聞こえた兵士の声に俺は言いかけてた言葉を飲み込みホルグに「ごめん」とただそれだけを口にした。
ホルグもそこから俺に問い詰めることはせず2人無言のまま部屋を出る。
兵士長に会うだけでも気分が重いのに今は更に最悪な気分だ。
うへぇ...兵士長になんて会いたくない。そう心の中でブツブツと呟いた。
兵士長の部屋は2回の右端、門の光景が間近で見れる位置にあって廊下に兵士が2人たっている。俺たちの案内をしてきた兵士は入口の兵士にたいし右手で拳を作り胸の前で掲げる敬礼をするとドアをノックする。
「例の2人を連れてきました」
その言葉の後に低く重圧のある声が"入れ"と入室を促す。
ゆっくりと開かれた扉の真正面の机には額に傷跡があり金色髪のオールバックで厳つい顔をした怖いおっさんが座っていた。
モチベがある時にバンバン書いていきます1日一投はしたい...!
ウルフはちょっと強い魔法を使ったつもりが実はめちゃくちゃ広範囲を消し飛ばしちゃいました。詳しい話は次話で触れようと思います。
そしてホルグは薄々気づいちゃってますね。ウルフが自分の知ってるウルフじゃなくて少し困惑気味です。
次話は兵士長との話をまとめていきたいと思います(出来れば)