第7話
「今日、この時を以て、ディアーナ・ハーティングとの婚約を破棄する!」
「シルヴィオ殿下! わたくしは」
「言い訳はいい。連れていけ」
「殿下!」
わたしは引きずられるように衛士に連れていかれた。
ヒロインのマリアンが、わたしのことを息を呑むようにして見つめている。
実は、このイベントは割と序盤よりにあるのだ。
序盤の最後というか、中盤の入口くらい。
元々RPG風のパートとアドベンチャーパートと育成ミニゲームがあって、前半はアドベンチャーパートと育成ミニゲームが多く、後半はRPG風パートが多くなる。
ラスボスが魔女なので、中盤から先は街中や森が舞台になるからだ。
ヒロインをいじめていた悪役令嬢は、その時に親密度の一番高い攻略対象によって排除される。
今更だけど、このゲームの分岐に関わるパラメータが好感度ではなくて良かったと思う。
シルヴィオ殿下のヒロインへ好感度を上げるとか、この五回目ではもう不可能だったもの。
だけど親密度は、好感度とは似て非なるものだ。
……結果論だけどね。
シルヴィオ殿下はヒロインとの親密度を上げる……つまり、仲良くいちゃいちゃするのが辛いとしょっちゅう愚痴を零して、しょっちゅう誤解しないでほしいと縋りつかれていたけど、それはちょっと我慢したし、我慢してもらった。
序盤で、いちゃいちゃも大したことのないレベルだし……
ちょっと気にならなかったとは言わないけれど、確実に狙った通りの状況に持っていくには必要なことだった。
「お疲れ様でした」
「はっ」
ヒロインと攻略対象たちの目から離れ、廊下を少し進んだところで柱の陰から侍女の姿をした魔女が現れた。
そこで衛士はわたしの手を離し、敬礼をし、わたしにも申し訳なさそうに詫びてくれる。
「申し訳ございませんでした。お怪我はございませんか……?」
「いいえ、大丈夫ですわ。お役目ですもの」
この衛士は、これが茶番だったことを知っている。
シルヴィオ殿下は婚約破棄の後わたしを死ぬ前に救出する魔女の提案を受け入れた後、ひとまずシナリオ圏外でわたしの安全を確保するけれど、婚約破棄は嘘だとしたいと主張した。
婚約破棄した令嬢ともう一度よりを戻すというのは、この国の今の貴族社会、まして王室では難しいからだ。
そんな経緯を経てもシルヴィオ殿下がわたしと結婚するためには、最初から嘘で、茶番にしておいて、噂が外には漏れないようにしておく必要があった。
そのため、まずは婚約破棄の場所に何も知らないモブがいないように調整したのだ。
元々この婚約破棄はパーティーみたいな場所でするものじゃなく、わたしがヒロインを攫ってどこかに捨ててこようとするようなシーンから現行犯的に取り押さえられて、連れていかれる流れだ。
攻略対象以外にも殿下の側近である騎士や文官がいたけれど、ヒロインに入れ込んでいて話を聞いてくれるかわからない攻略対象以外は、予定通りの茶番だと知っていた。
ヒロインと攻略対象たちがわたしのことを悪人だと思い込んで、わたしを害そうとしているとして、わたしがしばらく身を隠すための計画をシルヴィオ殿下が立て、信頼できる者だけに協力を求めたことになっている。
もちろんわたしの悪役令嬢な噂が流れる前に取り込んでおく人々を選び、先手を打ったのだ。
わたしがヒロインをいじめている噂は流れたけれど、それが流れる前に「そういう噂があっても、それは嘘だ」「ディアーナを嵌めるためにそういう噂を流そうとしている」と吹き込まれていれば、頭からは信じないだろう。
少なくとも迷いは生じると、わたしたちは考えた。
シナリオ通りに流れようとする強制力はあっても、記憶まで完全に操る絶対的な力ではないことは四回目までのわたしで明らかにされているからだ。
だけど一回目のわたしたちを考えれば、役割のあるキャラの思考は操ろうとする力がかかっているから、攻略対象を味方に取り込むことは諦めた。
シルヴィオ殿下に忠誠を誓う人たちの中からは第一王子の婚約者を害そうだなんて輩はひっ捕らえてしまえば、なんて過激意見ももちろんあったけれど、攻略対象には公爵子息なんてかなり偉いところや騎士団長子息、筆頭宮廷魔術師なんてのも混ざっているので、穏便に解決するためにいったんわたしを隠しちゃおうと丸め込んだ形だった。
いったん隠したって普通は誤解が解決なんかしないと思うけど、今回に関してはシナリオ期間を抜ければ今はわたしを排除しようと考える攻略対象たちも正気に戻る見込みなので。
そうすれば……わたしがゲームのシナリオの影響で不幸になることは、ひとまずなくなるはずだった。
この後、ゲームが終わるまでわたしはシルヴィオ殿下の部屋で隠れていることになる。
……これも、シルヴィオ殿下が折れる条件だった。
「本当にいいの?」
「……はい」
わたしは無事衛士から魔女扮した侍女に引き渡され、シルヴィオ殿下の部屋に向かっている。
衛士に強制力が働いて本当に牢に連れて行こうとする可能性もあったから、実力行使もできる魔女が途中で現れたけれど、ここまでは順調のようだ。
そして、シルヴィオ殿下の部屋につく。
わたしは、ここでこっそりシルヴィオ殿下と暮らすのだ。
外には出られないから、事実上監禁である……
「まあ、貴女が納得してるならいいわ。でも、今更だけど、自分を大事にしなさいよね」
……だって、どうしても殿下が自分と一緒じゃないとってきかなかったんだもの……