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第6話

「え……?」


 理解できないことを言われたかのようにシルヴィオ殿下が目を見開き、瞬きを繰り返した。


「つまり、子どももできるゲームだったので、残酷なシーンはなかったのです」


 だから、ゲームの悪役令嬢は婚約破棄されたり、追い払われたりしたところで終わっていたのだ。


 シルヴィオ殿下の眉根が寄った。

 表情は変わったけれど、理解できないと思っていることは変わりなさそうだ。


「……私もそこまで知らなかったんだけど、つまり貴女が不幸になっていた結末はシナリオ外だったってこと?」


 魔女も首を傾げている。


「そうですね」

「じゃあ……」


 悪役令嬢転生を果たした転生者がシナリオを踏まえて破滅回避をする小説はたくさんあったけれど、全年齢のゲームにはそんなに残酷な描写は出てこない。

 敵が倒されるのはゲームの中でも普通だけれど、いじめをしただけの悪役令嬢は中ボスですらないのだ。

 憶えている限り、ゲームの中では排除された悪役令嬢がその後どうなったかまで出てこなかった。


「だから、わたくしがどうなって死んだのかは今もわかりません。辛い記憶を思い出さないようにと思ってくださって、ありがとうございます。でも大丈夫なのです」


 ようやく納得してくれたのか、シルヴィオ殿下は目を伏せた。


「そうか……」

「待って、待ってよ」


 安堵したシルヴィオ殿下とは逆に、魔女がなんだか混乱している。


「じゃあ、どこまでがシナリオなの?」

「シルヴィオ殿下のシナリオであれば、婚約破棄されて連れていかれるところまで……でしょうか? その後、わたくしは死んだようですが、死ぬところは多分シナリオではないと思います」


 ヒロインに都合の良いようにこっそり始末されていたとしても、シナリオで明言されたものじゃない。

 だからそれはシナリオ外のところで、仮にシナリオ通りになる強制力があったとしても、そこにはきっとない。


「はあ!?」


 そこで魔女が大声を上げた。


「貴女が死ぬのはシナリオじゃないの!?」

「わたくしの知る限り、そんな情報はゲームにはなかったので」


 もう一度、自分の知っている乙女ゲームのことを思い返してみる。

 多分、このゲームで間違いないというものを知っている。

 前世のわたしが楽しんでいたものだ。


 スチルもコンプリートしていたし、隠しキャラもプレイした。

 エンディングもバッドまで全部確認したはずだ。

 ……たまにバッドエンドやそこに至るルートにスチルが仕込まれているので、抜かりなくすべての選択肢を確認し、パラメータも調整して、全部見たはずだった。


 見落としはない。


 そしてシナリオとは、ゲームのために定められ、ゲームの中で使われたものだけだろう。

 現実にはシナリオが流れている期間も、シナリオ以外の部分だってあるけれど、それは『シナリオ』ではない。

 他のことは他の人の行動で、なるべくしてなっているはず。

 貴族令嬢が牢に入れられて、牢番が悪い人間なら……酷い目に遭うこともあるだろう。

 きっと状況が、そうなる状況だったというだけだ。


「なら……」


 魔女が何か思いついたように瞳を輝かせた。


「なら、一番状況がわかっているのは王子が婚約破棄するパターンよ。それだけじゃ死なないのなら、婚約破棄までして、そこで救い出せば……」

「嫌だ!」


 シルヴィオ殿下が叫んだ。

 握っていた手を引き寄せられて、そのまま腕の中に収められる。

 ぎゅっと抱き締められて、また顔が熱くなった。


「いやだ……それで助けられなかったら、またディアーナは……」


 でも、すぐ頬の熱は引いた。

 シルヴィオ殿下は震えている。

 本当にわたしの死を恐れているのだとわかったから。


「落ち着きなさいよ。私たちの知らない状況になって助けられないより、どうなるかわかってる方が有利じゃないの」

「それに婚約破棄してしまったら、僕はディアーナと結婚できないじゃないか」

「彼女が生きてる方が大切でしょ!?」

「……僕だって幸せになりたい。ディアーナと一緒に幸せになりたいんだ」


 いけない、シルヴィオ殿下のヤンデレが顔を出しそうだ。


「きっと大丈夫です、殿下」


 魔女が言うこともわかる。


「ディアーナ……」

「だって、今のわたくしは何が起こるかすべてを知っていますもの。シルヴィオ殿下よりも魔女様よりも詳しいんですのよ。シルヴィオ殿下以外のシナリオに入ってしまって、他の攻略対象……ヒロインの取り巻きに排除されそうになってもわかります」


 回避できるかどうかはさておいて、わかるというだけならわかるだろう。


「魔女様も、協力してくださるんですよね?」

「するわよ、もちろん」


 シルヴィオ殿下の腕の中で振り向けば、魔女も頷いた。

 シルヴィオ殿下の腕に力が籠る。


「ねえ、シルヴィオ殿下……」


 ヤンデレになってしまったのがわたしのせいなら、責任を取らないといけない気がする。

 今度わたしが不幸に死んだら世界が滅びるかもしれないことよりも、最後まで絶望するだろうシルヴィオ殿下が可哀想だ。

 前世のわたしはゲームのシルヴィオ殿下が好きだったし、今までのわたくしはシルヴィオ殿下が好きだったから……


 今のわたしも、ヤンデレるくらいに想われてるって思うことができるわ。


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