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第4話

「……僕も幸せになりたい」


 シルヴィオ殿下は怒鳴り付けられても顔を上げることもなく、わたしに縋りつくように腕の力を強めた。

 その腕の力を感じると、それも仕方ないことかという気がしてくる。


 部屋に飛び込んできた女性は、多分魔女だ。

 彼女がきっと黒い森の魔女。

 魔女は時を巻き戻すために命を懸けたのでは――と思ったけど、死んだはずのわたしだって蘇っているのだから、魔女だって戻るだろう。


 わたしが声を上げたことと、魔女が窓から入ってきたことで、部屋の外が騒がしくなった。


「殿下……! どうなさいましたか!?」


 外から呼ばれている。


「しまったわね。入って来られると困るから、ちょっと遮断するわよ」


 魔女は扉に手を向けた。

 何をしたのかわからないけれど、外が静かになる。


「魔女殿、彼女は憶えていない。なら、これは四回目と同じだ」


 シルヴィオ殿下がゆっくりとわたしの上で身を起こした。

 だけど私は起きられない。

 シルヴィオ殿下は起き上がっただけで、お腹の上からは退かなかったから。


「ならまた繰り返すだろう? これが最後なら、僕は本懐を遂げたいと思っただけだ」

「気持ちはわからなくもないけど、相手の同意は得なさいよ。後、場所も選びなさい。こんなところで初めてとか、女にとっては最悪だから」

「もたもたしていたら、いつ世界が終わるかわからないじゃないか」


 わたしの上に跨ったまま、シルヴィオ殿下は魔女と睨み合っている。


 ……退いてもらえないかしら。

 魔女もこんなところでが最悪だとわかっているなら、わたしが押し倒されたままで会話を続けるのは如何かと思うのだけど、どうなのかしら……


「あの、シルヴィオ殿下……」

「何? ディアーナ」


 呼ぶと、あの曇った瞳が無表情に見下ろしてきた。

 ちょっと怖い。

 退いてほしいという希望は唾と一緒に飲み込んでしまった。


「ねえ、本当に憶えてないの? ぎりぎりだったけど、前回のうちに前世を思い出すように……魔法はちゃんとかかったはずよ」

「憶えていない。話もしたけど、彼女の反応は憶えている者のそれじゃない。……少し以前の、本来の彼女とは雰囲気が違うけど、多分影響と思われるものはそれだけだ」


「そう……でも、憶えていないからって、諦めるのは早いでしょ。まだ『ゲーム』も始まっていないわ」

「四回目と同じなんだから、もう打つ手はないだろう。……それに、彼女が憶えていなくて、僕は正直ほっとした。この世界は彼女の不幸が確定したところで時が巻き戻って巡るのだから、前回のものでも、他のどの記憶を残していたとしても、すべては不幸になった記憶だ。そんな辛いものを憶えていなくて、よかったんだ……」

「世界が終わっても、って言うわけ?」


 わたしを置き去りに、二人の会話は続いている。

 その内容は、わたしのことだ。


 わたしには不幸になった記憶を思い出すように、魔法がかかっていたらしい。

 それが、今日の違和感の正体だろうか。

 わたしが少しだけ落ち着いて、わたしから上品さが失われた理由?

 どんな不幸が訪れたなら、そんな風になるのか。


「ああ、世界が終わっても」


 わたしがそんなことを考えている間にも、二人の話はわたしの上で続いている。


「わたしはそうは思わないわ。まだ諦めるのは早い」


 魔女は手を掲げた。


「魔法がかからなかったのなら、またかければいいのよ――!」

「やめろ!」


 魔女の手に宿った光が、円と見知らぬ文字で魔法陣になって、わたしに向かう。

 それから庇うようにシルヴィオ殿下がわたしに覆い被さったけれど……

 光がわたしにぶつかって、眩しくて強く目を閉じた。


 そして、目を開けたら……わたしは思い出していた。


 特に混乱もない。

 どこが基点と言われる時間なのかわからないが、わたしはもしかしたら一度思い出していたのかもしれない。

 多分今日のわたしは、思い出すべき記憶を得ていたわたしだった。

 その記憶が不思議なものだったから、認識できなかったのか、見なかったふりをして再度忘れてしまったのか……それで影響だけが残っていたのかも。


 今は思い出せている。

 わたしは少し落ちついていて、少し上品さが失われているままだ。


「ディアーナ! 大丈夫か!?」

「シルヴィオ殿下……」

「ディアーナ」


 わたしを見下ろすシルヴィオ殿下が息を呑む。


「君は、思い出してしまったのか……?」


 わたしは頷いた。


「思い出しました」

「ディアーナ……」


 間近で辛そうに、切なそうに、シルヴィオ殿下が顔を歪める。

 ああ、そんなに苦しそうな顔をしなくてもいいのに。


「殿下、大丈夫です。わたしが思い出したのは、不幸になった過去じゃないので」

「……え?」


 わたしの言葉に、理解できないと言うようにシルヴィオ殿下は目を瞬いた。


「どういうことだ?」

「何? 私、また失敗したの?」


 魔女は顔を顰めている。


「いえ――」


 長椅子に横たわったままで首を振った。

 多分、魔女の魔法は正しく作用した。


「わたくし、ちゃんと思い出しました。ディアーナになる前の、こことは違う世界での記憶をですが」


 魔女だって言っていたじゃない。

 あれは『前世を思い出す』魔法だって。


 そうよ、悪役令嬢のループは、前世とは違うもの。


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