プロローグ
いつも通り村を出て森に入った。
そして、それもいつも通り木の実を拾いながらあの子達を探した。
少しして手に持っていたカゴがいくばくか埋まり始めた頃その子たちが日向ぼっこしてるのを見つけた。
蛇である。
特に危険のない種類のものだが蛇と言うだけでみんなは嫌がる。
そもそも蛇は魔物を除きほとんどが大人しいものなのだが先行するイメージは魔物のものが多くなかなかその事実が浸透しない。
「今日も美人さんだねー。ハクは。」
私はその中の1匹に話しかける。
他のこと違い色白の肌を持った蛇だ。
ハクはしかし気にせず目を閉じている。
それでも私は気にせずにハクを眺めた。
どのくらい経っただろうか?
私がそろそろ村に戻ろうとした時だった。
空気がさっと変わったのを感じた。
雨が降る…。という訳ではなさそうだ。
シャー!と鳴く声がする。
見るとハクが周りの蛇に威嚇を…違う。この場を離れるように言ってるように見えた。
大人しいハクが鳴くなんて珍しい。
と、足元に円が広がって…。
私の視界は白に塗りつぶされた。
「おかしいわね。術式組み違えたかしら?」
そんな声が聞こえてくる。
私が目を開くと先ほどと同じような円が足元に広がっている。
先ほどと違うのはレンガ造りの部屋ということと目の前に黒い帽子に黒いワンピースを着た目の赤い女性がいること…。
「なるほど…。面白い力があるのね。」
女性はそう呟く。
「あのあなたは誰ですか?ここはどこですか?」
私の問いに彼女は答えた。
「私の名前はハーティ。『天災』(ディザスター)のユニークを持つ五大魔王の1人。人王 ハーティ・ディザスター。そして、ここは私のダンジョン。その最奥にある召喚の間。」
五大魔王。人王、龍王、獣王、魔王、魔蟲王で構成されているこの大陸に存在する魔の王。
各王は己の領土を持っており各々が王として治めている。
私のいた村はそのどこにも属していない。聖女の領土の場所だった。
「さて、あなたに選択肢を与えましょう。1つ。今私に殺される。2つ。私の眷属となり私の支配ダンジョンの管理者になる。さぁ、どっちかしら?」
にこやかに言う彼女。
「このまま帰してくれる…というのは…。」
「この召喚の間は私のダンジョンの重要拠点なの。見たものから何かしらで漏れてはたまらないわ。」
笑顔を崩さず彼女は言う。
皆まで言わずともということか。
シャー!とその時鳴き声がした。
「ハク?」
白い蛇が私の影から出てきた。
「魔蛇?人の子にしては珍しいペットを飼ってるのね。」
魔蛇。魔物定義は大まかに言えば体内に魔石があるか?で決まる。
魔蛇は何かしらのきっかけで体内に魔石を飲み込んだ蛇のことだ。
まだ完全に順応しておらずそのスペックは蛇と変わらず大した脅威ではない。
なんなら、見た目では区別がつかない。
「いえ、ペットという訳では…。」
「そうなの?だいぶ好かれているようですけど…。まぁ、いいわ。」
そう言うと彼女は指を突き出した。
「交渉の邪魔するなら消しちゃうだけですし。」
「やめてください!」
思わず叫んでしまった。なぜ私が召喚?なんてされたか知らないけどこの子は無関係である。
「あなたが早く答えればいいのよ。」
しかし彼女はなんでもないようにそう言う。
そもそも私に選択肢はもうないのだ。
私はお願いする。
「ハーティ様。私をあなた様の眷属にしてください。」
「そう、畏まらなくていいわよ。でも、これで契約成立。」
足元の円が消えていく。
私の体になにか起きた訳ではなさそうだ。
「ついてきなさい。あなたの職場に案内するわ。」
彼女はそう言って歩き出した。
これが私が彼女、人王 ハーティ・ディザスターの眷属になった経緯である。
話はまだ続くけどプロローグはここまで。