地下鉄でGO
昨日の疲れが抜けきれないタカシさん、時計を見ると朝の5時過ぎだ。
「早起きしてしまう、お爺ちゃんみたいだな………」
色々なビックリ体験が多すぎて、睡眠が浅かったのだろうか?。
世界が変わり、化け物を倒し、アルと五郎が歩く…………
こんな濃い日常が来るなんてな、逆に笑いしかでねぇ。
一人で寝るベットは少し冷んやりと感じる、一緒に寝るはずだった、アルと五郎はヒナコと寝ていて部屋が違うのだ。
ヒナコと仲良くしてくれるのは嬉しいが、パパであるタカシさんと寝るべきではなかろうか、大人げないと言われても納得できない気分。
ドアの向こうにある廊下から、アルと五郎の声が聞こえる、朝も早くから遊んでる様子だ。
ここは一つ、パパの威厳を見せつけるチャンスだ、朝からウルサイとビシッと言い、しつけに厳しい父親アピールしようと思います。
ドアを開けタカシさんは。
「こりゃ~~ どこの悪い子だ パパ怒こでちゅよ!」
甘いタカシさんが精一杯に、怒るよアピールしているのにアルも五郎も聞いていない。
聞いていないどころか、飛んでいた。
タカシさんの目の前を二台のドローンが通りすぎる。
アルと五郎は、荷物運搬用のドローンにゴムバンドで体を固定して、ぶら下がるように飛んでいる。
「アッひゃひゃひゃひゃひゃ~!!」
「ワッひゃひゃひゃひゃひゃ~!!」
「危ないから! 辞めさい~ パパ本当に怒こすんぞ~」
イヤ、少し待て、ドローンは誰が操縦してるんだ、ヒナコか?
だがヒナコの姿は見えない、遠隔操作か、などと考えていたら、ヒナコがパタパタと走りながら。
「待って~ アル君~ 五郎ちゃん~」
「ヒナコ……… 何が起きているんだ?」
「はぁはぁ、あっあれは、あの子らが操縦してるんです、小型のスティックタイプのプロポ(操縦機)で」
アルと五郎の姿を見ると、右手に小型のコントローラーが見える、あれで操作してるのか。
「ともかくだ、廊下でドローンは禁止だーー!!」
「アル君、五郎ちゃん! パパが怒こしてるよ~ ヒナ姉も悲しいなぁ~」
20分後、ようやくあきたアルと五郎が、危険極まりないドローン遊びを辞めてくれた。
ヒナコがドローンの整備をして、試しに軽く操縦してみたら、アルと五郎が興味を持ち、勝手に持ち出したらしい。
知能がドンドンと上がり、理解力も高まっているアルと五郎に、もう少し厳しく、しつけをした方が良いのだろうか?
朝食もそこそこに、搬入エレベーターの前で出発の最終確認をするタカシさんとヒナコ。
「アルと五郎は、いい子に留守番だよ」
「了解にゃ!」
「わふっ!」
本当に理解してるか不安でしょうがないが、装備を指先確認。
ナイフ、ライフル、簡易食、救急キッド、予備弾。
こんな物だろうとライフル以外は、リュックに収納する。
「タカシさん、今日はアタシも行きますよ」
「何だ? その荷物は? 昨日、池袋方面に行って化け物が多かったからヒナコも留守番して欲しいんだが」
「いいえ、今日はお役にたてます、昨日のようにオマケで付いて行くような真似はしませんから」
ヒナコは両手にクロスボウを持っている、タカシさんが知っている形状とは、随分と違うのだが。
ヒナコの父親の、ファイルにあった改造なんだろうけど、こうなるのか。
「わかったよヒナコ、お前も来たいもんな、それで今持ってるクロスボウでいいのか? 説明してくれ少し興味があるんだ」
「良かった、やっぱり付いて来るなって言われると思ってたから」
ヒナコから、クロスボウの説明を簡単に聞くと、連発式のクロスボウとの事だ。
クロスボウの矢が機関銃に良く見る、ベルト式の給弾システムのようになっている。
一分間に120発程、発射できるらしい、何故そんな事ができるのか気になる部分だが。
タカシさんの、ライフルのようにエアーを動力に、弦を引き起すギミックだとヒナコは自慢げに説明している。
「後、新しいライフルのカスタムと、火炎瓶も時間が合ったので作成したんですけど」
「新しいライフルはいいが、火炎瓶? そんな物をあの子らの前で作ったのか?」
「はい、いい子にお手伝いしてくれましたよ」
お手伝いって、あの子らに何をさせているんだと思わんでもないが、何にでも興味を示すアルと五郎が手伝いを申し出て、断りきれなかったのだろう。
だってカワイイんだもの…………
新しく改造した、セミオートマチックタイプの猟銃エアライフル、モンスーン。
セミオートマチック機構な為に、威力は期待できないとヒナコが説明しているが、あのウルバリンのような過剰な威力と反動のライフルより好みに合っている。
せっかくだ、ライフル二丁の携帯しての移動は厳しいから、ライフル、モンスーンを今日は持ってくか。
「ヒナコ、今日はモンスーンを持って行くよ、苦労しただろ」
「いえ、アル君と五郎ちゃんの相手をしたり、何か作ってると気がまぎれるので」
「そうか、でも今日は火炎瓶は持って行かないぞ、まだ池袋に火の手が上がっていたら、間違って引火しそうだしな」
「そうですね、気が付きませんでした」
ああ忘れる所だった、管理室にタカシさんが持っているタイプの小型無線が段ボールに沢山あったので、ヒナコとアル五郎にも渡して使用法を教え込む。
「パパ、これモシモシできる♡」
「わんわんわ~」
「そうだね~ これがあれば何時でもパパとお話できまちゅね~」
良し、準備もできたユカさんを探しに行くか。
バイクに乗車して、搬入エレベーターで地上に出ると、まるで初夏の陽気だ。
今はまだ午前8時、日中にはもっと気温が上がるのだろうか?
「タカシさん、冬なのに暖かいなんて」
「何が起きているか、理解できないが気にするのは後にしようヒナコ」
「そうですね、今、気にしても意味がないですもんね」
ヒナコの言葉通り、今そんな事を気にしてもしょうがない、何か異変が起こった、それしかわからないのだから。
昨晩はあれから、雨でも降ったのか路面が濡れており、後輪が少し滑るが問題ないか。
そのままバイクで池袋方面へと進むと、化け物の大群が見えた…………
数千単位の数が見える、あれが全部化け物なのか。
「また群れが、都心方面に向かってる…………」
「ヒナコが言ってた、群れの大移動か?」
「たぶん、前と同じ群れの移動に見えます」
「バイクで池袋方面に行くのは無理か」
後戻りするするように、バイクの進行方向を変えるタカシさん。
「えっ? タカシさん、今戻ったらお姉ちゃんが! 群れが池袋方面に向かってるんですよ!」
「落ち着けヒナコ、少し迂回して行き方を変えるだけだ」
「目的地に行くなら、反対方向なのに…………」
ヒナコのそんな言葉に答えもなくバイクは、北区にある地下鉄の入口の前で停車した。
「ここから、池袋方面に向かうぞヒナコ」
「メトロ? 地下鉄の線路を通り向かうんですか?」
「南北線だから、乗り換えがあるけどな」
地下鉄の線路を移動するなんて遠回りになるが、あんな化け物の群れを通過するよりマシだろう。
リュックを背負い直し、地下鉄に降りて見ると浸水していた、水の水位は思ったより低いが、膝の上まで水に浸かりそうだ。
「中は暗いな…… それに、雨の影響で地下鉄内が浸水してるのか?」
「タカシさん、恐らくですが、雨ではなく地下鉄内の地下水を排水するポンプが、稼働してないからだと思います」
「なるほどな、電気が使えないから排水ポンプも稼働してないのか、ヒナコ良く気が付いたな」
「前に父が話てたのを、思いだしたんです」
さすが、終末マニアなヒナコの父だ、そんな話をヒナコにしてるとは、そんな話をされてもヒナコは困ったろうに実にマニアとは業の深い生き物だな。
だが、そんなマニアの娘だから、そんな変わった知識や技術を持っているのも事実であり、人間どんな事が役に立つかわからんもんだ。
「これでは勧めないですねタカシさん」
「そうだな水位が思ったより低いが徒歩は厳しいな」
さてさて、泳いで行くには遠すぎるボートでもあれば行けそうだが………… ボートか。
タカシさんは、ヒナコを連れてバイクを急ぎ走り出す。
「タカシさん、今度はどうしたんです?」
「ボートを取りに行くぞ!」
「ボートってバイクに積めませんよ?」
「タカシさんに任せておけ!」
バイクを左折させ国道に入り、ほんの数分でボートのあるマリーンスポーツ専門店に到着。
店内に入ると、ヒナコは納得したように声を出す
「そうかゴムボートですね!」
「近いが違うぞ、ゴムボートでは速度が出ないから、折りたたみ式のカヤックを取りに来たんだ」
そうタカシさんは喋りながら、折りたたみ式のカヤックの入ってるバックを背負う。
小型とはいえ重い、二人乗りのカヤックの重さは4~50キロはありそうだ。
「むっしゅムラムラ!!」
と掛け声を掛けて、カヤックを背負い立ち上がるタカシさん。
「手伝いましょうかタカシさん?」
「子供は気にするな、それより、そこのキャンプ用品のアルコールランプを持ってくれ」
「これですね、わかりました」
バイクの荷台にカヤックをゴムバンドで固定するが安定感が悪いな。
「すまんがヒナコ、ゆっくり走るからサイドカーから支えてくれないか?」
「はい、こうですか?」
サイドカー内のヒナコは、中腰になりながらカヤックを支えている、このくらいの速度なら安定して走れそうだ。
ゆっくりゆっくりと、カヤックが落ちないよう注意しながら、バイクを走らせるタカシさん。
しばらくして、地下鉄の入口まで無事に戻って来た二人はカヤックを地下鉄のホームに下ろして。
アルコールランプに火を入れると、明るくなり作業も出来そうだ
組み立てをしてみると、意外にしっかりとした作りに見える。
水面にカヤックを浮かべると、問題ないな。
「行くぞヒナコ!」
「はいタカシさん!」
暗闇の中、か細い明かりを頼りにカヤックは進んで行った。
明日も18時に投稿できたらいいと思ってます。