フルスロットル
証拠隠滅を無事に終了して、ふぅ~ っと安堵の息をつくタカシさん。
ペットを引き殺しても、器物破損の罪で微罪なのだが飼い主さんがいたら、合わせる顔がない。
あっ…………
一人いた! タカシさんの行動を、いやらしくピーピングアイズで見ている人物がいるのを忘れてた。
そいつも消すか…………? イヤ! それはマズイこの荒廃した街並にいて、心が毒されているようだ。
人間は消さない、消さないよ?
イヤホンから、ザザッとノイズ音が入り無線相手の声が聞こえる。
「ヒッ 殺した…………」
どうやら無線の相手は人を殺したと、誤解しているようだ、タカシさんが投げ捨てたのは緑色の何かだ。
外来種の緑亀とか猿だといいな、そうに違いない、甲羅はなかったけど。
一応は、誤解を解く努力はすべきであろう、タカシさん。はハンディ無線のマイク口をコンコンと指で叩きながら喋りはじめた。
「あー 聞こえるか? 今、捨てたのは人間では無く緑色の生き物だ………… ひょっとして飼い主さんですか?」
「人間じゃないの? ひょっとして昨日の化け物の仲間?」
何やら無線相手は混乱しているようだ、化け物ってなんだよ、こんな状況になり頭が少し壊れたんじゃないか?
少し待つと、イヤホンから小声な声が聞こえてきた。
「え、と飼い主じゃないです、一昨日この辺りにいた化け物の群れの一匹だと思います」
「ん~とね、疲れている時は糖分がいいよ、リラックス効果もあるし」
「ひょっとしてアナタは、化け物達を見てないんですか?」
…………交信終了っと
頭が疲れている人の話を、まともに聞く趣味はタカシさんにはない、カウンセリングにいってお薬を処方してもらうべきだ。
再びバイクのエンジンを回し、サイドカーにいる子犬を軽く撫で。
「さぁ~ お家に帰りまちゅよ~♡ ってまたでやがった…………」
先程、陸橋下にポイした動物と同じ緑色さんが、こちらに走ってくる。
涎を垂らし奇声を上げながら、こちらに向かって来られると少々、怖い物がある。
「ゴブルァァー!」
「オラッ!!」
タカシさんは、突進して来る緑色の生き物を受け止め、抱え上げると、やはり陸橋からポイッと投げ捨てた。
人間で言うと、小学校の中学年程度の体格なので思いのほか楽に抱え上げる事ができたが。
数匹が同時に攻めて来たら、対応しきれないかもしれない。
少々フラグ的な事を考えていたら、陸橋の端に緑色の生き物の大群が、こちらに押し寄せて来るのが見える。
タカシさんは、バイクで反対側へと爆走しながらハンディ無線相手に叫ぶ。
「わかった、わかったんだよコンチクショー! あれが化け物な!!」
認めたくなく無視をしていたが、あれが化け物って奴だろう。
「無線さんよー! 迂回ルートで化け物達の向こうに行きたいんだが道はわかるか?」
「迂回ルートを教えれば、アタシを助けてくれますか?」
「ああ~ 助ける、助けちゃう♡」
もちろんウソです、余計なお荷物を助けるつもりは、タカシさんにはさらさら無い。
ハンディ無線からのノイズが、更にひどくザザッ ザザザーと電波障害が入る。
建物が電波を邪魔しているのだろう、そんな中ハンディ無線から、運命を変える言葉が聞こえた。
「ザザッ…… アタシ………… ザザザ………… Gカップなんです、助けてくれればお礼します」
バイクで爆走中のタカシさんは、内ポケットから煙草をだし口に咥え火を付けた。
大きく一口吸い、ふぅ~っと煙を吐き出し。
「助けるか…………」
先程の無線相手の、聞き取れなかった言葉だが。
アタシ『お相撲さんで』Gカップなんです、助けてくれればお礼します
うむ、ナイナイ…………
アタシ、『Hカップ寄りのGカップなんです』助けてくれればお礼します
かもしれない…………
アタシ、Hカップ寄りのGカップなんです、タカシさんのお嫁さんになります♡♡♡
だったと思う…………
別に下心があって、助けようとしているわけじゃない、こんな世界だから助け合いの精神は、大事だと思うわけで。
ハンドルをフルスロットルに開けて、明かりが見えた高台のマンションに向かうタカシさん。
「マンションが見えてきた!」
バイクの速度を緩めマンションの上層階を見上げると、ベランダに人影が見える。
更に近づくと、ベランダにビール瓶を持ったお相撲さんがいた…………
無線で聞き取れなかった言葉は。
アタシ『お相撲さんで』Gカップなんです、助けてくれればお礼します
だったなんて…………
タカシさんは、ややうつむきながらバイクの速度を上げて、マンションを通りすぎた。
「ふふっ よく前が見えないや…………」
泣いてないよ? 泣いてないんだから…………
少し過ぎた夢を見ただけなんだ、大丈夫こんな世界でも良縁はあるさ。
タカシさんが耳からイヤホンを外そうとした時、再び声が聞こえた。
「どうして通りすぎるんです? 場所がわかりませんか?」
「イヤ、明かりが見えたから場所はわかるよ、それより今場所は勝率どうでした?」
「その人は下の階の住人です! アタシはその上に住んでるんです」
部屋を間違えただと!?
タカシさんのハートはブレイク寸前なので、次、期待を裏切られたら駅の改札口の切符入れに、スイカをグイグイ入れて改札機を壊す、頭の弱いオジサンになってしまうだろう。
一応だが、保険をかけて
「声を聴くと女性に聞こえるけど、女性だよね? 甲高い声のオジサンとかじゃないよね?」
「?? 女性ですが? それより場所はわかりましたよね、近くに来るときはエンジンを切ってください、他の住民に目立つので」
ふぃ~ 一安心だ、女性なら助けがいもあるってもんだ。
◇◆◇
マンションに到着後、エレベーターが使えないので階段で9階まで登り太ももパンパン。
タカシさんは緊張気味にドアをノックする、あっ女性の部屋に手ぶらはまずかっただろうか? などと見当違いな事を考えつつ少し待つとドアが開いた。
「助けに来てくれてありがとう…………」
「いいえお気になさらずに」
うん、女性だと聞かれれば女性ではあるが…………
子供じゃないか…………
騙された、またタカシさん騙されたの? 涙がジワっと出てきた。
そんな様子を見ている少女は、中学生ぐらいだろうか? 少女がタカシさんに、ハンカチを差し出し。
「泣くほど生存者に会うのが、嬉しかったんですか?」
「あの、オタクがGカップさん? Bカップさんじゃないか…………」
「違うんです、Gカップの姉が行方不明で、一緒に探して欲しいと言いたかったんですが」
何と姉がGカップだと………… まだ期待を捨てないでいのか?
タカシさんは部屋に上げてもらい、少女に質問した。
「言いづらい事ならいいんだが、ご両親はどうしたんだ?」
「両親とも海外旅行でいなくて、でも姉が職場に行ったまま帰らないんです」
ふ~む、この少女を保護したら、やはり事案発生になって逮捕されるのだろうか?
状況が状況だけに、警察も機能してないからいいのか?
タカシさんは悩んだ末に。
「わかったよお姉さんを探そう、ここも危険かもしれないから移動しよう」
「一緒に行ってもいいんですか?」
「ああいいさ」
こんな結果になったが、しかたあるまい、それより少し疑問がありタカシさんは少女に訪ねてみた。
「なあ、電気が使えないのに何で無線が使えたんだ?」
「お父さんの部屋にあった無線機を使かったんです」
「少しお父さんの部屋を見せてくれるか?」
タカシさんはロウソクの明かりを頼りに、少女の父親の部屋を拝見すると。
本棚には、世界崩壊系の小説やネイチャー系の書籍がギッチリ並んでる。
机の上を見ると無線機が置いてある、恐らくだが、終末世界マニアの父親が、EMP対策をした無線機とバッテリーを置いてたのだろう。
ごく稀にだが、終末世界マニアなんて人種がいて長年保存が効く食料を貯めこんだり、こういったEMP対策をした無線機を所持するなんて話は聞いた事があったのだが。
この少女の父親がそうだったのだろう。
「ああそうだ、名前を聞いてもいいか?」
「アタシは青木雛子っていいます」
「ヒナコちゃんか、俺はタカシさんだよろしくな」
挨拶もそこそこに、二人はバイクに乗り込むとヒナコが嬉しそうな声上げた。
サイドカーに乗り込んだヒナコの足元に子犬がいるのを発見したからだ。
「わー カワイイ! この子タカシさんの犬ですか?」
「ああ途中で拾ってな、名前つけていいぞ」
「えっいいんですか? う~ん何にしよう」
先程まで暗かった、ヒナコの表情が少し明るくなったのを見て、タカシさんも自然と笑顔がこぼれる。
速度の上がるバイクの中で、タカシさんに道案内をしつつ悩んでいるヒナコが。
「栗毛がカワイイからクリちゃん!」
「クリちゃんか………… ヒナコちゃん違う名前を考えような」
「ええ~ ダメですかぁ~」
少女のお口で、クリちゃんなどと言われてしまうと顔が赤面してしまう、汚れた大人のタカシさん。
「じゃあゴロゴロしている姿が、似合いそうなので五郎はどうですかタカシさん」
「五郎か、いいんじゃないか」
こんな世界でも、ゴロゴロしている犬を想像できるなんてヒナコは、楽観的な子だなと思うタカシさん。
「ほら! ヒナコもうすぐ今晩の寝床に付くぞ」
「寝床って何も見えませんよ?」
本人がちゃん付けを辞めて欲しいとの意見から、呼び捨てでヒナコと呼ぶタカシさんの言葉に懐疑的な顔をしている。
シェルターへの入口はいくつかあるのだが。
その入り口の一つである荷物搬入口のエレベーターを呼び出すために、地面に偽装しているパネルを開けてスイッチを押すとエレベーターがせり上がってきた。
「うわっタカシさん、これが寝床への入口ですか?」
「そう世界一安全な寝床さ」
驚くヒナコを促しながら、エレベーターで地下に潜りシェルター内に帰還した二人と一匹。
「タカシさん、ここって?」
「核シェルターだ」
「タカシさん、お姉ちゃんが見つかったら、暫くでいいのでここに置いてもらえませんか?」
「部屋はあまってるから好きにすればいい」
数日ぶりに受ける電気の恩恵を、嬉しそうに見つめるヒナコの頭に、手をポンと置きタカシさんは、元気付けるように声をかける。
「明日の朝一番で、お姉さんを探しに行くぞ」
「はい!」
ストックって美味しいの?




