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人には会えたが



 やっとの思いで生存者に会えたのはいいが、こりゃないだろう。


 ガラッガラッガラッ と車輪音を上げながら。


 自転車の集団から少し遅れて、二人の若者に押されて、荷物運び用の台車の上に仁王立する男が到着した。


 仁王立男の到着を確認すると、先程タカシさんに食料を要求した男が、鉄パイプを片手に巻舌で喋り出し。


「コラァァア! ここら辺仕切ってる、サウ蔵さんがいるんだ頭ぁ~下げろや!」


 サウ蔵? 荷物運び用の台車の上で、偉そうにしている奴の事だろうか? オデコの真ん中に、ホクロがある特徴的な顔をしている。


 しかし何故、荷物運び用の台車なんだ? もっと良い物がある気がするが? だが事情がわからない今は、逆らうべきではないだろう。


 サウ蔵らしき男に、頭を下げるタカシさん。


「サウ蔵さんですか? 地元民じゃないので挨拶が遅れてすいません」


「素直に挨拶してくる奴は嫌いじゃないぜ」


 サウ蔵君は17~8歳ぐらいの少年だろうか、って言うか()()()は本名なのか? 学校時代にイジメにあってないか心配になりそうだ。


 タカシさんは、立場が逆転した年若い上司に頭を下げるのがイヤで会社を辞めたような物だが、今の状況なら靴の裏でも喜んで舐める。


 ()()()()、後で大人の暴力を見せてやると思いつつ、ポケットからカロリーバーと息リフレッシュな飴を差し出すタカシさん。


 貢物により関係が少し改善したように感じるので、ここは一つサウ蔵君に質問をすべきだろう。


「あの~ サウ蔵さん、いったい世の中はどうなってしまったのですか?」


「さあな、俺は知らねえよ核でも落ちたんだろ」


 サウ蔵君の答えに呼応するように、取り巻き達も声を上げだした。


「違うって大地震だろ!」


「エイリアンの侵略だと思う…………」


「魔王が降臨した可能性大!」


 うむ貴重な情報をありがとさん、こいつらアホじゃないのか? 情報が錯綜(さくそう)しているのはわかるが、エイリアンや魔王はないだろ。


 こんなアホな子らとは、早めにバイバイしたいタカシさん。


 そんな中、サウ蔵君から意外な提案があった。


「オッサン、俺らと一緒に来るか?」


「お気持ちはありがたいが、家族を探したいもんで」


「そうか、俺らは区民会館を寝城にしてるから何時でも来い、他の避難民もいるから情報が入るかもな」


 おや? 粗暴なアホガキだと思っていたが、他の避難民の生活も守っているのか、悪い奴でもなさそうだが。


 人に会うなり、食料をよこせ発言を聞くと食料事情は悪そうだ。


 シェルターの物資がバレるとトラブルが起きそうな予感がする、やはり彼らとはバイバイすべきだな。


 思わず家族を探すと言ってしまったが、タカシさんに家族と呼べる人はいない、元々片親で残った親父も昨年死んでいる。


 今、家族と呼べるのは飼っていた猫ぐらいだろう、あ~ 猫に会いたい…………


 自宅と猫の様子は気になるが、家族の話を出すと心配そうな視線を向けて来るサウ蔵君を見ると、歳相応な表情をしていて何だか少し安心した。


 状況がハッキリした後なら、彼らに食料支援をすべきかと少し考えたが、それは後回しだな。


「サウ蔵君、どうにもならなくなったら、頼るかもしれないのでその時はよろしく」


「ああ、家族が見つかるといいな、それと食料の事は謝らないぜコッチも食料を待っている仲間がいるからな」


「タカシさんは、一人だから何とかなる気にするな」


 敬語もバカらしく感じ、砕けた口調でサウ蔵君に言葉を返しその場で別れた。


 やはり、タカシさんが想像したように彼らがコミュニティを守っているのだろう、この地域を拠点にする限り今後は彼らと良い関係を築いていった方が良さそうだな。


 シェルターを出る時間が遅かったため、もうすぐ日も暮れそうだ一度シェルターに戻ろうとしていると。


 警官の死体があった、腰を見るとホルスターに拳銃がある、有効活用するべきと自分に言い聞かせホルスターから拳銃を抜くタカシさん。


「有名なニューナンブM60って奴だな、しかし古臭いリボルバー拳銃だな、まだ配備されていたんだ」


 昔、海外勤務の時にセルフディフェンスの一環でシューティングレンジには通っていたが、リボルバー拳銃は好きではない。


 腕が悪く的に当たらないのだ、試しに空に銃口を向けて引き金を引いたのだが、カチンと音がしただけで弾がでない。


 警察官の拳銃の1発目は空砲、というのは大昔からあるデマだ、そもそも空砲(ブランクカートリッジ)なんて警察は使ってないらしい。


 タカシさんが弾倉を見ると弾は入っている、試しに弾を一発だけ抜き出して、地面のアスファルトに擦り付けると先端の鉛部分が取れ少量の火薬が地面にサラサラと落ち。


 その火薬にライターで火を付けてみたが発火しない、残りの弾も撃ってみたが一発も弾は発射しなかった。


 拳銃が使えないんじゃなく火薬が使えないのか? 以前、SF小説で銃火器が使えない話を読んだ事がある、蔓延(まんえん)した特殊な微生物のせいで火薬が発火しないなんて話だが。


 今は、そんなSF小説を笑えない状況にあるのかもしれない、希望的観測だが今シェルターに戻ればネットが回復しているかもしれなので、早めに戻るか。


 核戦争を想定してインターネットが生まれたなんて噂もあるけど、あれは本当に噂だARPA(アメリカ国防総省国防高等研究計画局)もその噂を否定してる。


 今の状況が、核やEMP(電磁パルス攻撃)だと仮定しても、その状況下では、ほぼ使用が不可能になるため噂でしかない。



◇◆◇



 シェルターの入り口に到着すると既に日は暮れていた、急ぎ中に入るとシェルター内の電源は生きていてありがたい。


 仕様説明書を、暇に任せて読んでいたので知っているが、石油の備蓄が底をついても、地熱発電と風力発電で電力を賄えるらしい。


 今、シェルターに残っている食料はテストモニターの段階でも、ある程度はすでに搬入はすんでおり、住人をタカシさん一人と想定すれば20年は余裕で持つ計算になる。


 その他は、野菜の栽培設備や魚の養殖場もあるが、まだ稼働していない。

 

 種の備蓄もあり魚の卵も液体窒素で冷凍保存されているため、時間があればチャレンジしてもいいだろう。


 核戦争を始めとした世界終末を、快適にストレスフリーで過ごすために映画館・プール・運動施設などもあるが、タカシさんもいずれお世話になるのだろうか?


 自室に帰って来たタカシさんは、PCの電源を入れネットを立ち上げるが、やはり繋がってないようだ。


 微弱で細い通信プロコトルでも発見できるスキルがある人なら、誰かと連絡を取れる可能性はあるが、ネットワーク構築系は畑違いでポンコツなタカシさん。


 ふと思い出したようにタカシさんが搬入用のエレベーターがある、日用品の備蓄倉庫に足を運ぶと。


 数台の車両とバイクが目に入る、このシェルターと同様にEMP対策の処理がしてある車両だ、外の世界での散策に使えるかもしれない。


 タカシさんの目に一台のバイクが目に止まった、BMWの古いサイドカー付きのバイクだ。


「金持ちの趣味とはいえ、このバイクにも電磁波対策がしてあんのか?」


 このシェルター集合住宅には全部で37部屋あり、一部屋3億ぐらいした記憶がある、物好きな一部の金持ちは早々にこの物件を買い私物を搬入していたのだ。


 バイクのサイドカーを見るとイヤホン付きのハンディ無線が入っている。


 この手の骨董品バイクが好きなタカシさんは、無線の電源を入れた後、イヤホンを耳に入れ。


 当然のようにバイクに乗りエンジンを回した。


「今日からお前は、タカシさん号だぞ」


 そんな勝手な事を呟きバイクのタンクを撫でると、搬入エレベーターから地上にでた。


 都内の夜なのに外は暗い、思ったより月明りが強いがこんな暗く静寂な夜は、初めての経験だ。


 新しい玩具を手に入れた気分のタカシさんは、軽く近隣をバイクで走ろうとアクセルを絞る。


 予想通りに電磁波対策の処理がされていたバイクは、街中の瓦礫を避けながら快調に走る。


 先々の見通しもなく不安な日々の中、タカシさん本人も少々不謹慎だと思いながらも、この解放感に負け叫んでしまう。


「イィーーーヤッホウゥーー!!!」


 運転当初はサイドカーがあり、少し動きが鈍いと感じていたが、なれるとコレも悪くない。


 気分よく走り、瓦礫の無い地帯まで来ると更にバイクの速度は上がり緩いコーナーを曲がる瞬間、動物の影が見えスピンしながら止まる。


「引いちまったか??」


 タカシさんが、恐る恐るヘッドライトを動物のいた方に向けると、子犬がショックのため失禁しながら震えていた。


「良かった生きていてくれて、ありがとうな」


 タカシさんは、子犬を怯えさせないようにゆっくりと近づき抱き上げる。


 少々、汚れてはいるが怪我もなさそうだ。


「パパの所に来まちゅか?」


「クーン…………」


「そうでちゅね~ 一緒に帰りまちょうね~♡」


 犬さらいタカシさんは、子犬をサイドカーに乗せ元来た道を戻りはじめた。


 正直にいって他の人間が何人死のうが、タカシさんはあまり気にしないが、動物だけは別だ、特に犬猫は最高だ。


 タカシさんのパートナーであり家族になりえる。


 シェルターのバイトに入る前に、友人に預けた猫の安否が一番の心配事だったりするタカシさん。


 崩壊しつつある世界でそれが一番の心配事とは、タカシさんは、どこか壊れているのかもしれない。


 移動手段が手に入ったので当然、友人に預けた猫を夜が明けたら、探しに行くつもりだ。


 その後も順調に帰路を進み、後一キロ程でシェルターにつく、道が陸橋に差しかかると、片耳にしていたイヤホンから無線の音声が入った。


「そこのバイクの人助けて!」


「!? 人の声だ…………」


 ノイズ交じりの声だったが、確かに聞こえた『助けてと』バイクで走りながら、付近を見回すタカシさん。


 電気が使えない世界で、無線連絡してくる有用な人物とは、是非にアポイントを取りたい、相手からこちらが見える位置は…………


 南側の高台に見えるマンションか!? マンション方面に目を凝らすと微かな明かりが見えたと思った瞬間に。



 ドンッ!



 鈍い音を上げながら何かに衝突した! すぐにバイクを停車して後方を確認すると、小柄な人物を跳ね飛ばしてしまったようだ。


 oh...シット、子供か? 子供を跳ねちまったのか、さすがにタカシさんでも、子供相手は心が痛むぞ。


 仮にその子供が生きていても、こんな状況では助けられないのだが、後味が悪すぎるので。


 そろり、そろりと近づき子供の安否確認をしようとして良く見ると、体表面から出た体液でヌラリとしたテカリに緑色の体!?


「人間の子供じゃない!?」


 緑色をした小柄な生物は、倒れながらも牙がある顔をこちらに向け口を開いた。


「ゴブゥゥ…………」


 タカシは周囲をキョロキョロと見回して、緑色の生物を抱え上げ。


 

 陸橋の上から投げ捨てた…………



「証拠隠滅、完了…………」



サウザーの聖帝十字陵って、公共事業の一環だった噂がありますが

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