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非暴力主義は犬も食わない

お待たせして申し訳ございません。予定時刻より早く書き終わったので投稿します、荒い部分があるのでそこは随時修正していくので大目に見て頂けるとありがたいです。



 ポケットから小型のマップ本を開き、現在地を確認しているタカシさん。


「サウ蔵が区民会館に住んでるって言ってたが、地元民は意外と勝手な名称を付けるのが困るな」


 見当を付けていた、区の施設にサウ蔵たちの姿は無く近隣の目ぼしい施設を巡る苦行をしている。


 北区に生まれながら、真横にある足立区に足を踏み入れることなく過ごしてきたため、簡易マップを見ても迷いやすい。


 下町の古い家並みと賃貸マンションが混在する、アンバランスな街並みをバイクで走り抜ける。


 遠目に一人? イヤ、二人の人間の姿が見える。


 人の姿をほとんど見かけなくなった世界で、人の姿を見るとつい様子を見たくなり、バイクで近づくタカシさん。


 人の姿がハッキリと認識できる位置まで来て、驚愕の表情になる………


 タカシさんがシェルターでモニター生活をしていた時に見た顔だ、確か管理会社の高橋さんだったか?


 お住まいが近いと聞いていたが、無事だったんだな。


 タカシさんがバイクを下りて、高橋さんの元へと歩く、この都内で知り合いに合う確率は本当に低い、こんな世界ならなおさらだ。


「高橋さんご無事だったんですね!」


「おや? タカシさんではないですか!」


「お住まいが近いとは聞いていましたが、ここで何をしてるんですか?」


「これから妻と食事に行くのですよ、ほらタカシさんだ、ご挨拶をするんだジェニファー」


 高橋さんはダッチワイフ、通称、空気嫁を抱えニコニコと穏やかな顔をしている。


「あっ奥様でしたか? ご挨拶が遅れましたタカシさんです」


「いえいえいいんですよ、無口な妻ですいませんねぇ~」


「高橋さん、お綺麗な奥方ですね羨ましい……」


「嬉しい事を言ってくれますね~ 近くの鶏肉のジビエを食べれるレストランがあるんです、ご一緒にいかがですか?」


 お食事のお誘いはありがたいのだが………


「ああ! すいませんね、この後予定があるもんで今度お願しますよ!」


「残念至極ではありますが、ご予定があるのでは仕方なしですね~」


 人との出会いは一期一会とはいえ、早めに立ち去るタカシさん。


 こうはなりたくないものだな…………



 この過酷な環境では壊れてしまう人もいるだろう、タカシさんもヒナコたちとの出会いがなかったら、高橋さんのように壊れていたかもしれない。


 やや視線を下にさげ、高橋さんが視界に入らないように歩きバイクのエンジンを回す。


 シェルターに来るかと? 声が出かかり言葉を飲み込みアクセルを捻りサウ蔵の住まいを探しに戻るタカシさん。


 だがタカシさんは知らない、高橋さんはただのダッチワイフ愛好家な事を、生粋な空気嫁を愛する高橋さんは、世界が崩壊しても幸せな日々を送っている。


 そんな幸せな人がいるとは、考えもしないタカシさんは心を痛めながら、この地域で最後になる公共施設に到着した。


 この場所は、青少年の教育を主に作られ体験アトラクションを売りにしている、館内案内図を見るとプラネタリウムや室内アスレチックなどが、設置されているようだ。


 館内入口の付近で人の姿を探していると、以前に会った事のあるサウ蔵の側近である眼帯君が、水汲みをしていた。


「よう! 頑張ってるな」


「タカシさんでやんす! 今日はどうしたんでやんすか?」


「食料を少しばかし持って来たんだが、サウ蔵君はいるか」


「こりゃ助かるでやす! サウ蔵さんなら、部隊を引き連れて食料探しでやんすよ」


 ご苦労様な事だな、眼帯君の顔も少し疲れて見える栄養状態もあまり良くなさそうだな。


「眼帯君、そこのリヤカーの食料なんだがどこに運べばいいんだ? 全部を入り口においたら物騒だからな」


「リヤカーの食料全部を全部、頂戴していいんでやすか?」


「そのつもりで持って来た、野菜の種も少し持って来たが栽培は無理か?」


「ここの施設には、体験農場や井戸もあるでやんす、野菜も作れるでやんすが、タカシさんの食料は平気でやすか?」


 政治の世界には中道って言葉がある、自分の利益は確保して相手にも利益を与える、争いが起きない一番の方法だとは思うが、そんな難しい話じゃない。


 ただ単純に、こいつらが気に入りだしたからだろう。


「眼帯君、気にするな家族が飢えない分は確保してあるさ」


「ならいいんでやすが、こんなご時世ですから善人を気取ってると死にやすぜ」


「確かに、偽善は身を亡ぼすなよな注意するよ」


「タカシさんは甘い部分がありそうで、見てるこっちがヒヤヒヤするでやんす」


 眼帯君の釘を刺す言葉を、肝に銘じながら食料を建物内に運んだ。


 建物内の住人は、女、子供に老人だけである、残りの動ける連中はサウ蔵と食料探しに出ている。


 ここにいる人々だけでも20人程度はいる、食料を探しに出ている部隊が十数名、このコミュニティの人間だけならシェルターに受け入れても問題ないように思えるが。


 先程の眼帯君の言葉が脳裏をよぎる、受け入れても余裕で数年は持つだろうが考えなくてはならないのは、その後だ。


 今のタカシさんの家族(ファミリー)だけなら十年以上の年月を平穏に暮らせる物資がある。


 先が見えず焦りのある数年間の生活を取るか、安泰な十数年な生活、どちらを選ぶと言われれば安泰な十数年な生活を選ぶのが正しいのだろう。


 でもな、子供や女性の暗い顔を見てると決心が揺らいで来るんだよ、シェルターに戻ったら一度みんなと相談するかな。



◇◆◇



 空のリアカーをバイクで引きながら、シェルターに帰還しようと思ったタカシさんは、一つ思い出した事がある。


 ユカにお使いを頼まれていたのを忘れていた、今このバイクに装備しているタイプと同じ、クロスボウの追加や携帯コンロに使うガスボンベなどの回収を頼まれていたのだ。


 クロスボウは後でミリタリーショップに寄るとして、まずは携帯用ガスボンベを回収するために、国道4号線を北に走らせ埼玉の川口まで出張である。


 片道40分程度なので、往復してもそう時間はかかるまいと考え大型ディスカウントスーパーまで足を運んでみると。


 店内に人の姿は無いが、何でも揃うをモットーにした大型店舗なので生き残った人々が物資を漁ったのだろう、店内は酷いありさまだ。


 まず食料品、医薬品などは、店内に影も無いアウトドア用品もまばらにあるだけなので、目的の携帯用ガスボンベも数本あるきりだ。


 ユカには空になったリアカーに、積めるだけ積んで来い過積載など気にするなと、冗談交じりに言っていたが。


 新しい武器に必要らしいので、かなりの数は確保しないとマズイとの事だ。


 携帯用ガスボンベがある棚を見ると、一枚の伝票が目に付いた。


「配送センターか…… 行けば物資はまだあるかも知れないな」


 配送センターから各地の店舗に商品を送り届けているわけだ、ガスボンベが大量に置いてある可能性はある……


 伝票の住所と地図を見比べると、ここから2キロ程の場所にある意外と近い場所だな。


 手ぶらで帰るわけにもいかず配送センター付近に、10分程で到着すると、バイクを下りるタカシさん。


 物資があるとすれば、人がいる可能性が高いサウ蔵たちのような善人ばかりではないとの懸念から、腰に付けた新しい武器の釘打ち機を確認して慎重に建物に近づく。


 近づくにつれ人の大声が聞こえてくる、タカシさんは更に用心して建物の影に潜み様子をうかがうと。


 数人の男達がもう一方のグループに対して一方的に大声を上げている姿が見える。


 頭部がザビエルのようにハゲた男が、偉そうに何か言っている。


「この預言の言葉を朗読する者と、これを聞いて、その中に書かれていることを守る者たちとは、幸いである。時が近づいているからである」


(セント)・吉田様は、こうおっしゃってる今回は食料を全て吉田教団に譲渡するようにとの、ありがたいお言葉であ~る!」


 こんな世界になれば、いつかはこんなバカが出て来ると予想してたのだが。


 終末世界になり、ヨハネの黙示録の有名な言葉を適当に引用して、権力を築こうとするバカ共だ。


 人の宗教観にケチを付ける気はないが、個人的にはヨハネの黙示録なんて年代により加筆修正されまくった怪しげな物にしか感じない。


 配送センターに物資がある為に、人が集まりコミュニティが形成されていたようだが、そんなたかり屋風情は住民達によって痛い目に合だろう。


 そうタカシさんは思ってたが、住民代表の老人が予想外の言葉を口にした。


「我々は誰かと争う気もありません、暴力で抵抗するつもりもないので食料は自由に持ち帰って結構です」


「このように、熱くもなく、冷たくもなく、生ぬるいので、あなたを口から吐き出そう」


(セント)・吉田様が感心な心構えだ、ついでに女も貰っていこうとのお言葉であ~る」


「我々は抵抗しません、ご自由になさってください」


 そんなやり取りを見ていて、吐き気がしてきたタカシさん。


 おそらく住民達は、ここにコミュニティを築くまでに人と争い酷い目にあって無抵抗主義になったのは、容易に想像できるが。


 あの無抵抗主義で有名なあの人だって、武力を恐それ抵抗はしなかったが、その鬱憤の矛先を家に持ち帰り女房、子供を酔って殴りつけたなんてエピソードがある。


 完全な無抵抗主義は成立しない物なのだ、その鬱憤やしわ寄せはもっとも弱い存在に向けられる。


 ここのコミュニティで言えば、老人の後ろで震えている子供達だろうか、子供達の姿を見るとアザや擦り傷が多い。


 争う事をやめて、たかりや屋の言いなりになり、その歪みが子供達に向かっている。


 タカシさんは怒りを通りこし、逆に頭が冷静になりつつある。


 音も無く歩き出したタカシさんは、(セント)・吉田の背後に立ち、腰から釘打ち機を抜き。



 ガチン…………


 とトリガーを引き(セント)・吉田の頭部を打ち抜いた…………


「次は、子供を殴ったクソ野郎はどいつだ!殺してやるから前に出ろーー!!」



 ああ、クソッタレな世界になっちまったなあ…………




次回は14日の18時を予定してます。

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