穏やかな一日
ユカの救出から既に3日程の時間が過ぎて、ユカの体調も本調子になりつつある。
やはりヒナコの姉だけあって、機械工作が好きで暇を見つけては工作室に入り浸る生活を送っている。
当初はアルや五郎と上手く関係性を築けるか心配の種であったが、目の前で可愛がる姿を見ていると心配なさそうだな。
ユカが、アルと五郎を追いまわして、子供たちはキャッキャッと楽し気な声で逃げ回っている。
鬼ごっこか懐かしいなと、タカシさんが生暖かい目で見ていると、五郎が足元にある玩具に足を取られ転んでしまった。
咄嗟にタカシさんは、五郎に駆け寄り近づくと。
「わうん~」
「五郎ーー!! これか! この玩具が五郎を転ばせたのか? それとも床が悪いのか? こんな悪い床はこうだ!」
子供用レクレーションルームの床に、怒りを込めてタカシさんパンチをお見舞いしている。
五郎の瞳から一滴の涙がこぼれ落ちた、愛する我が子を泣かせたこんな床などこうだ!
「タカシさんマグナムブロー!」
脇をキュッと締めて、背筋のバネをも利用した最高なブローを床に喰らわせていると。
アルが五郎をそっと抱きしめて、優しい言葉を告げる
「五郎泣かないにゃ 男の子は、転んでも泣いちゃメっなの」
「あああああ! アルがなんてお利口さんなお兄ちゃんなんだ~ この感情が抑えきれないぃぃい!」
「アホや、アホのタカシさんや……」
アル、五郎を抱き上げながらバカな発言をしているタカシさんに、ユカは呆れた表情で一連のやり取りを見ている。
ユカは、先程五郎が転ぶ原因になった玩具を、おもちゃ箱にしまいながら、タカシさんに質問をしてくる
「二本足で歩き喋る、この子らの体に何が起こったんやろうな?」
「ユカ、ウイルス進化論って言葉を知ってるか?」
「話だけなら聞いた事があるんやけど、批判や疑問も多い進化論やろ?」
「タカシさんも詳しくないが、ウイルス進化論が関係してる気がするんだ、ダーウィンにでも聞いてみたいよな」
人間と遺伝子の構造が近いと言われている、チンパンジーで98%程度。
犬、猫も90%前後のかなり人間に近い遺伝子を、持っているなんて記事をサイエンス誌で読んだ記憶があるが。
化け物の肉を食べて、ウイルスにより進化と仮定しても、ある日突然完璧な姿になるなんて学者先生の考ればいい領分で、タカシさんは知ったこっちゃ無い。
我が子が健康でいれば、それだけで満足すべきだろう。
丁度良いタイミングなので、タカシさんからも質問をしてみる。
「そうだユカ、世界が変わった日に何が起こったか、知ってるか?」
「ウチもようわからんねん、職場にいたらガラスが割れて凄い衝撃が来たのは、憶えてるんやけど。」
「そうか、いまいち何が起きたかハッキリしないんだよな」
「職場から自宅に逃げる途中に、他の避難民に聞いた話やけど、少なくとも関東全域は電力が使えないらしいわ」
「そんな広範囲なのか!? 何段階にもよるEMP攻撃があったのか?」
「さあ、その辺りはどうやろ? ただ核の迎撃やJアラートを沈黙させるには有効な手段やないやろか」
なんともスケールの大きい話だが、核が落ちたと想定すれば、ユカの言葉にも一理あるのは確かだ。
「化け物に関しては、何か情報はあるか?」
「これも避難民から聞いた話で確証はないんやけど、秩父山中が消滅してそこから出て来たって聞いたんやけど、信じられへん話や」
「他国の生物兵器なら、海を渡って来るのが道理なんだが山が消えて化け物が…………」
「タカシさん、そんな深刻にならんでも避難民の情報も錯綜してたわけやし」
「そうだな確証も無い話だ、いずれ詳しい情報が入る可能性もあるし、この辺りにしとくか」
そろそろ昼時になるころ合いで、タイミングよくヒナコが姿を見せ、食事が出来たと報告に来たので全員で、食事できるスペースの居間に移動をして。
ごきげんな昼食を頂いているのだが。
「タカシさん、そのナポッとかモニュって食事方法をやめてや」
「んっ? 何かマズかったか?」
「子供たちがマネするやん、最近はヒナコまで……」
「お姉ちゃん、これが様式美らしいよ?」
「そんな様式美は知らん! もっと行儀よう食べや」
凡人なユカには、この様式美の素晴らしさは理解できまいと思うタカシさん。
「お姉ちゃんも、そんな口ウルサイ事を言うから、今まで彼氏が一人もできないんだよ」
「そっ そんな事ないで! お姉ちゃんはモテモテで困って大変で………… 大変なんやで………」
「何だ? 彼氏がいないのかユカは??」
「彼氏どころか、男友達もいませんよタカシさん」
落ち込むユカの姿を見ると、ヒナコの言葉に信憑性を感じる。
意外だな、あんな立派なGカップなのに彼氏がいないなんて。
ユカと会って数日だが、少し口煩く世話を焼きたがる部分がある女性だ、言い方は悪いがオカン感が出ているのが、男を寄せ付けないバリアーになってたのかもしれない。
えせ関西弁も、地域に溶け込む努力をした結果なのかもしれない、タカシさんの同僚も福島に転勤して二月あまりで福島弁になっていたのを思いだす。
ほほ~ あのGカップは、ビッチなGカップでは無いと…………
まあそんな事を考えても、ユカとタカシさんがどうなるわけでも無いんだが。
◇◆◇
食事を終えて、本日の予定はサウ蔵君のいるコミュニティに食料支援を少しばかし、しようと考えている。
ヒナコに、3Dプリンターでリアカーを作成してもらったので、リアカーに日持ちのする食料を中心に積み込み。
バイクでリアカーを引こうと、リアシートとリアカーをワイヤーで固定しようとして気が付いたのだが。
「なんだこれは!?」
タカシさんの二代目になる愛機、タカシさんマーク2に下品な改造がされている…………
サイドカーや、エアコンプレッサーは前のバイクにもあったものなので、問題はそこでは無い、バイクの側面の左右に二つクロスボウが付けられている。
ヒナコがカスタムした、連発式のクロスボウがバイクに装備してある、ありか?………… ナイナイ。
まるでゲームのメタル〇ックスじゃないか、あのシリーズは内容は面白いが、犬にミサイルや機関銃を装備させるのが許せずイライラするゲームだ。
そんな世紀末仕様なバイクは好きではない、ビンテージ感が溢れシンプルな姿が美しいのに。
「誰だこんな下品な改造した奴は?」
ヒナコか? ヒナコには怒れない気がする、姉のユカか? ユカも何だか怒りづらいんだよな。
もしユカが犯人で、タカシさんが以前想像してたビッチなユカなら乳揉んで、ケツをスパンキングしてやるが。
諦め顔なタカシさんは、ガンロッカーに収納してあるライフルを取ろうとロッカーを開けるが。
「ライフルも入って無い…………」
おそらく、あの姉妹のどちらかだろうと見当を付け、シェルター内を探すタカシさん。
姉妹は予想通り工作室にいた、今度は何を作ってるんだ?
「そこの姉妹、ライフルが見当たらないのだが?」
「タカシさんライフルなら、お姉ちゃんが補強してるんでまだ時間が掛かりますよ」
「そうやで~ ヒナコの改造は作りが甘すぎるわ、いつ暴発してもおかしく無かったで」
「嫌な話を聞いちまった…………」
いくらヒナコの腕が優れてても、やはり12歳の少女なので経験も浅く甘い作りだったようだ。
タカシさんが恐れていたライフル暴発の危険性はやはり合ったんだな………
特に猟銃ウルバリンなど寒気がするほどの超高圧縮のエアーをライフルに送っている様子だったのでヤバい気配がビンビンしてたんだ。
「しかしそうなると、手持ちの武器が無くて不安なのだが」
「ちょうどええのを作ってあるで」
「ちょうどいい?」
「せやウチが作る物は、ヒナコとはレベルが違うんやで」
工作機械メーカーに就職しているユカの言葉に期待すべきだろうが、信じていいんだよな…………?
バイクの下品な改造を見てから、不信感を拭えないタカシさん。
新しい武器を見せられたタカシさんは首を傾げた、どう見ても建築現場で使う釘打ち機にしか見えない?
「タカシさんに家でも作れと?」
「ちゃうって、この釘打ちにエアーを繋いで使うんや」
「ライフルのように、圧縮空気を利用するのか」
「理解が早くて助かるわ、あとこの服をチョッキの下に着てや」
ユカが作業台の上にある服をタカシさんに差し出す、普通のTシャツのようだが。
ユカに説明を求めると、搬入された荷物にあった物を加工して作成したと説明を受ける。
近年、北海道の大学で作られた新素材で、コンタクトレンズなどに使われる素材である、ハイドロゲルとガラス繊維を結合して作られた布地だそうだ。
金属の5倍の強度があり、海外のCNNニュースなどで話題になった素材らしい、これは素直に着ておくとするか。
「なあ、ユカ、ヒナコ、バイクのクロスボウは取り外しちゃダメか?」
「何を言うてるの! ウチら姉妹の最高傑作やで」
「タカシさん! お姉ちゃんと二人で作った物を外すんですか?」
「ぐぬぬぬ…………外さない………」
そんな顔されたら、嫌だとハッキリ言いづらいではないか、新しい武器と洋服を受け取ると、トボトボと廊下を歩き搬入用倉庫に向かうタカシさん
「あいつら意外と、押しの強い性格なのな………」
受け取った服を着て見ると、普通のTシャツと着心地は変わらない。
これで鉄の5倍の強度があるなんて凄いよな、この素材を持ち込んだ金持ちに感謝しなければ。
新しい装備を点検して、バイクのエンジンを回す。
「やはり良いエンジン音だ…………」
でも見た目がダメすぎるだろコレ…………
少々、仕事が忙しいので暫くは3日に一度の更新とさせて頂きます
次回の更新は、10日の18時頃になります、なるべく早く毎日更新に戻れるよう努力しますのでw