お先にシャワー
投稿予定10分前に書き終わりギリでしたw
一角との死闘を無事に終えたタカシさん達、ボロボロのバイクでシェルターに帰還途中です。
バイクの車輪から、シャリシャリと擦れるような音がしている。
「こりゃスポークも歪んだな………… エンジンの調子も悪いしシェルターまで持つか?」
そんな不吉な事を口にする物だから、バイクのエンジンが更に機嫌を壊して異音がしてくる。
シェルターまで残り4キロ地点で、とうとうバイクが止まり、うんともすんとも言わず、バイクのエンジンはいつもの頼もしい咆哮を上げてくれない。
「ダメだこりゃ…………」
タカシさんは、上空をドローンで付いて来ている、アルと五郎に無線で連絡する。
「お~い二人とも、バイクが壊れたから、先に帰ってなさい~」
「パパが心配だから、一緒に帰るにゃん」
「わふふん」
子供達の言葉に、甘えそうになるタカシさん、でもあの子らも慣れない戦闘で疲労がピークなはずだ。
「パパは心配ないから、先に帰ってなさい、お前らも疲れたろ?」
「パパしこしこするにゃ? 五郎、先に帰るにゃ」
「わう~」
なるほどね、パパが素っ気ない態度の時は、しこしこタイムだと認識しているわけねアルは…………
空しい気持ちを抱えたまま、トボトボと帰路を進むタカシさん。
マンドラゴラの霧の効果も薄れ、体は随分と楽になってきているが、こんなに歩くのは久方ぶりな気がする。
歓楽街から外れた場所なのに、一店の風俗店のビルが目に入るタカシさん。
この辺りの地理には疎いが、この地域に風俗店があるのが意外だ、看板を見ると。
「4階か…………」
そう呟きビルに入り、4階まで来てみるタカシさん。
こんな世界になる前から、カメラで監視されているモニター生活を送っていたため。
かれこれ一月ぐらい、しこしこタイムをしていない、健全な成人男性としては、死活問題になり得る問題である。
カランカランと鈴の音色を響かせ、ご入店してみる、店内は当然無人なわけで。
イヤラシイ事をする、プレールームに入り。
「お先にシャワーを浴びてくださ~い♡」
タカシさんが甲高い声でそんな言葉を口にして。
「おっ シャワーか! 一緒に入って洗いっこするか!」
「お客さんは、今日は休日? 普段は何をしてる人なの♡」
「IT系の会社で、法務関係をちょっとしてたが、今はフリーターさ」
そんな悲しい一人芝居を終了して…………
「何で人がいね~んだよ! 何で、何で…………」
何でこの世界から人の姿が減り、閑散とした世界になったんだろう?
普段は疎ましく思っていた、人々の喧騒が懐かしい………
タカシさんは、プレーに使うビニールマットを、ぶん投げるとガラス戸がガシャン! と音立て、また静かな店内に戻った。
「帰るか………」
ビルを出ると夕暮れが眩しい、少し人恋しい気分なタカシさんの視界に、人の姿が通りの反対に見える。
夕日で眩しいので目を細めて見ると、サウ蔵のそばで側近の真似事をしている、モヒカンA君が自動販売を荒らしている。
モヒカンA君は目立つ眼帯をしているが、前回、会った時はしてなかったよな? 怪我でもしたのか。
「お~い、モヒカンA君~!」
「あっ! タカシさんじゃありやせんか」
「どうした目を怪我したのか?」
「へへっ いいでやしょ! あげないでやんすよ」
何だ、ファッションなのか、心配して損したな。
「あっしの事は、これから眼帯って呼んで欲しいでやんす!」
「おお! そのネーミングは、ちょといいな!」
「そうでやしょ!」
眼帯なんてネーミングは、男心をくすぐるじゃないの。
「そうだ、タカシさんは、こんな噂を知ってやすか」
「噂?」
「隅田川の反対岸にホームセンターがあるでやしょ」
「ああ、ニ〇リな」
「そこの屋上から、毎晩人魂が浮かんでるって話でやんす」
通信インフラが全滅に近いこの世界では、人の噂が重要な情報源になるのだが、人魂か…………
タカシさんは、あまりオカルトな事は信じない人なんだが、気になるので明日の番にでも見に行くか。
眼帯君に別れを告げて、また徒歩でシェルターへの道のりを歩きフラフラになる頃、やっと愛すべき我が家のシェルターに帰還した。
「お帰りなさいタカシさん、お怪我は大丈夫ですか?」
「ただいま、少し痛むが数日で治るだろう、大した怪我じゃないしな」
「そうですか? でも数日は無理をしないでくださいね」
「悪いが、そうさせてもらう、今晩もヒナコの住むマンションに行くつもりだったが、さすがに疲れたから、明日見に行くがいいか?」
ヒナコには悪いが、さすがにいっぱい、いっぱいな感じ。
「もちろんです、今、外に行っても疲れた体では危険ですから、ゆっくりと休んでください」
「そう言って貰えると助かるよ」
そう言葉を言い、ジャグジーへと向かうタカシさん。
防弾チョッキを脱ぎ、チェックしてみるとチョッキ内に入れてある鉄のプレートが、ぐにゃりと変形していた。
「おいおい、チョッキがなければ、死んでたぞこれ……」
ついでに、重い一撃を貰った腹部を見ると、痛々しい色のアザがあり、指で触れて見ると。
「痛くてウ〇コ出そうだわこりゃ!」
今までは緊張感で、痛みが麻痺していたのだろう緊張感の無い今はジクジクとアザが痛む。
「傷、アザに効く入浴剤を多めに入れれば、マシになるよな?」
炭酸効能のある入浴剤を、容器からザラザラと半分程入れて見ると風呂の色が、アマゾン川のような怪しげな色に変わる。
湯船に浸かり、湯の香りを嗅ぐとやはり入浴剤の入れすぎか凄い臭いだ。
「我慢、我慢…………」
湯から、上がると体中熱をもっている、あんな打ち身で風呂に入れば熱も出るわな、うかつだった。
フラフラとリビングに行くと、味噌汁の芳香が鼻をくすぐる
リビングテーブルを見ると、おにぎりと味噌汁が用意してあり。
ヒナコの姿もある。
「タカシさんお疲れ様です、簡単な物ですが食事をしてください」
「こりゃウマそうだな、ヒナコが作ったのか凄いな」
「凄いだなんて、おにぎりを握り味噌汁を作った、だけですよ」
「いや、これでいい、こんなシンプルな料理が一番美味しいんだよ」
タカシさんは椅子に座ると、おにぎりを一口食べる。
「ウマイな………」
「そう言ってもらえて嬉しいです、味噌汁もどうぞ」
「ああ、頂こう」
おにぎりは女性が握った方がおいしい、なんて話がある、手の分泌物の成分が男性とは違い、おふくろの味と呼ばれるらしい。
タカシさん母親を早く亡くしているので、こんな味を知らないが良い物だな、悪くない………
少女のヒナコに母性を感じるなんて、保護者として恥ずかしいが、たまには許して欲しい、大人も完璧じゃないんだ。
「そんでヒナコ、子供らの姿が見えないが?」
「あの子たちは、食事をしたら疲れて寝ちゃいました」
「それも仕方がないか、ヒナコも今日はお疲れ様だ」
「お役に立てて何よりです」
食事を済ませ、タカシさんも寝室に入り横になる、先程は我慢していたが、熱と傷の痛みでかなり辛い。
薬箱から、鎮痛剤を出すと口に放り込み毛布を被り、泥のような深い睡眠に入るタカシさん。
目が覚めて壁の時計を見ると、夕方の5時だ、どんだけ寝たんだタカシさん。
「目が覚めましたかタカシさん?」
「あ… いたのかヒナコ」
「熱も下がった様子ですけど、体調が悪いなら言ってください、心配しましたよ」
「すまんなヒナコ、もう大丈夫だ」
頭の下に氷枕が敷いてある、ヒナコがしてくれたのだろう。
タカシさんの横で居眠りしていた、アルと五郎も目を覚まし。
「パパ~ イケる? イケる?にゃ」
「ああ、全然イケる感じだ、心配ないからね」
「わふふうん?」
「五郎も看病してくれたのかい? 偉い子さんだな~」
誰かに心配をしてもらえる、それだけで十分に報われる気がするタカシさん。
ヒナコが、タカシさんの熱を計りながら子供らに。
「アル君、五郎ちゃん、パパはまだ少しお熱があるから、寝かせてあげようね」
「了解にゃ! 五郎パパ痛い痛いだから、抱っこはメッにゃ!」
「くふう~ん」
その後、軽いお粥を食べると、ヒナコがアルと五郎を連れて
タカシさんの寝室を後にした。
「もう少し寝るか…………」
もう一度寝て、起きてみると深夜一時を回ってる、中途半端な時間に起きてしまったが、良く寝たのでこれ以上は寝れそうにない。
寝巻のままキッチンに行き、冷えた麦茶をガブ飲みして、搬入用倉庫に来てみる。
新し車両を見つけようと来たのだが、色々とあり目移りしてしまう。
車をみるとハマーがあるので近寄り、車内とエンジンルームを見ると。
「こりゃハマーH1じゃないな、ハンヴィー軍用車だ、お金持ちの趣味にしてはイイな」
お次の車は、メルセデスAMG GT R 2000万円以上のお値段に600馬力近いモンスターマシン、これも心惹かれる。
古いスカイラインGTR、通称ハコスカなんて呼ばれる物まである、これは是非にもタカシ号にしたい筆頭だな。
でもとりあえずは、移動のしやすいバイクのコイツがいい。
タカシさんは、ドゥカティ900MHRにまたがると、エンジンを回す。
「少しだけな…………」
そう都合の良い言葉を呟き、シェルターから出て試運転を始めるタカシさん。
そういえば、眼帯君が言ってた噂の場所でも見て見たいな。
タカシさんは、隅田川の方へとバイクを進め到着すると川の反対岸にあるホームセンターを見ると。
「確かに屋上で、チカチカと人魂のような物が見えるな………… モールス信号か!?」
あそこの屋上に避難民がいる可能性がある、ユカさんの事もあるから調べに行ってみるか。
明日も18時頃の更新です、間に合うよう気合いをいれますので