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マジ怒なタカシさん



 ランプの明かりを頼りに、カヤックのオールを漕ぐタカシさん。


 奥に進む程、水位が上がり、途中停車した地下鉄車両が水没しかかっている。


 車両内の人は避難しているのか、亡くなったかは考えたくないのでなるべく、視界に入らないようにカヤックを進め。


 いくつ目かのホームを横切ると、飯田橋に到着した。


「ヒナコ、ここで乗り換えだから、カヤックを引き上げるぞ」


「ここから、何線に乗り換えするんですか? あまり詳しくない物で」


「有楽町線に乗り換えだから、今度は有楽線の線路を進むんだ」


「なるほど、ややこしいですね」


 ヒナコの言う通りややこしい、タカシさんだって高校に上がり行動範囲が広がってから、憶えたが全線を把握しているわけじゃない。


 カヤックをを水から引き上げ、解体、収納して重いカヤックが入ってるバッグを持ち上げる。


「階段が思ったよりキツイ…………」


「後ろから支えましょうか、タカシさん?」


「ああ情けないが頼めるか」


 カヤックを収納している、鞄を支えてもらい階段を上がるタカシさん、地下鉄の階段って急すぎるんだよな。


 階段をヒイコラ上がり、有楽町線のホームに到着して再びカヤックを組み立てると、体が思ったより疲労している。


「ヒナコ、ここらで休憩しよう」


「休憩ですか、アタシもそろそろ疲れてきてたので、助かります」


「そうだったな、ヒナコの体力を余り考えてなかった、すまん」


「いえ、むしろ弱音を吐いてゴメンなさい、アタシの姉のためなのに」


 ヒナコとは随分と打ち解けたが、まだ堅苦しい部分があるな性格なのか?


「弱音やワガママを言うのは、子供の特権みたいなもんだろ、気にするな」


「ありがとうございます、そんな事を言ってもらえて、嬉しいです」


「まだ何か堅苦しいんだよな、ヒナコってもっと子供らしく気楽にしろ」


「そんなに堅苦しいですか? 自分では気が付かない物ですね」


 もっと子供らしく、好きな事を言ってくれる方がタカシさんも楽だし、頼られている実感が湧くんだけどな。


 家族がアルしか居なかったタカシさんだが、ここ数日で五郎やヒナコが増えて、ほんの少しだが家族のような気分になっているのは驚きだ。


 時計を見ると昼時なので丁度いいかと、リュックから携帯食を出すタカシさん。


 携帯食とはいえ、日本の携帯食はウマイ。


 以前、横須賀で米軍が食べている、MRE(携帯用調理食)を手に入れる事ができ食べてみたら、正直言って口に合わなかった。


 タカシさんが、今リュックから出した携帯食は和膳で紐を引くと、生石灰と水が混じり合い携帯食を温めてくれる。


 ふたを開けると、モアっと湯気が出て実にそそる。


「タカシさん、それはウナギ弁当ですか?」


「ああ、美味しそうだろ」


「携帯食とは思えませんね、アタシは鳥五目膳です、これも良い香りがします」


「さすが、お金持ち様専用の携帯食だな」


 こんな時だからこそ、しっかりとした食事が必要なのだ、肉体的な疲労より、精神的な疲労が大きくなる環境では、なおさらだな。


 食事が活力を生み、やる気もでるって物だ。


 味、量共に満足のいく食事を済ませた二人は、再びカヤックを漕ぎ池袋へと向かう。


 二駅が過ぎ、三駅目の東池袋に到着すると、ここからは徒歩になる。


 予想では、化け物の群れから少し離れた位置と考えここでカヤックを降りたんだが、あくまで予想でしかない。


 前回来た時に見た、群れの進行方向が変わっていれば、ここは群れの真ん中なんて事もありえる。


 祈るような心持で、階段を上がり付近の様子を探ると、化け物の姿は見えない。


 目的地の方を見ると、サンシャインが見え、あのビルの反対側が目的地になる。


 このまま安全に目的地に行けそうだ、前回に見た火の手も、もう上がってないし。


 少々、きの緩むタカシさんだったが、突然ビルの影から姿を見せた群れをはぐれた化け物の、一団と鉢合わせしてしまった。


「ヒナコ! 走れ!!」


「走れってどっちに!?」


「いいから付いて来い!」


「はっはい!」


 10m程離れたオフィスビルに駆け込む二人、二階に上がると、窓際の部屋に入り、ドアを机やロッカーなどでバリケードを設置する。


「ヒナコはバリケードを越えて来る化け物を撃て! できるな?」


「はい! 一匹もここを通しません!」


「頼む!」


 タカシさんはそう言葉を告げると、窓際に立ち、ガラスをライフルのストックで割る。


 眼下にいる化け物の数は、40………… もっとか5~60匹はいやがるか、絶望的な数に思える。


 猟銃モンスーンを、スッと構えるタカシさん無心だ無心になり、ただターゲットを撃つしかない。


 スコープごしにゴブリンを狙い。


 担々麵と


 パァンと銃声が響き、ゴブリンの頭部に穴が空く、命中率、衝撃、扱いやすさ、この感覚は火薬の実銃22口径に、最も慣れ親しんだ感覚に近い。


 大学からは22口径の実銃、競技用スモールボアライフル専門だったので、この感覚はありがたい。


 セミオートマチックの猟銃ライフルなので、3秒に一発の間隔で確実にゴブリンの頭部を打ち抜くタカシさん。


 競技者としては、中の中である腕前でも、50m先の500円玉を100発撃てば95発は確実に撃ち抜ける。


 多少の横風や動きがあっても、500円玉より大きなターゲットなら外さない。


 チャーシューパァンと


 1・2パァンと


 ビルに近寄る化け物を、順調に駆逐していたタカシさんの背後から、バリケードが壊れる音がする!


 こちらは、化け物をビルに寄せないようにするのが精一杯だ、背後のヒナコまで援護できない。


 バリケードを壊す音がドンドンと大きくなる、もうバリケードは持たないだろう!


 ガシャーン!!


「ゴッブゥゥウー!」


 侵入されたか!?


「ヒナコ撃てーー!!」


「ヒッ!………… うっ 撃てません…………」


 ヒナコは恐怖に飲まれてか、生き物を殺す禁忌感かは知らないが撃てないでいる、普通に暮らしてきた子供には仕方がないのだろう。


 だが、世界が変わった今は撃たなければ死ぬ世界なんだ。


「ヒナコ! ユカさんが待ってるんだ、撃て!!」


 我ながら、大人の都合でズルイ言葉を言ってるのは自覚している。


 だが、ヒナコは目に力を入れクロスボウをゴブリンに向けながら声を上げる。


「ゴメンなさい!」


 そう叫びながら、ヒナコがクロスボウの引き金を引くと。


 弦がはじく連続音が、タタタタッ! っとして矢を発射して。


 一瞬の内に複数の矢がクロスボウから放たれて、ゴブリンは声を上げる間も無く、ハチの巣になった。


「タカシさん! アタシ………… アタシ撃てました!」


「そうか、偉いぞヒナコ! この後、化け物が来ても平気だな?」


「はい! 大丈夫です」


 大人のズルイ言葉で少女にこんな事をさせるなんて、はっきり言って罪悪感はある、でも今はコレが現実なんだヒナコ。


 この窮地を乗り越えて帰還できたとしても、タカシさんはヒナコに謝らないだろう、こんな世界になったからには慣れてもらう必要があるからな。


 そろそろ、こんな攻防戦を始めて40分ぐらいだろうか、スタンディング(立射)の姿勢で射撃をしているが。


 長ければ一時間以上、こんな姿勢をする事もあるので疲労はあるが慣れとは恐ろしい物だ。


 その後も二度ばかり、部屋に化け物の侵入を許したが、ヒナコがクロスボウで、化け物の息の根を止めてヒナコもクロスボウの扱いも随分慣れたようである。


 タカシさんが視界に入る最後の一匹の額に穴を空け。


「ヒナコ、このまま急いで移動するぞ」


「そうですね、また群れから離れた集団に、会いたくありませんからね」


 二人は、休憩する間も無くオフィスビルを出るとサンシャイン方面へと急ぎ足で移動している。


 ちょうど、首都高速5号線の真下に移動した時に。



 ドンッッ!!



 と地響きを立てながら、首都高の高架橋から飛び降りて来た化け物の姿を見ると。


 今まで、出会った化け物とは、大きさが明らかに違いすぎる4m近い長身に巨体だ…………


 顔には額から一本の角が見え、牙も鋭い様子を見せている。


 ヒナコが、クロスボウの引き金を引き、大量の矢が巨大な化け物に命中するが、皮膚が厚く大した傷を与えられないでいる。


「下がっていろヒナコ!」


 タカシさんの咄嗟(とっさ)な判断でヒナコを下がらせ、巨体の頭部を狙い一撃を喰らわせたのだが、頭蓋骨が厚いのかピンピンしている。


「おいおい! 頭、頑丈すぎないか!」


「逃げましょうタカシさん!」


「おう! 先に行け少し足止め位しとくから」


 タカシさんが更に一発、化け物の膝の皿を撃ってタカシさんも反転して走りだす!


 だが、しなやかなネコ科の動物のような、速さで回り込まれた。


 化け物の顔を見ると笑っていやがる、タカシさん達を玩具代わりにしてる。


 こりゃ逃げられないぞ………… ヒナコだけでも逃がしてやりたいが。


 化け物が咆哮を上げながら、こちらにゆっくりとした、足取りで近づいて来る。


 絶体絶命なピンチと思われたが、化け物とタカシさん達の間の地面が、突然燃え出した。


 上空を見ると、火炎瓶を投下したアルと五郎の姿があった。


 化け物が火を嫌がり、タカシさん達との距離が開くと


「パパにイジワルする、燃やすにゃん」


「わんわんおー!」


 ドローンに体を固定した、アルと五郎が頼もしい言葉を言ってくれている。


 追撃とばかりに、アル達が残りの火炎瓶を化け物に投下すると、避けきれずに巨体を燃やし。


 グギャァァァアアーー!!


 と空気が震えるくらいの、咆哮を上げながら逃げ出した。


 たぶんアイツ、あれぐらいじゃ死なない気がするわ、タカシさんの勘だけどね。



 さて…………


「アル、五郎何でここに来たんだ! 留守番の約束があっただろう!!」


「タカシさん、そんなに大声で怒らなくても」


「パパ心配だったにゃん…………」


「わふうん…………」


 今回はこの子らのおかげで助かったが、それとこれは別の問題だ。


 この子らに何かあれば、タカシさんは生きていく自信がない。


「とりあえず、ここは危ないからシェルターに帰ってなさい! いいね!」


「わかったにゃ…………」


「ふんふん…………」


 体中の力をダランと抜き、落ち込んでいる二人は、シェルター方面の空に消えて行った。


「タカシさん厳しく言いすぎでは?」


「あの子らの命に関わる問題だ、これだけは厳しく言わなきゃならん」


「確かにそうですけど…………」


「ヒナコ、タカシさん珍しく本気で子供らを怒ったから、後でフォロー頼むな」


 戻った後、タカシさんが甘い言葉でフォローを入れると逆効果になりそうなので。


「そうですね、任せてください」


「すまんな」


「何を言ってるんです、アタシはあの子らのお姉さんなんです、心配しなくていいですよ」



 本当に頼もしいお姉さんだな…………



明日も18時頃に投稿したいと考えております。

間に合うよう頑張りますのでw

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