揺動の物語
「久しぶりですね。フォルフルゴート様。いつも通りで何よりです」
「リアか、何しに来た」
フォルフルゴートの所にやってきたのは、鳥の翼をもつ白いドラゴン。愉快そうな気配をまといながら、空中を漂っている。名前は、リア・メキア。非常に癖のある白竜で、誰からも好ましく思われていない。
「私は面白い話を聞いてきただけなんですよー。いやー、愉快で愉快で面白くなってきてしまいますねー。新手の道楽ですか? 是非とも話を聞かせて下さいよ」
「お前に話すことは無い」
おそらくリアの言っているのは、ステラの事だろう。人間の事を見下すこの竜は、人の事を虫ほどにも考えていないだろう。その為、フォルフルゴートはステラに今日は来るなと言っておいてある。この竜が近づいている状態に気づいた事、のんびりと向かって来ていたことが幸いしたと言える。そうでなければ、鉢合わせてしまった可能性がある。
「まぁ、人間共もペットとか言って有象無象を管理してるみたいですし? フォルフルゴート様が興味持って人間をペットにしても、それはそれで良いんですけどねー。ところで、敬語とかめんどくさいです。どうせ気にしないのなら何でもいいですよねー」
「勝手にしろ」
フォルフルゴートとしては、敬語とかどうでも良い。リアが何言おうとも、その言葉には心がこもっていないのだから同じことだ。しかし、ステラに何か手を出しそうで怖い。ここで消してしまおうかと考える程に、気が付くと執着していた。それに本人は気が付いていないが。
「いやいや、怖い顔しないで欲しいなぁ。私はねぇ、フォルフルゴートに良い方法を伝えに来ただけなんだよー? どうして敵意を向けられなければいけないのか理解できないなぁー」
「ふん。禄でもない事だろう」
フォルフルゴートは確信を持って言う。リアが純粋に善意を向ける所を見たことが無いからだ。この竜の性格の悪さは他の竜達にも知れ渡っている程だ。しかし、本人は全く気にしていないのだからどうしようもないと言える。
「人間の寿命は、ドラゴンの寿命よりも短い。おっと、中立の管理者には寿命なんて無かったから悪い事言っちゃったなぁー。でも、貴方の血を分け与えて、ドラゴンにしてしまえば良いじゃないか。そうすれば、少なくともこの世界が終わるまでは一緒に過ごせる筈だ。私はなんて上司思いの竜なんだろうねぇー?」
ドラゴンの血には力を与えるという話が多くあるが。正確には違う。ドラゴンと人間には謎の関係性がある。そのことを〈奇妙な関係性〉と言うが、人間はドラゴンの血肉を取り入れることで、ドラゴンの姿を得ることが出来る。逆に、ドラゴンが人間を食うことによって、人間の姿を得ることが出来る。だが、それにはある危険と、代償を伴う。
「断る」
人間がドラゴンの血肉を取り込んだ場合。一つ目の危険は力の上昇に精神が破壊されないかどうかだ。身に余る力を得て暴走してしまう場合もある。だが、それは取り込む量を制限すれば簡単に回避できる。少しずつならば順応出来るからだ。問題は、ドラゴンとなった時の代償。血を与えたドラゴンの下位竜となり、その命令に背けなくなる。フォルフルゴートは自由なステラを好んでいた。無意識に、その行動を縛るのを躊躇ったのだ。
「それなら、私の血をあげようかなぁー。地を這う下等生物ごときを気に掛けるつもりなんて無かったけど。少し面白そうって思ってしまったよ」
「……」
フォルフルゴートは殺気を向ける。その気になれば一瞬で消滅させる事なんて容易い。だが、リアは何も気にした様子は無い。それどころか、その様子を見て面白がっている気配さえもある。
「冗談だから、睨まないでほしいなぁ。何にもする気は無いよ? 選ぶのはフォルフルゴートだから。私はただ、見させてもらうねぇ? アハハハ!」
それだけ言うと、リアは飛び去って行った。本当に自分からは何かをすることは無いだろう。だが、それは本当に自分からはという話だ。どういった方法で干渉してくるかはわからないと、フォルフルゴートはその動向を気にする事にした。