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精霊の物語

「昨日ね、おっきな赤い果物見つけたんだよ。それでね、おねーちゃんと持ってたんだよ」


 ステラは相変わらずフォルフルゴートの所に来ていた。どうやら、昨日〈沈黙の森〉付近まで行ってたようだ。あの森は深いところまで行かなければ攻撃的な動物は居ない。強いて言えば道に迷うと大変という事だけだ。


「ステラ、あまり森の中には入るなよ」


 もし、万が一森の中で迷子になったり、動物に襲われても、大抵は精霊が助けに来てくれるので、問題が無いと言えば無いと言える。だが、精霊にも性格があり、厄介な精霊は厄介だ。空虚の精霊メランは人間に良い感情を持っていないし、繁栄の精霊グリアはどことなく怪しい。とはいえ、無暗に人間を害する事は無いだろう。一番厄介なのは、重力の精霊グラビだ。奴だって人間に対して害したりはしないだろう、ただ、厄介なのだ。


「大丈夫だもん。森の近くに行くときはおねーちゃんも行くもん」


 なんにしても、グラビに狙られないように祈っておくしかない。完全に悪意は無い、だからこその厄介さなのだが……。ステラとフォルフルゴートが適当な会話をしていると、一陣の風が吹き、風と共に少女が現れた。


「久しぶりです。フォルフルゴート様」


「フロウか」


 風の精霊フロウ。秩序の管理者の忠実な従者であり、かなりの実力者。見た目はステラよりも少し年上といった感じだが、精神年齢は高そうだ。


「フローおねーちゃん? 私はステラだよ」


 フロウはステラの方を向き、その目をじっと見つめる。お互いに見つめあう沈黙の時間が流れ、数秒後。ため息を吐き、フォルフルゴートの方へ向き直った。


「……。フォルフルゴート様。世界の異常についてはご存知ですね」


「あぁ、当り前だ」


 違和感を感じるというレベルで、具体的に何が起きているかまでは把握しては居ない。フロウは各地を飛び回り情報を集めていた。もしかしたら、具体的な何かを見つけたのかもしれない。


「私は各地で情報を集めています。そして、本来持ってはいないはずの力を持っている人間を観測しました。もちろん全員という訳ではありません。ですが、少なくともステラさんには何かがあります」


 その辺はフォルフルゴートも考えていた。触れられることもそうだが、ステラには普通の人に見えない何かが見えるらしい。憶測でしかないのだが、生き物の持つ気質のようなものが見えるのではないかと予測していた。ともかく、ステラには何かがあるのだろう。他を見る事が得意な秩序が言うのだから、間違いは無いだろう。


「もー、フォル君とばっかりお話しないでー!」


 憤慨するステラはフロウに抱き着いた。抱き着かれ驚愕する。なにしろ、見た目が人だろうと、その本質は風。触れるのさえ難しく、抱き着くなんてもってのほかなのである。


「すみません、ステラさん。今大切な話をしているのです……。フォルフルゴート様、私たちは人の為に世界を支える存在です。ですが、例え自覚が無くとも。世界に害を与えるのでしたら……。ご理解お願いします」


 秩序は人の為に、自然を整え、世界を支える存在。フロウが言いたいことは、持っては居ない筈の力を持つ人間が、世界への害となるのなら、ステラも例外なく殺すと言っている。精霊は基本的に人を害さないが、ただ一つだけ例外がある。世界を害す存在。本来人間にそんなことは出来ないが、今の状況を考えると無いと言えない。


「……。おそらくそんなことは無いだろう」


 だが、秩序の世界を害すというのは単純な意味合いではない。薬物などで環境汚染等されれば、整える存在として粛正することもある、だが、今の所この世界にそこまでの文明は無いだろう。森林伐採や、生き物大量殺害では秩序は動かない。なぜなら、死は次の生の糧となるサイクルとしてしか認識しないからだ。大陸全域を枯らすぐらいの勢いが無ければ、あっても多少の注意程度だ。では、世界を害すとは。


「今の所は確証が持てません。ですが、この正体不明の力が世界の歪にならない可能性は無いはずです」


 秩序が言う、世界を害すとは、この世界の流れをおかしくすること。この世界のあるべき姿が変わってしまうことを恐れている。秩序は個を見ることは無い、全体の流れを見て判断している。だからこそ、個の死に興味が無い。冷酷と言えば、冷酷だが、1を殺して万を生かすというのは、悪いやり方とは言えない。


「もー! 私もお話したいのー!」


 今度はフォルフルゴートの背中に上って不機嫌そうに叩いている。とはいえ、これは本当に重要な話だ、聞かない訳にいかない。この世界に関わることなのだから。


「解決の手掛かりは未だに見つからないのか」


「はい、現象をようやく確認できたというレベルです。根本たる原因については未だに未知数。何も手掛かりが無いと言って良いでしょう。この件に関しては私たちも困っているのです」


「この事に関しては、僕も動けないしな……」


 フォルフルゴートが「僕」と言った事で驚くフロウだったが、それを言葉には出さない。秩序は他を見るのが得意だが、中立は個であるために、情報を集めるのが得意とは言えない。しかも、秩序のように読み取る事が出来ない上に、他の存在に対して出来ることは、拒絶して存在を消すだけだ。戦闘力という意味では最強だが、現状では何も役に立たない。


「それだけではありません。私達精霊は自然と同化することによって、広範囲を認知できます。私は空気の流れのある所全域を見る事が出来る訳ですが……。ここ〈無知の国〉だけはよく見えないのです」


 怪しいのは混沌。見るのが得意な秩序に対して、誤魔化すことが得意だ。何らかの方法で撹乱しているのだろうか。その為に、フロウがここに来るのに時間がかかったともいえる。


「記憶には留めておこう」


「探知が出来ない以上。この場所を捜索してみます。見たところ草原しかありませんが……何かが見つかるかも知れませんので。では、何かを発見次第。フォルフルゴート様にも報告します」


 そういって、風と共にフロウは去っていった。そして、残されたフォルフルゴートは、不機嫌なステラの機嫌をとるのに気力を使うこととなる。

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