神聖と邪悪
「おい、メビウス。お前は何か知ってるんじゃないか?」
「貴様は、強引に乗り込んできて、何を問うのかと思えば……。私が何かを知っているとでも思うのか?」
この場所は〈救済の島〉の中央に位置する協会。そして、魔王ラギ・イニシエンと、不機嫌そうな細身の男が会話をしている。この、魔王と話をしている存在こそ、神聖の管理者、大天使メビウスであり、誰が見てもそうには見えない姿でもある。
「こんな所に引きこもって、しかも、ここの人間は死んでない。何か知ってるとしか思えないだろ。こんな強固な結界まで用意してまで、何を企んでいるんだ」
「私は、力の究明をするためにここに留まっていただけだ。言っておくが、ここの人間が生き残っているのは、その過程による偶然とだけ言っておく。そもそも、この結界は私が用意したものではない」
メビウスのこの言葉に、イニシエンは鋭い視線を向ける。何しろ、何よりも破壊を得意とする邪悪の管理者が、壊すのに多少とはいえ苦戦した、それほどまでに強力な結界。それを張れるのは、強力な存在である筈だからだ。
「お前の従者が用意したのか? こんなに強力な結界をか?」
「それも間違いだ。この結界は、未知の力を使い、構成している。私達は、その力の道筋を誘導しているに過ぎない。だが、貴様が余計な事をしてくれた為に、たかだか力の誘導如きに、苦労する事になったがな」
メビウスは静かに、そして、かなり、怒っているようだ。イニシエンを睨みつけている目付きが更に鋭くなる。ただでさえ、悪い目付きが、更に悪くなる。どうあがいても、天使には見えない。
「そりゃ悪かった。でも、それが出来るって事は、何か掴んでるんだろ? 協力してやるから、教えてくれ」
「おそらく、人間の未知の力、世界を襲った未知の力、そして、私が利用している力……の根本は人間の力なのだが、これら全てはおそらく同じものだ、と言えるが、確証はない。情報のすり合わせが必要だろう」
「なるほどな」
「だが、貴様の持ちうる情報では、たかが知れている。別の視点からの情報、エンシェントの力があれば、進展はするだろう。おそらく、この件について一番理解があるのは奴だ。だが、素直に情報を提供するとは思えない」
「よし、俺が無理やりにでも協力させれば良いんだな」
エンシェントは、悪く言えばかなり頭の固い管理者だ。しっかりと説明すれば協力してくれるだろうが、イニシエンの言う強引にでは、色々と拗れる未来予想しか出来ない。しかも、そこに、更なる乱入者が現れる。
「アタイにも一枚かませてよ。こんなことになったら、悠長にしてる場合じゃないんだろ?」
「よし、レアル。沈黙の森に行くぞ!」
「いえーい!」
おそらく、イニシエンの空けた穴から入ってきたのであろうレアル。こっそりと話を聞いていたに違いない。そして、厄介な二人が謎に結託してエンシェントに突撃しようとしている。これは、良くない。どうあがいても、良くない事になりそうだ。
「……。説得は私がやる。貴様らは余計な事を言うな」