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閉幕の物語

「ステラ! いったいどうしたんだ!?」


 ステラが苦しみ始めた、その直後。世界が震えた。まるで振動するかのように、何かの力が発生している。今まで、そんな事が無かったフォルフルゴートも、レアルも行動を停止してしまうが、一番先に立ち直ったのは……


「おい! ホロスコープ! さっきの現象についてさっさと調べろ! あれはアタイ達管理者の権限から外れたエネルギーか何かだ! 少しヤバいかもしれな……」


「わ、わたし、な、なにがっ……!?」


 無表情だったホロスコープに、表情が戻る。だが、その瞬間、体制を崩しそのまま倒れてしまう。いや、その表現は正確ではない。まるで、風化するかのように、その姿を崩してしまった。その突然の光景に、レアルは完全に行動を止めてしまう。その瞬間、ガントはレアルを岩の怪物の口でかみ砕いた。


「私はエンシェント様の所に確認しに行ってくる! 流石にこの状態でレアルが何かしてくるとは思わないから、その子を見ててあげて!」


 ガントはそれだけを言うと、地中に潜り、未だに動けないフォルフルゴートと、痛みによって蹲るステラだけがその場に残された。


「ねぇ、フォル君……」


 苦痛に表情を歪ませながらも、ステラは少しずつ、フォルフルゴートへと近いていく。ゆっくり、ゆっくりと、そしてその身体に触れた。その感覚は、今までと同じものではあったが、触れるその手は、微かに震えていた。


「ステラ……」


「早く、私を食べて……!!」


 ステラは、必死の表情で、そう訴えかけた。まるでもう時間が無いとでも言うように、いや、ホロスコープの末路を考えれば、実際に時間が無いのかもしれない。だが、フォルフルゴートにはそれが解りはしない。何故そんなことを言うのか、それが解らない。


「ステラ! やめてくれ! 僕の力は、全てを拒絶する力だ、それを使えば、お前を何事からも守ることが出来る! だから、そんなことを言うな!」


「フォル君。解って、もし、私が今生き延びてもね。この世界が滅んだら、私は生き残れないんだよ」


 今、フォルフルゴートがステラを害する全てを拒絶し、それらを全てを消し去ったとしても、近い内に起きるであろう世界の転生によって、ステラは生き延びることは出来ない。いや、こんな事が起きた後だ、世界の劣化はかなり激しい、もうすぐに世界の転生が起きてもおかしくは無いだろう。


「僕には、そんなことは出来ない……!!」


「フォル君。私が見ていたのは、とても、気持ち悪い世界だったんだ。私の眼は、世界を悪いものとして、認識してたんだよ」


 ステラの眼は、ステラにとって悪いものかを判別することが出来る。それは、ステラにとって世界とは、悪いものだという証明になる。そして、今、この世界はまさに牙を向いていると言っても過言ではない。


「だが、それになんの関係が」


「それに、誰だってね、私にとっての悪いものになる可能性はあったんだ。だけど、フォル君からは、その可能性が、何も見えなかった」


 これは、単純な話、フォルフルゴートの力が、何者にも影響されないというだけの話。ステラに触れられる事はあっても、その眼の力は完全に防いでいた。だから、可能性を見る事も無かっただけ、本当にそれだけだった。


「ステラ……」


「だから、私には、フォル君だけ。フォル君だけが必要なの!! 他には何も要らない!!」


 ステラにとっては、世界という悪いものに囲まれて生きていて、本来であれば味方であるはずの人でさえ、悪いものになる可能性が見えてしまう。だが、フォルフルゴートにはその可能性すら見る事が出来ないのだ。悪いものの中で生きた人にとっての、休憩場所。穏やかで居られる場所。そして、いつしか、手放したくない場所になった。


「……」


「お願い、フォル君。私を、フォル君の中で生かして……? この姿だけが、フォル君に遺せるものだから、早く! 私を食べて!」


 切実な思い。世界が存在する限り転生して永遠を生きる管理者と、今を生きるその世界でしか存在出来ない人間。もう、その思い出を形に遺すには、〈竜と人の奇妙な関係性〉を利用するしかなかった。だが、それは、フォルフルゴートを永遠に縛る鎖となるだろう。


「ダメだ、ステラ! 考え直せ!」


「どうして!?」


 フォルフルゴートは、今まで他の存在に対して、あまり干渉してこなかった。故に、ステラは特別な存在となってしまっていたのだ。そんな相手を、食べるなんて、考えたくもない。現状から、逃げるしかない。


「そんな事をしたくは無い!」


「フォル君! お願い! 私の思いを、受けとってよ!!」


「やめろ! 追い詰めるな! ステラ、僕から離れろ!」


 ふいに出てきてしまった、明確にステラを〈拒絶〉する言葉。それは、最強の存在の放つ力として、拒絶を無効にする力さえも貫いて、その存在を消し飛ばしてしまう。驚きの表情から、絶望の表情。それだけが、最後に見えたものだった。永遠を生きる存在に遺したものは、ただ、それだけしか、遺すことは出来なかった。


 だが、例え、その姿によって縛ることは無くとも、ステラの鎖は、永遠に孤独の竜を縛る呪いになるだろう。

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