変調の物語
「ステラ……!? 一体何を知っていると言うんだ!」
眼を見開いてステラを見つめるフォルフルゴート。教えた覚えはない事を知っている。この世界が滅ぶなんて、一言も伝えた覚えは無いのだ。
「見えただけだよ。大丈夫、私はもう決めたからね」
「なにを……?」
ステラはにこりと笑顔を見せるが、それ以上は何も言うつもりは無いようだ。フォルフルゴートに嫌な予感が過る。だが、どうすることも出来ない。そんな様子を見ていたレアルはため息を吐いた。
「へぇ、そういう反応なんだ。想定から大きく外れてはいないけど、人の行動を計算するのはアタイでも難しい。ケミカルチェンジャー、アンタは基地に戻れ。ここに居ても意味無い」
「……。強い心だな。私も、もっと早くお前に会えていれば、違う道があったのかもねぇ……。まぁ、今更の話だ。私は既にそういうものだと思うことにした。残念だよ」
ケミカルチェンジャーはそれだけ言うと、穴の空いた地下の基地へと歩いていこうと、その体の向きを反転させた、その瞬間、黒い何かがその胸を貫き、膝を折ることになった。そんなことが出来た、その正体は、既に倒れたと思っていた存在だった。
「お前を残していたら、メンドクセェダロウガ!」
グネデアはそのまま倒れたふりをして、様子をうかがっていたようだ。そして、自在に伸びる棒で隙だらけのケミカルチェンジャーを貫いたという事だった。だが、貫かれた本人は驚きはしているが、そこまで深刻に考えている訳では無いようだ。
「だがねぇ、それでどうにか出来るつもりかい? もう少し考えておくれよー、君はボロボロで、非戦闘員の私を行動不能にしたところで、何も出来やしないんだよ」
そう言い放ち、見下すような笑みを浮かべる。本来であれば、グネデアは確かにボロボロであるが、この場にはフォルフルゴートが居る、この存在一人でこの状態をいくらでもひっくり返す事は出来る。だが、実際にレアルを含めて余裕を含む笑みを浮かべている。
「フォルフルゴート、動くなよ? 悪魔のせいでアタイ達の基地が露出したのは、嬉しくないんだけど。まぁ、それならそれでって事で、アンタが何かしようとしたら、基地を爆破してもっと広範囲を崩落させる。そしたら、そこのお嬢ちゃんは助からないだろうねー」
「……クッ!」
そう言われてしまえば、フォルフルゴートは動けない。レアルはなんの戸惑いもなく実行するのだから。ただ、完全に人質となっている筈のステラは、それに対して何も反応を示していない。何か、考えに没頭しているようにも見える。
「そういう訳でねぇ、私をどうにかしたところで何も変わりはしないんだ。残念だったねぇ、もっと絶望しておくれよ。君の表情はとてもつまらないんだ」
「ダリィ、俺は何かするのがメンドクセェンダヨ。怠惰の悪魔である俺は、他人に任せるのが一番なんだヨナァ!」
グネデアは伸ばした棒を縮めて、ケミカルチャンジャ―の身体から引き抜いた。そして、再度棒を伸ばして攻撃するのかと思いきや、それをレアルの基地の方に思い切り伸ばした。そして、棒を向こう側に縮める事で、レアルの基地に侵入していった。
「アイツ、何を考えて……!? しまった、やられた!」
突如、ケミカルチャンジャーの足元の地面がぱっくりと割れ、それがまるで大きな生物の口のようなものになり、そのまま飲み込んでしまった。そして、まるで地面から出てくるかのように、岩で出来た四本足の怪物が姿を現した。
「まさか、グネデアに助けられるとは思ってなかったね」
その岩の怪物から放たれた声は、ガントのものであった。大地の精霊である彼女は、岩を鎧にして、まとう事によってタフネスとパワーを誇る、物理的な戦闘に強い存在と言える。
「アタイは、なんでグネデアが知ってたのか、それを知りたいところなんだけどね?」
「私は、貴方が何をしようとしているのか、良くは解らないよ。だけど、必要な事はしなくてはね。好き好んで、誰かを害したい訳じゃないんだけど、どうしても、必要な時ってあるんだよね」
そう言って、フォルフルゴートの方に少しだけ視線を向ける。ガントは、方法があれば、被害を出さないように立ち回るだろうが、いざとなればステラを見捨てるというのだろう。それは、精霊として正しい判断であり、混沌を抑えるという秩序の在り方そのものと言える。
「おい! ホロスコープ! 掌握は終わったか!」
「現在、何者かに妨害、されています。目標までは到達していません」
「妨害……? あー、フロウのやつか」
おそらく、ガントと一緒に捕まっていたフロウは、何らかの方法で妨害に徹しているようだ。ここまで来てようやく、レアルに苛立ちの表情が見え始める。
「私としては、この辺で止まってくれないかな?」
「今更止まれるかよ! おい! ホロスコープ! 今の状態で十分だ、作戦を決行しろ!」
「了解し……」
「痛たたた!?」
唐突に、ステラが頭を抱えて痛みを訴え始める。それが、大きな転換の始まりになるのであった。