激突の物語
「まぁ、仕方ないですよね。ドラゴンを倒して、ハッピーエンドのカーテンコールです。さぁ! 私の舞に魅了されなさい!」
ギレーアは二本の剣を取り出し、まるでダンスを踊るかのように、俊敏にフォルフルゴートを斬りつける、だが、その強靭な鱗以前に、拒絶の力に阻まれて触れる前に弾かれてしまう。
「邪魔だ!」
だが、フォルフルゴートの方も俊敏に動くギレーアに攻撃が当たらない。その爪の一振りはそれ自体の破壊力と、拒絶の力が相まって、あらゆるものを一撃で葬り去る。だが、当たらなければ意味がない。
「それなら! これはどうですか! 確かに、私は力が足りませんが、速さならば自信があるのです!」
ギレーアは攻撃をする事を一旦諦め、翻弄することにしたようだ。フォルフルゴートの周囲を走り回り、その姿の残像をその場に残す。ただの残像ではあるが、目眩ましには十分な効果があった。
「鬱陶しい! 消えろ!」
その拒絶の意思のこもった一言で、希薄な残像は消えてしまう。だが、フォルフルゴートはギレーアの姿を完全に見失ってしまっていた。それは、作戦の成功を意味している。
「認識外からの、一撃を拒絶できますか?」
フォルフルゴートから距離をとり、見つからない位置に待機していたギレーアは、その俊敏な動きで背中に飛び乗り、そのまま駆け上がり、首に剣を突き刺す。
「ふん」
フォルフルゴートの近くに来てしまった時点で、感知範囲に入り、居場所は知られてしまっている。そうなれば、拒絶の力でその剣を弾くのは簡単であった。だが、あえてそれはしない。むしろ、常時帯びている拒絶の力を弱めて弾かないようにするほどだ。
「……!? しまった!」
ギレーアの突き刺した剣は鱗の隙間に、そして、フォルフルゴートは首を動かし、鱗で剣を挟んでしまう。
「あぁ、お前の言うとおり。力が足りないな!」
ギレーアは、剣を止められたことでそのまま動きも止められてしまう。その隙を、見逃すわけも無く、フォルフルゴートの爪が襲いかかる。
「メンドクセェ、させるわけねぇダロウガ」
だが、その爪が切り裂く前に、ギレーアは吹っ飛ばされた。その結果、爪は空を斬ることになる。そして、ぶっ飛ばした原因は、グネデアの持っている物凄く長い黒い棒。それを使って、その場から動かず、突き飛ばしたのだ。
「邪魔をするな」
「ウルセエナァ。俺の代わりに動くやつが居なくなったら、メンドクセェだろうが」
グネデアはそう言いながら、左手に持っている、ギレーアを突き飛ばした棒を消す。そして、右手には同じ棒があり、地面に突き刺している。これがグネデアの武器、出現させるも消すも、伸ばすも縮めさせるも変幻自在の棒。ダームストローク。
「おーう。グネデアさーん。私の扱いが酷くないですかー?」
「ウルセェンダヨ。準備は整ったからダマッテロ」
そういって、グネデアは右手の棒も消失させる。何か考えが有るようだが、フォルフルゴートの絶対的優位は揺るがない。どんな事をしても、拒絶してしまえば、思い通りになるのだから。
「無駄だ。存在としての優位は揺るぎようが無い。所詮は欠片ごときの従者に、拒絶を破る術はない。全て、意味がない」
故に、フォルフルゴートは揺るがない。どのような影響も受けない拒絶のように、その存在すらも揺るがない。
「アァソウダロウナァ。テメェの拒絶は貫けねぇ。なら、貫かなければ良いだけダロウガ」
「何を言っている」
「この下。空洞がある。ダカラヨ、脱力しとけ」
その瞬間。フォルフルゴートの立っている地面が崩落する。拒絶の力は、あらゆる影響を受け付けないが、この場合影響を受けているのは、地面でしかない。
「何だと!? まさか、こんな事が!」
唐突に崩れる地面のせいでバランスを崩し、飛ぶことさえ出来ず、まだ崩れていない部分に爪を食い込ませて落ちるのを防いでいるような状態だ。
「今がチャンスです!」
ギレーアは瞬時にステラの元に移動し、抱き抱えてその場を一気に離れる。そのまま、別の安全な場所へと連れていくようだ。
「ステラを、渡すものか!」
だが、距離をとってしまえば、フォルフルゴートの感知範囲から離れてしまう、そうなれば、対象の場所は解らず、拒絶の力も、指定場所が不明であれば、意味の無いものとなってしまう。つまり、現状それを止めることは出来ない。
「待ってくれないかねぇ? 私としてはさぁ、連れ出して欲しくないんだよねぇ。だってさぁ、絶望を見れなくなるじゃないか。それは、とてもつまらないと思うんだがねぇ?」
その場を脱しようとしていたギレーアの行く手を防いだのは。レアルの従者である。反応機ケミカルチェンジャー。ニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべている。
「邪魔をしないでください。貴方達混沌には関係ない話ですよ」
「それがさぁ、関係ない訳では無いんだよ。タイミングが良いとは言えないけれど、これは、これで……。その小綺麗な顔が歪むのを、見せておくれよ!」