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激動の物語

 イニシエンは各地の空間を繋げ、そして、宣言した。世界に革命を起こす、抵抗するなと。つまり、世界へ向けた宣戦布告であった。


「フォル!私の集落は包囲されてしまったわ! なんとか、私だけ逃げてきたの」


 邪悪の勢力は迅速に動いていた。悪魔の力を借りた人間が主戦力となる<要塞の帝国>の軍隊は、宣言するのと同時に、各方面へと動き出したのだ。身体的に強化された人間たちは、あっという間に各地へとたどり着いた。


「様子はどうなんだ?」


「わかんない。地下に隠れる為に一生懸命穴を掘ったけど、時間がなくて全員は隠れられないと思うし」


 集落の人が心配なのか、どうにも落ち着きのないステラ。フォルフルゴートは竜の眼を使い、いくつかの地点から確認するが、帝国の軍勢は殺しを行わず、包囲しているだけのようだ。流石に抵抗された場合は反撃しているが、それでも捕縛するに留めている。


「どうやら、殺害が目的では無いようだ。安心しろ」


「うぅ、これからどうなるのかな」


 だからといって、そう簡単に気持ちを落ち着かせる事は出来ない。今まで生きてきて、こんな事に直面したことは無いのだろう。冷静になれないのも仕方無いとしか言いようがなく、時間はそれでも進み続ける。


「……来たようだ」


 白銀の剣を持ち、マントを靡かせて悠々と近づいてくる男。ステラもよく知っている人物であり、魔王の配下。ラギ・ギレーアは複雑な表情をしながらも、その歩みを止めない。


「ねぇ、ギレーア。どうするつもりなの?」


 ギレーアのいつもと違う様子に、ステラは微かな怯えを見せる。それでも、その歩みを止めることは無く、ついに


「大丈夫です。安心してください。私は、ステラさん。貴女を保護しに来たのです」


 ギレーアはステラに笑みを見せて、その頭を撫でる。安心させようとしているのだろう。その雰囲気には純粋な優しさを感じる。


「保護だと?」


「はい。この場所は、近いうちに危険な場所になる可能性があります。そうなる前に<無知の国>の人達には避難してもらいます」


 ギレーアは真面目にそう語る。邪悪の侵略行為には、意味があるのだと。だが、フォルフルゴートは怒りの籠った眼で睨み付ける。中立の管理者の居る、この場所で、危険な事が起きると言っている。それは侮辱のようなものだからだ。


「問題ない。僕の居るこの場所では、何も起こらない」


「違うのです。貴方が居るからこそ、危険な場所になる可能性があるんです」


 ギレーアは必死になって説得しようとしているが、フォルフルゴートは聞き入れるつもりは無い。最上位と言える権限を持つ中立の管理者として、危険な事が起こるという現象自体を許容できない。許容できないのならば、その全てを拒絶する。それだけの事が出来るのだから。


「この地が乱れることはない。去れ」


「せめて、ステラさんの避難を……」


「くどい、いざとなれば全ての変化を拒絶してみせる」


「私は、フォルが居てくれたら大丈夫」


「そういうわけにはいかないのです」


 全く聞き入れる様子の無いフォルフルゴートに、加勢するように、落ち着いてきたステラが大丈夫と言ってしまう。ギレーアは困ったように頭をかく。そんな問答で硬直状態になってしまう。


「おい、ギレーア。遅ぇンダヨ」


 そんな中に、一人の男が割り込んでくる。めんどくさそうな雰囲気を隠す気も無い、気だるげな存在。魔王の配下の一人、ラギ・グネデア。


「グネデア!?もう少し待ってください」


「ウルセェ! 気絶させて連れていけば良いだろ! メンドクセェ! それにな、もう動き出したんだ。今更止まる選択肢はねぇよ」


 ギレーアは動揺したような表情になるが、一転。思いを振り切ったかのように、ステラに向き直る。手に持っている剣を鞘にしまう。


「なにするの?」


「ステラさん、私達には、望む理想があるのです。もうしわけありません」


 ギレーアはステラの頭に触れると、まるで眠るように意識を失い、その場で倒れた。そして、この場から連れ去る為に、抱き上げようとするが、それを許さない存在がここにいる。


「……僕がさせると思うのか。消えろ」


 ステラを連れて行こうと動いていたギレーアだが、フォルフルゴートの言葉によって、大きく後ろに退くこととなった。その場にとどまっていれば、拒絶の力によって存在を消し去られていた。


「本当は、貴方とぶつかるのは、天使を説得してからの予定だったんですけどね」


 やれやれとでも言いたげに、事もなくそんな事を言い放つギレーア。つまり、それは、邪悪の勢力がフォルフルゴートを、管理者を束ねる存在であり、中心点。そして、世界を区切る壁である中立の管理者を攻撃しようとしていたという事だ。


「……何を考えている」


「メンドクセェ。現状維持と所在不明。天使のほうが楽だろ」


「そんな事が聞きたいわけでは無い!」


「ウルセェナァ! 管理者であるイニシエンが、この〈世界〉の外側に干渉できないのはテメェの仕業だろ! 事の本質から遠ざけてるようにしかミエネェナァ!」


 グネデアの言っている事は間違っていない。中立の管理者は、この〈世界〉と〈外側〉を隔てる壁だ。そのように設定されている。おそらく〈計画者〉は単に世界の境目をハッキリさせたかっただけなのだろう。その際に、最強の存在である中立の管理者を利用するのが一番合理的であった。そして〈外側〉を見ても誰も得しないので、その視界も塞いだ。唯一知るのは、壁そのものであるフォルフルゴートだけ。他のものは〈外側〉と〈外部〉の違いも解っていない。


「言いたいことは解ったが、容認は出来ない」


「メンドクセェ。交渉決裂か」


「中立の管理者として、世界の秘密を守護しよう。結末の無い物語の真実を知る必要は無い。一時の間、零へと還れ!」

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