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邂逅の物語

「フォルとは……。我の事か?」


 落ち着きをある程度取り戻したフォルフルゴートからの問いだった。自分の名前が長い事を自覚しているし、他の管理者からそう呼ばれることは多いために、気にすることでも何でも無いのだが、話をする為の何か適当なきっかけが欲しかっただけのようだ。


「そうだよ? だって名前長いんだもん。それに、フォルの方がかわいいよ!」


 可愛いかどうかはとりあえず置いておこう。先ず最初に浮かぶべき疑問は、怖くないのかという事だ。たとえ敵視している訳では無いとは言え、これだけ身体の大きさに差があれば恐怖を感じるはずだ。今更ながらそんな事を思う。


「お前、怖くないのか?」


 少しきょとんとした後に、何故か少し怒ったような表情をする少女。怒ったというよりも、拗ねた感じか。なんにしても、フォルフルゴートには全く理解ができない。当たり前の事を聞いただけなのだから。


「お前じゃないでしょ! 私はステラって言ったよ!」


 そっちか。何をそんなに怒ることがあるのだか、フォルフルゴートには全く理解ができなかったが、好んで機嫌を損ねる必要は無いなと判断。たかが名前を呼べば良いだけだ、大した労力にはならない。


「ステラ、我が怖くないのか?」


 言い直すと、あからさまに機嫌を直したようだ。単純だなとは思うものの、言葉として出すことは無い。子供なんてそんなものかと、思考を切り替える。フォルフルゴートにも、ステラが自分に恐怖を感じていなくて、それがおかしな事だと理解できる。


「最初はちょっと怖かったけど、フォルは怖くないよ。優しそうな感じがするからね!」


 優しそうな感じとは何だろうか。何しろ相手は人間じゃない、ドラゴンだ。フォルフルゴートには他のドラゴンの優しい感じというものを感じたことは無いし、言われた事なんてない。感というものだろうか。その辺とか、色々気になる所ではあるが、一番の疑問。それは触れる事ができたこと。


「何故、我に触れられた」


 フォルフルゴートは望む望まない関係なく、他者を拒絶し、弾いてしまう。それが中立の管理者としての在り方であるために、本来触れられるなんてことは無いはずだ。だが、ステラは意味が解っていないかのようだ。首を傾げてきょとんとしている。


「なんで? フォルが言いたいこと解んないよー」


 確かに、中立の管理者であるとステラが知るはずも無いし、そもそも中立の在り方なんて知識を持っている筈がない。触れる事の意味を解っていないのだから、この反応も仕方が無いのだろう。納得は出来ないのだが、理解するしかない。


「これも、不自然な違和感の影響だろうか……。ステラ、本来我に触れる事は不可能だ。お前には何か特別なものがあると言っていいだろう」


 説明して解ることでは無いだろうが、一応言っておく。邪悪や混沌辺りならば興味を持つだろう、これが世界の違和感に関係するものならば、秩序も興味を持つかもしれない。神聖は、よくわからない。少なくとも、ステラにとってはどの管理者も良い影響を与えないだろう。特に混沌は何を仕出かすか解らない。多少心配になるフォルフルゴートだったが、だからと言って何をする訳にもいかない。積極的に干渉するつもりもないし、むしろ干渉しすぎれば目立ってしまう。


「フォルってなんかかたーい? それに、われとか、なんかおじーちゃんみたい」


 確かに的を得ているのだが、そんな事言われるとは思って居なかったフォルフルゴートは唖然とするしかない。何せドラゴンだし、大きくて威厳のありそうな感じだし、別に違和感を感じるようなものでは無かったので、誰も指摘しなかった。それに、かたさで言うならば、秩序の管理者の方がかたい。


「……。我がおじーちゃんか」


 別にそう言われて傷つくような精神でもなく、そもそも世界と共に転生する管理者は、おじーちゃんどころか化石と言ってもいいほどの年齢である。ただ、想定外な事を言われたせいで軽く思考停止しているだけのようだ。確かに、大きなドラゴンに、しかも初対面で、おじーちゃんなんて言う人はなかなか居ないだろう。


「だーかーらー、かたいって言ってるでしょー。われとかじゃなくて、僕とか、私とかあるでしょ。ステラは私だから、フォルは僕ね」


 一方的に宣言された。どうして他人にここまで言われなくてはいけないのだろうか。そんな思いを抱くが、それに反抗しようとする気力もない。そもそも、フォルフルゴートは動的ではない。受け身な性格をしている為か、呆れるものの、悪い気はしていない。もしくは、あまり他者と関わってこなかったせいで距離を測りかねているのかも知れないが。


「僕……か。おかしくは無いか?」


 とりあえず、口にしてみる。それだけでステラはにっこり笑顔になる。子供らしい無垢な笑顔を見ると、フォルフルゴートと言えど、なんかもう、いいか。みたいな気分になってくるから不思議だ。


「うん! おかしくないよ。われとかの方がなんか変だもん」


「……。そうか」


 だからと言って、今までがおかしいと、暗に言われてしまうと思わないこともないようだ。ステラとしては何か暗い意味を考えて言ったわけでは無いのだが、それをフォルフルゴートが理解できない訳では無いのだが……。


「あー、暗くなってきちゃった。そろそろ帰らないとー。ばいばーい、また来るねー」


 フォルフルゴートが考え込んでいると、急に帰ると言い出した。別に引き留める必要は無い、あまり暗くなりすぎると帰れなくなる恐れもある。走っていくステラの姿を見ながら、ため息を吐いていた。

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