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反応の物語

 <無知の国>に小雨が降っている。こんな日は肌寒く感じるため、あまり外に出たくはないだろう。そんな、気分が暗くなりそうな天気であっても、ドラゴンからしてみれば些細な事でしかない。だが、そういう訳にもいかない時があるようだ。


「ステラ。どうしたんだ?」


 小雨とはいえ、天気が悪いのにやって来たステラに、フォルフルゴートは嫌な予感を感じた。既視感と言うのだろうか、確証は無いものの、良くない事が起こるように思える。


「フォル。とても嫌な予感がするわ。杞憂なら良いんだけど」


「考えすぎだろう。雨の日は気分が落ち込むものだ」


 ステラの暗い表情に、気のせいだと言うが、それでも拭いきれない不安感はある。最も、フォルフルゴートの表現からそれを感じとることは不可能だろう。根本的に、ドラゴンには表現というものが無いに等しい。


「何か、うっすらと見えるのよ。だけど、なんか曖昧すぎて、よく分からないの」


 ステラの自身にとって悪いもの、悪意などを見る力がどこまで影響するのかは予想できない。だが、それが見えるという事は、何かあるのだろうか。


「今まで、こんなことはあったか?」


「うーん。いままで、なんか漠然としたものが見えたときはあったような気がするけど、今みたいに確実に見えたって事は今まで無かったわ」


 他人からの自身への悪い影響の有無を見る力とでも言えば良いのだろうか、その効果範囲がいまいち掴みにくい。しかし、ステラの言葉が本当ならば、その力の範囲が広がっている可能性があると言える。


「その内、鮮明に見えるようになるかも知れないな」


「私は見えない方が良いんだけど。そういうのって、見えない方が色々と気楽だと思うわ」


 ステラの言葉には一理ある。見えないものを見えないとして回っている世界に、見えないを見えるとしたものを入れると、それは在り方への矛盾点となるし、大きな変動を起こすことは間違いないだろう。


「だが、それがステラの在り方ならば、それを受け入れるしかないな」


「フォル君って、本当に動かないよね」


 ステラが呆れた表情で言う。その言葉は色んな意味で正しいと言える。確かにフォルフルゴートは動かない。それは物理的にでもあるし、存在的にとも言える。在り方が大きな意味を持つこの世界では、滅多な事ではその存在が変わることは無いのだが。


「僕が動かないのは、良いことだ。それだけ、世界が安定しているという事の証明になる」


「ふーん?」


 何を言ってるんだかとでも言いたげな表情になるステラだが、フォルフルゴートの言っている事は真実だ。世界が安定していれば動く必要がない。というよりも、動かざるを得ない状況になっていないとでも言った方がいいのか。兎も角、中立の管理者が動く状況というのは、世界にとってかなりヤバイ状態という事だ。


「その為には、私たちも動く必要があるんだがねぇー?」


 唐突に声がした。ステラとフォルフルゴートがその方向に顔を向けると、そこには薄ら笑いを浮かべた不気味な白衣の女性が立っていた。白髪混じりの茶髪に、目の下の隈と言い、とても不健康そうだ。それどころか、極彩色の異様な煙を吐き出している辺り、見た目で解るヤバさである。


「何の用だ。反応機ケミカルチェンジャー」


「なぁーに。今この世界は停滞気味で、今こそ混沌が動くべきなのに、それを抑え込みたい奴を見に来ただけだがねぇー」


 ケラケラと笑うケミカルチェンジャー。特に今は何をしようという訳では無さそうではあるが、様子がおかしい人物が一人。ステラは顔を蒼白にして黙っている。


「大丈夫か? ステラ」


「う、うん。大丈夫よ」


 そうは言うものの、強がっているだけのようだ。未だに蒼白で大丈夫そうには見えない。そんなステラに、ケミカルチェンジャーが近寄る。


「お前カワイイねぇー。その顔が悲痛に苦痛に歪むのを見せておくれよ。私はその時が楽しみだ」


「ケミカルチェンジャー。そこまでだ」


 ステラとの間を手で遮り、ケミカルチェンジャーを睨み付ける。だが、全く動じた様子もなく、寧ろ睨み返してきた。リアと言いグネデアと言い、どうしてこんなに我が強いのかと、フォルフルゴートはため息を吐く。


「なぁーに、そのうちな、楽しみにしているさ。その時は、お前の絶望した姿も見せておくれよ? 望みの果ての破滅は、いつの間にか来ているものなのだからなぁ!」


 ケミカルチェンジャーはケラケラと笑うと、背を向けてそのまま走って去っていった。いつの間にやら、小雨は止んでいたが。それでも、曇天は気分を暗くする。


「ねぇ、フォル。純粋で明確な悪意を感じたわ。私、あんな人に何かした覚えは無いわよ?」


 顔を未だに青くさせながらステラは言う。どうやら、意図的に悪意をぶつけられたようだ。ケミカルチェンジャーは、ステラを嫌っている訳ではない。そもそも初対面だ。それでも、そんな行動に出るのは。


「奴は、攻撃的な性質がある」


 正確には攻撃的とは違うのだが、悪意を見てしまうステラからしたら十分攻撃的だ。人々に協力し、技術や知識等を与え、繁栄させるが、文明の破滅までを眺める存在。それが反応機ケミカルチェンジャー。まるで、試験管の中の反応を見るかのように、様々なものを与えようとする。


「うーん。そういう人も居るのね……。なんか、複雑な気分」


「しかし、何しに来たんだ?」


 ケミカルチェンジャーは何をするわけでもなく、来て去っていった。しかし、まるで何かを確信しているような素振りをしていたようにも思える。それが、フォルフルゴートの不安感をあおる。それが良い事のようには思えないだろう。


「そろそろ帰るね」


「ステラ、気をつけろよ」


 本当に、何があるのかは解らない。ただ、フォルフルゴートには、ステラの後姿を見送る事しか出来なかった。何も、出来ることは無い。

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