表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/40

談笑の物語

 フォルフルゴートは<無知の国>の草原でうとうとしていた。昨日来ていたフロウからの情報を噛み砕き、どう行動したものかと考えていたようだが、どうにも答えが出たようには見えない。


「ままならぬものだな」


 そう言ってため息をはく。フォルフルゴートは頭が悪い訳では無い。思考の速度は速くないが、多分寝過ぎなのだろう。答えが出せないのは、主に中立の管理者としての立場があるからだ。自由な行動など許されない。在り方には逆らえない。


「おーい、フォルー!」


 半分寝ているような状態で、思考に沈んでいる。そこにステラの声が響いた。フォルフルゴートは意識をハッキリさせ、思考を一度リセットするようだ。


「ステラが来たか」


「フォル様ー!」


「うん?」


 ステラとは違う声が聞こえた。フォルフルゴートは眼を開き声の方へ向けると、ステラとディレイプレッシャーが仲良さそうに歩いてきていた。いつの間にか仲良くなったのかとか、何故敢えてその呼び方なのかとか、そもそも何故居るのかと、疑問しか生まない状況であった。


「あー、ディレイちゃんのその呼び方もいいねー」


「ステラちゃんもどうかなー」


「うーん。私はフォル君って呼び方が気にってるから」


 だが、フォルフルゴートにはこの会話に割り込む術が無かった。むしろ、この話の中で声をかける事に嫌な予感さえも感じさせる。それにしても仲良さそうで、楽しそうに談笑している。


「あ、フォルフルゴート様。私に何しに来たと問わないのですか?」


「いつもフォル君言ってるよねー」


 2人がフォルフルゴートの傍まで来たところで、そんな事を言っているが、出来るものならしているとばかりに、ディレイプレッシャーを睨みつける。しかし、動じた様子もなく、寧ろニコニコと笑顔だ。


「あらー? 嫉妬かしらー」


「もー、フォル君ったらー」


「異種族の絆、ロマンですわ」


 好き勝手に会話する2人にフォルフルゴートは困惑するばかりだ。何を納得したのか頷くディレイプレッシャーに、少し恥ずかしそうなステラ。その全てが理解できないようだ。


「お前ら、何を話しているんだ」


「秘密ですわー」


「秘密だもんねー」


 普通に聞こえている訳なのだが、どうやら何かが秘密らしい。2人は向かい合い、ねー、と謎の意思疎通をしている。楽しそうで何よりだ。何やら置いて行かれている存在が居るが、きっとそれは気にしてはいけないのだろう。


「あぁ、そうか」


「そういえば、フォルフルゴート様はどこまで見ているんですか? 機械の空間は見ていますか? 閉鎖された空間は見ていますか? 争いの兆候は見ていますか?」


「どういうことだ?」


 ディレイプレッシャーの言う、閉鎖された空間は〈救済の島〉の事だろう。見ようとしても見れないのだからどうしようもない。争いの兆候というのは〈要塞の帝国〉の事だろう。ここに関してはギアが居る事もあり、監視は続けているようだが、特に変化はない。戦いの準備は未だにしているようだが、大きな変動は確認していないようだ。


「……フォルフルゴート様。時間がありませんわ。この子の事を思うのでしたら、早く明確にしてください。どうであっても、見える事なら受け入れられるのよ」


 ディレイプレッシャーはステラに聞こえないように、フォルフルゴートのすぐ傍まで寄り、小声でそう呟いた。時間が無い、それはグネデアも言っていたことだ。フロウも何やら慌てているようであるし、今の世界の終わりを感じ取っているのかもしれない。管理者と従者にとっては、ただ、管理する世界が生まれ変わるだけの事。その後も、世界を見ていく事は変わらない。


「……何をしようと変わることは無い」


「……いえ、貴方は変わったわ。だから、道を間違えないで欲しいのよ」


 確かに変わったのだろう、あらゆる事柄に興味をあまり示さないフォルフルゴートが、実はステラという存在に執着している事。だがそれも、世界の転生と共に管理者と従者も転生し、記憶は記録となる。筈だ。だからこそ、変わることは無いと思っている。記録では、本質まで影響が出ない筈なのだ。


「フォルとディレイちゃんが私に隠し事してるー」


「うふふー、ステラちゃんには秘密よ?」


「何それ、ずるい!」


 口を尖らせて納得できないを表情に表すステラに、宥めるディレイプレッシャー。こんな他愛無い日常は、もうそんなに長く続くことは無いだろう。日が徐々に落ちているように、時間が止まる事は絶対に無いのだから。


「そろそろ、私は戻ります。今日は楽しかったわー」


「私もー。明日は話し合いがあるから、帰らないと」


 そして、2人はそれぞれ、自分の居るべき場所へと帰って行った。残されたフォルフルゴートには、ただ静けさだけが残された。それでも、だからこそ、ただ思うのだろう。


「頼む。最高の終わりを、幸せに物語が終わってくれ」


 多くの時間を見てきたフォルフルゴートにとって、存在とは物語なのだ。その物語は、終わり方によって大きく表情を変える。願うのは、幸せなハッピーエンド。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ