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生者の物語

 シルトが居なくなり、ステラがフォルフルゴートを訪ねる頻度は減った。どうやら、集落の中での目の役割というものをしているらしい。そして、数年の時が経った。おそらく、7年、8年程度だろうが、それでも人の世界が変動するには十分な時間だろう。ただ、相変わらず、混沌も邪悪も神聖も、表立っては動いていないのだ。


「いい天気だ」


 フォルフルゴートは、今までと変わらず〈無知の国〉でのんびりしている。シルトを探すために、ドラゴン達を動かしたりもしていたのだが、全く手掛かりは無い。精霊達は、相変わらず人攫いには興味が無いようだが、少し前にガントが居なくなったようだ。フロウも流石に多少気にしていた。


「フォル! やっと時間が出来たわ!」


 フォルフルゴートに走り寄ってくる人が居る、成長したステラだ。髪を伸ばしているのと相まって、本当にシルトに似ている。久しぶりなので、少々はしゃいでるように見える。


「ステラ、久しぶりだ」


「最近大変だったよー! 私に見えるものなんて、悪い人か悪くない人か位なのに、言い寄られても困っちゃうわ!」


 ステラはフォルフルゴートに飛びつき、文句を言いまくっている。どうやら、何かが大変だったらしい。目の役割というのは、集落のまとめ役みたいな事をしないといけないので、とても疲れるようだ。


「そうか、大変だったな」


「もう! フォルはいっつも素っ気無いよね!」


 ステラは不満そうな表情をして、フォルフルゴートの顔に顔を近づける。じーっと睨み合いが発生するのだが、折れるのはドラゴンの方である。というより、反抗する気が無いだけとも言うのだが。


「わかった。僕が悪かった」


 フォルフルゴートがため息を吐いて、そう答えると。ステラはしてやったりと、笑顔になると。いつもの要求をしてくる。ここ最近の2人のやり取りである。


「じゃあ、空連れてって! 私空飛びたいわ!」


「危ないと言っているだろう。危険な事は出来ない」


 ステラはがっくりとするが、別に不機嫌になったりはしていないようだ。最近はここまでのやり取りがデフォルトとなっている。フォルフルゴートが認めないと解っていて問いかける。もしかしたらという気持ちはあるようだ。


「私はもう子供じゃないし、大丈夫なんだけどねー」


「大丈夫なわけないだろう。諦めろ」


 ステラの望みを、フォルフルゴートはバッサリと切る。何をそこまで拘るのかは解らないが、今の所諦める気配はない。いい加減にしてほしいとは思うが、言ったところで意味ないだろう。意外に頑固だ。


「そういえば、ギレーアが遊びに来たのよ。フォルも来たら?」


「待て、無理があるだろう」


 ギレーアが何しに行ったのかは知らないが、悪魔な部分を隠せば人間に紛れても問題は無いだろう。本人の性格を除いて。しかし、フォルフルゴートはドラゴンだ。見間違いの出来ないようなドラゴンだ。何をどうやったら、人間の集落に遊びに行けるというのだろうか。


「大丈夫だよ。私が集落の守護竜って紹介するからね!」


 名案とばかりに、ステラは胸を張るが、それにフォルフルゴートが同意する訳が無い。それでどうして納得できようか。しかも、ちゃっかり守護竜なんてものにしようとしている。


「僕は守護竜にはならんぞ。ドラゴンをなんだと思っている」


 ステラのその様子にため息を吐くフォルフルゴート。本来のドラゴンは、脅威となる災害の化身のようなものなのだ。人間が気安く接して良い存在ではない。例外がこの場にあると言えば、それまでではある。


「だって、帝国には守護竜が居るのよ。私の集落に居てもいいじゃない」


 帝国の守護竜ギア。何を思ったのか、確かにラギ・イニシエンの部下として動いている。フォルフルゴートはその事に対して、何を思うまでも無いが、1つ引っかかった。ステラにギアの話をしたことは無いはずだ。


「何故ギアの事を知っている?」


「ギアって帝国の守護竜の事? ギレーアが教えてくれたわ。私がフォルと一緒に居たいのにって言ったら、集落の守護竜として誘ったらどうかって、言ってたわ」


「余計なことを……」


 どうやら、黒幕はあの悪魔だったらしい。何を考えているのか……。いや、何も考えていないのだろう。レディに頼まれたらどーのこーのとか、おそらくそんな理由だろう。フォルフルゴートは一度痛い目にあわせた方が良いのかと思考する。多分治らないが。


「後ね、帝国の守護竜は融通が利かない生真面目って言ってたわ。ドラゴンって皆そうなの?」


「そんな事は無い。凶暴なドラゴンもいる、油断はするな」


 ドラゴンも色んな性格をしている。リアのような良い性格をした竜も居れば、ムアなんかはかなりボケた性格をしている。ギアは、かなり交戦的だったはずだが、帝国に居る間に丸くなったのだろうか。どちらにしても、凶暴な奴は凶暴なので、そんな間違いをされると困る。とはいえ、ステラの眼を考えると、そんな間違いはしないだろう。


「フォルが守護竜にはならないってわかってたわ。でも、私が一緒に居たかったのは本当よ。だから、私に何かあったら、躊躇わないでこの身体を使ってね!」


「ステラ……!」


 フォルフルゴートは驚愕する。教えてない筈なのだ〈人間とドラゴンの奇妙な関係〉なんてものを教えるはずがない。驚いて、ステラの顔を見るが、笑っている。まるで何でも無いかのように。


「白竜から聞いたの。フォルは性別が無いから、私の身体でも良いでしょ? 私に何かあったらだけどね」


「余計な事を考えるのは止めろ!」


「バイバイ、また来るね!」


 フォルフルゴートの言葉が聞こえたのか、聞こえなかったのか。ステラは集落に向かって走って帰って行った。目を閉じて、思考の中に落ちた。

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