始まりの物語
ここはレキシ世界、もしくは映写機世界と呼ばれている世界。永遠に続く完璧な世界として2つのシステムを確立した。先ずは〈世界転生システム〉世界は時間経過によって徐々に劣化してしまう、ある程度の時間経過が起きた時。もしくは改善不可能な状態に世界が陥った時。世界は転生する。破壊、引継、誕生、によって世界は一新する。そして、もう一つ。〈管理者システム〉5体の管理者によって世界の寿命を出来るだけ伸ばす。神聖、邪悪、秩序、混沌、中立がお互いに影響しあい、壊さず、停滞させずのバランスを保つ。だが、管理者にはもっと重要な役目がある。それは、人が住みやすい世界にすること。許すものとして、導くものとして、整えるものとして、叶えるものとして、敵対するものとして存在している。
転生を繰り返し、2946回目のレキシ世界。中央に存在する大陸と、北西に存在する大きな島、それを取り囲むように点在する小さな島で構築されていた。大陸の西側を占める大きな草原、通称〈無知の国〉では1体の管理者がぼーっとしていた。その姿は大きな白いドラゴン、中立の管理者フォルフルゴートだ。
中立の役目は管理者のパワーバランスが偏りすぎないように監視することだが、今の所は特に何もすることが無く、ただ日向ぼっこしているだけ。秩序は大陸の東を占める〈沈黙の森〉を根城にして動かない。邪悪は無知の国より南方向に要塞を築き、〈要塞の帝国〉でなんかの準備をしているようだが、動きが無い以上は行動する訳にもいかない。神聖は北西の大きな島〈救済の島〉に居るらしいが、外部との接触を遮断している為に動きが読めない。混沌は〈無知の国〉に居るらしいが、見当たらない。
こんな状態で対策しないのかと思われがちだが、本当に対策なんてしない。中立はバランスを崩さないようにする存在ではなく、崩れたバランスを正す存在。現状崩れていないので、動いたりはしない。適度な変動は必要なのだ。
「平穏は良いものだ……」
そう呟くフォルフルゴートだが、懸念している事はある。世界に違和感がある、最初に気が付いたのはこういったことに敏感な秩序、どうやら色々と調査していたらしい。徐々に他の管理者も気づくほどに違和感は広がっていく。目に見えるものではないが、気配といえば良いのだろうか。これを重く見たのが、秩序と邪悪。秩序は調査するに留まるが、邪悪は世界に強く干渉し、何か破綻が起きないうちに、自分たちで世界を管理してしまおうと色々行動していた。今回もきっと何かやらかすだろう。彼らなりの最善なんだろうが、フォルフルゴートからしてみればため息しか出ない。
確かに、世界が転生する度に違和感が大きくなっている事は気づいている。だから〈世界転生システム〉に何らかの異常があると考えるのは良い。だが、管理者は〈世界転生システム〉に干渉出来るわけがない。〈管理者システム〉の方が下位に設定されてるので、こちらからは手が届かないのだと、言っても邪悪の奴らは諦めない。というか、自分達なら何の不都合もなく世界を管理できると思っているのだろうか、勘弁してほしいというのが、フォルフルゴートの思いである。
思案に暮れていたフォルフルゴートは、何かが近づいている事に気づくのが遅れてしまった。目の前には少女、10歳とちょっと位だろうか、普段ならばこんなに近寄られる前に追い払うのだが。それ程までに考え込んでいたらしい。
「去れ、人の子よ。お前に我は触れられん」
中立とは、他の影響を受けない確固とした個。故に他の個を拒絶してしまう。フォルフルゴートは他の中立の属性を持ったドラゴンですら拒絶して弾いてしまう。この少女が触れようとすれば、その瞬間。弾かれて怪我を負うだろう。フォルフルゴートからしてみれば、そこまで気にしてはいないが、怪我をさせたいわけでも無い。だからこそ、警告したのだが、それを無視して少女は恐る恐るフォルフルゴートに触れた。そう、触れることができた。
「我に触れるとは……。お前は何者だ……?」
一番驚いたのはフォルフルゴートだ。触覚の鈍いドラゴンだとしても、伝わる温もりは長い時を生きた存在をも動揺させた。そうと知ってか知らずか、少女はにっこりと笑った。
「こんにちは、ドラゴンさん。私はステラだよ。ドラゴンさんのお名前はなーに?」
フォルフルゴートが聞きたかったことはそうではない、その存在を知りたかったのだ。普通の人間に触れられる訳がないのだから。だが、本当に久しぶりの動揺は大きく、頭の動きが停止している。聞きたいことが1つも出てこず、素直に返答してしまった。
「我が名は、フォルフルゴート」
少女の方は聞きたいことを知って、とても笑顔だ。フォルフルゴートの大きな姿に怯える様子もなく、もう一度触れた。触れるどころか、撫でている。
「よろしくね! フォル君!」