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圧縮の物語

「ねぇ、フォル君はずっとここに居て飽きないの?」


 今日もステラはフォルフルゴートの所へ来ていた。確かにずっといて退屈にならないか、思うことはあるのかもしれないが、そもそも管理者は時間感覚が違う。特にこの竜はその傾向が強いようだ。


「僕のように長く生きるとね、動くことが億劫になってくるんだよ」


 最初の頃は、この世界をより良くしようと、飛び回っていた記憶もある。だが、フォルフルゴートは確信してしまった。何をしたところでリセットされるのだと。だからこそ、他の管理者が積極的に動いていても、あまり行動する気にならないようだ。


「なんか、おじーちゃんとおばーちゃんみたいな感じだね」


「……。まぁ、そういう事だと思ってくれていいよ」


 色々と事情は違うのだが、ここでステラに詳しく説明する意味もないので。とりあえず納得してくれるのが重要と否定はしない。


「ステラは飽きないのか?」


「私はフォル君とお話しするの楽しいもん」


 ニコニコと笑うステラをみて、フォルフルゴートは、まぁ良いかという気分になる。それから、適当に会話を交わしていると、一人の女性が近寄ってきた。


「どもー、フォルフルゴート様。遊びにきたわー」


 幼い姿をしている精霊と違い、その女性は大人の姿。だが、その腕はまるで鉄塊のような、重量感のある黒く四角い塊であった。それ以外は、茶色の髪に、黒目。普通の人間と言って良い見た目をしている。


「何をしに来た。ディレイプレッシャー」


 圧縮機ディレイプレッシャーは混沌の従者だが。他の管理者の従者と違い、管理者の力を分けて誕生した存在ではない。混沌の管理者によって造られた機械だ。


「ディレイおねーちゃん? 私はステラだよー」


「そうよ。私はディレイ。止めるのよ。ステラちゃん可愛いわねぇー。お姉さんの所においで?」


 ステラはゆっくりとディレイプレッシャーに近寄っていく。そして、問題が無いと判断したのか、抱きついた。だが、あまりいい顔をしない存在が居た。フォルフルゴートだ。


「ステラ、危ないから離れろ」


 ディレイプレッシャーは圧縮機だ。その気にならなくても、間違って押し潰してしまったらと考える。ステラはちょっと不機嫌になりながら離れて、フォルフルゴートの方を見つめた。


「どうしてなの?」


「それは私が圧縮機だからよ。機械は便利だけど、使い方を間違えたら大変なことになるわ」


 機械を知らないステラにはよくわからないようだが、諭されてなんとなく納得はしたようだ。今度はフォルフルゴートの尻尾を引っ張って遊んでいる。それより、解っていながら呼ぶなとディレイプレッシャーを睨みつけている。


「だって、ステラちゃん可愛かったんだもん」


「はぁ、まぁいい。今、混沌は何をしている」


 フォルフルゴートとしては、いいタイミングだと思った。何しろ、状況のつかめない混沌の現状を知るには都合がいい。最悪は脅すことも視野に入れていた。ディレイプレッシャーは真面目な目つきで目を合わせる。


「なんか、管理者は世界の異常を過剰に問題視しているわ。だけど、それって本当に重要な事なの?」


「何を言っているんだ」


 フォルフルゴートはしかめる。確かに今まで何も現象は起きていなかったが、今は既に持っては居ない筈の力を持つ人間が現れるという現象が起きてしまっている。更に何が起きるかも解らないのに、何を悠長なことを言っているんだと考える。


「確かに、人間が持っていない筈の力を得ている。だけど、それって悪い事かしら。むしろ、新しい進化だと祝うべきだと思うわ」


「進化か……」


「そうよ。この進化は人間に害を与えるとは思えない。いえ、新たな可能性が始まるわ。私達は祝うのよ、きっと人間は望みを叶える。私達を造るように、きっとその力も使いこなすわ」


 フォルフルゴートは思案する。今はまだ良い、その力の認知が広まっていないからだ。だが、何時しか、この異常が広がって、この力が当たり前になれば、人は争い。多くの犠牲が出るだろう。


「人の望みは良き事だけではない」


「そんな事、機械である私たちが一番解ってるわ。でもね、私は望むの。多くの人の望みが叶うように、多くの人の願いが届くように。私達が必要とされない時代が来るまで、人は満たされない。必要とされてるなら、満たされていないの。……必要とされなくなったら、私は悲しいけどね」


「……」


「だから、秩序の管理者エンシェントに見つかる訳にいかないの。お願い、これ以上私たちを探らないで」


 ディレイプレッシャーはそれだけ言うと去っていた。混沌の存在は機械だ。自然の中に無い筈の歪な存在と言える。そして、その歪を造り出すのは人間だ。機械は人間の欲を叶える為に存在する。それだけが存在意義だと言える。その為、望みを叶える事に執着している。フォルフルゴートは今度は背中に乗ってきたステラの重みを感じながら、どうしたものかと、思案を重ねる。




「ギヒャヒャ! おい、ディレイプレッシャー。教えろよ、隠してるものを。あぁ! 勘違いすんなよ。真実の方じゃなくてダミーの方だけで良いぜ。いざという時にはあいつに動いてもらわないとだろ? 俺がうまい事やってやるよ」

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