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唐突の物語

「ステラお嬢さん。今日はとても飲みやすい紅茶を持ってきたのですか、一杯如何ですか?」


「おにーちゃんありがとー」


 今日はフォルフルゴートの所に、ギレーアとステラが来ていた。ただ、どうやって持ってきたのか。折り畳みのテーブルと椅子を持参して、優雅に紅茶を注いでいる。まるで、ピクニックにでも来ているようだ。


「フォルフルゴートも一杯如何かな?」


「要らん」


 フォルフルゴートは食物を摂取しない。必要もないし、他を拒絶するために何かを摂取する事さえも難しいのだ。そして、ギレーアも何かを摂取する必要は無いのだが、この悪魔は紅茶を好んで良く飲んでいる。


「フォル君はいらないの?」


 紅茶をちびちびと飲んでいるステラ。この場所では珍しい飲み物なので、恐る恐る飲んでいる。〈要塞の帝国〉では一般的な飲み物ではあるが〈無知の国〉では出回っていない。そもそも、金銭という概念もない、自由な存在だ。金銭を扱っているのは帝国だけ。救済の島のことは伝わってこないが。


「必要が無いからな」


「フォルフルゴート、心の余裕を持つには、無意味な行為も良いものですよ。私達とティータイムを楽しみましょう!」


 ギレーアは更に紅茶を勧めるが、フォルフルゴートは全く興味を示さない。やれやれとでも言うように肩を竦めると、ステラの持っているカップに紅茶を継ぎ足している。


「なんか不思議な味だね」


「帝国の特産品ですよ。もしお気に召しましたら、帝国に買い物でも……」


 フォルフルゴートはギレーアを睨みつけた。その視線は、よくわからない状況なのに、怪しい場所へ連れ込むなと訴えかけている。人攫いの出没に、帝国の武装強化。そんなところへ行かせる訳が無い。


「ダメだと言っているだろう」


「フォルフルゴートは心配性ですね。大丈夫ですよ。帝国が狙ってるのは〈救済の島〉の天使どもなんですから」


 しれっと言うギレーア。前の言う訳にはいかないとかなんとか言っていたのは何だったのだろうか。フォルフルゴートは呆れているようだ。


「お前……。それは言ってよかったのか?」


「え、あぁ。〈無知の国〉としても〈救済の島〉としても人間を襲うつもりはありません。相手は天使だけなので、ここで言ってしまっても問題にはなりませんよ」


 手のひらを反すギレーア。確かに、話を聞く限りはここで話をしても問題は無いだろう。何しろ、ここには天使とつながりのある者なんて居ないのだから。だが、初めに会ったときは明確に拒絶していた筈だ。何か事情が変わったのだろうか。


「何か事情が変わったのか」


「事情は何も変わっていませんが、あのように言った方がイケてる気がしませんか?」


 言葉を失うフォルフルゴート。真面目にふざけた事をいうギレーアに対して呆れかえっている。もう、こいつの言う事は気にしない方が良いのではないかと思って居るくらいだ。呆れているのに気が付いていないのか、何ごともなかったかのようにステラに紅茶を注いでいる。


「おにーちゃん。私はもういいよー」


「そうですか? 可愛らしいレディの為でしたら、何時でも用意致しますよ」


 そろそろ飽きてきたらしい。ギレーアは今度は果汁や、ミルク辺りを持ってこようかと呑気な事を考えている。ストレートの紅茶よりは好まれる可能性は高そうだが、その辺はステラの好みが解らないので何ともである。


「なんかね、最近悪い人が出るんだって、おねーちゃんが言ってたよ」


「悪い人だけでは無くて、悪い天使も出ますからねぇ」


「それはおにーちゃんが悪魔だからなの?」


「いえ? 最近帝国では天使による人攫いが発生してまして」


 フォルフルゴートは驚愕に目を見開く。それはそうだ、何しろ今まで情報が無かったのに、唐突に転がってきたのだから。ギレーアはなんでも無いように話していたが、それは明らかに重要な情報だ。


「おい、ギレーア。その情報は確かか」


「確かに決まっているじゃないですか。私達は天使どもから民を取り返すために行くんですから」


 何当たり前な事をとでも言うようにギレーアは返す。そう返されても、フォルフルゴートとステラには〈要塞の帝国〉の情報なんて持っていない。しかし、確かに。天使は自分の存在を薄めて、見つかりにくくするのが得意だ。人攫いをしようと思えば。簡単な事だろう。ただ、その理由が全く理解できない。


「早くそれを言え!」


「だって、デートのネタにしようと思ったら、2人ともつれませんし、それ自体にそんなに興味無かったので、忘れてましたよ」


 悪びれる事もなく、そう言い放つギレーア。だが、それが余計にフォルフルゴートを納得させない。何しろ、この人攫い問題のせいで色々と考えることになってしまったのだから。


「興味無いという問題では無いだろ! しかも、なんだ。その理由は」


「えぇ、どうしてそんなに怒るんですか。これは帝国の問題であって〈無知の国〉は関係ないじゃないですか」


 〈無知の国〉は関係ないと言うが、そんなことは無く人攫いは来ている。ステラやシルトが嘘をついているとは思えない。というよりも、嘘をついても利点なんて何もない。そして、このタイミングでの天使による人攫いだ。関係が無いと思う方がおかしい。


「何を言っている〈無知の国〉にも人攫いが起きている」


「えっ……? 本当ですか?」


「知らなかったのか?」


 これは情報の共有が重要だとする事案であった。なんとも言えない表情で見つめあうフォルフルゴートとギレーアであった。

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