表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/80

12.捕捉

「敵の隊を捉えました!」


 従士の一人が、馬を駆けさせてエセルフリーダに報告する。

 それを聞くにつれ、彼女の表情が抜け落ちていくように思えた。


「ご苦労。とりあえず、他の者が戻るまで休憩してくれ」

「いえ! 今すぐにでも私は出れます」

「君が出れても、他の者が出れないんだ。とりあえず、落ち着き給え」


 息を切らせながらも、若い従士はまだ働き足りぬ、と言わんばかりで、今にも敵陣へ向かいそうな無鉄砲さを感じた。

 エセルフリーダは改めて隊を招集すると、再出発の準備を整える。今回は、初めから戦闘となることが予想される。とのことだった。


「敵の数は如何ほどで?」

「それは彼から説明してもらおう」

「はっ! それでは」


 バーナードに尋ねられたエセルフリーダは従士に話を振る。

 仕事を任された彼は嬉々として語り出した。


「敵の数はおそらく、こちらと同数、あるいは多少数に優る程度だ」


 こちらは約五十人程、うち十名が騎兵である。相手も同数、というのは良い知らせとは言えなかった。

 下命されたのは、偵察および可能ならば撃滅、となると、同数であれば否が応にも矛を交えなければならないだろう。

 補給線の確保は喫緊の課題であるし、ここで何もせずに帰ってきました、と言えば問題になるのは間違いない。


「騎馬は確認できたところで十二騎。今は荷を解いて休憩中という次第」

「相手に見られてはいないな」

「勿論です」


 エセルフリーダは顎に手を当てて、何事かを考える様子だった。

 斥候が敵に見られてはならないというのは、当然の話だ。今から襲撃します。といって攻撃を始めるのは、軍勢同士の会戦くらいなものだろう。

 それでも、敵に内情を見られて喜ぶ者は居ない。警戒されても困るものだし、追手を差し向けられれば万事休す。


「敵の旗は書き写しておきました」

「ああ。この紋は……」

「どうしやした?」

「いや、これならばバーナード、お前たちにも見覚えがあるだろう」


 馬上からエセルフリーダが投げ渡した羊皮紙には、打っ違いの斧が描かれていた。

 黒いインクで旗の色を表現するような記号が記されていたが、それはヨアンにも解らない。

 敵勢の状態や数、そして地形やこうした旗の判別は、訓練を受けた騎士や従士の仕事である。

 これがなかなか、兵卒には任せられない。農夫は絵も書けなければ、計算や文字を読むこともできないのだ。


「こいつぁ」

「誰の紋なのです?」


 ヨアンは、言葉を失ったバーナードに問いかける。

 従士もどうやら、何処の家紋なのかは知らないと見えて、興味深そうに目を向けた。


「現、リュング城伯のものだ」


 答えはエセルフリーダの口から発せられた。


「現リュング城伯」


 つまり、裏切りを行い、この戦争の原因になった人物だ。

 自分でも気づかないうちに力が入っていたらしい、ノルンが数歩よろめいた。


「聞いては居ましたが、なるほど。卑怯な手を使う」


 従士は得心のいったように頷いた。

 獅子王国に与するものとしては、彼の行動は許されないものだ。


「おう、兄ちゃん、大丈夫か」

「……え? いえ。はい」


 手綱を握りしめていた手の力を抜く。

 この戦争が始められなければ、あるいはヨアンの村が襲撃されることはなかったかもしれない。

 その男こそが、父や幼馴染を殺した遠因、いや、原因であるかと思えば、力も入ってしまう。


「顔色悪いぜ」

「大丈夫です。ちょっと武者震いが」


 そうかい、と言ってバーナードは苦笑する。

 彼らとしても、居場所を失った原因であり、現リュング城伯は因縁の相手だ。

 初めこそ言葉を失っていたものの、バーナードはもう気負う様子もなく自然体だ。

 これではいけない、とヨアンは軽く溜息をつく。忘れた、とは言わないが、多少は内心の整理もついたものと思っていたのだが。


「こちらの方には敵は見えませんでしたが……どうやら、先を越されたようですな」


 各所に散った騎士、従士らが続々と戻り始めていた。

 敵が一隊のみとは限らないので、あるいは他の者らが発見するかもしれない。

 そうなれば、敵情を窺って後退することも視野に入るのだが、どうやらそうはいかないらしい。


「貴殿の一人勝ちだな」

「いえ、いえ。運が良かっただけです。しかし、エセルフリーダ卿。このことは」

「ああ、解っている」


 戦功は評定に関わるので、口添えをしてほしい、という事だろう。


「はは、これは羨ましいことだ」

「これからも諸君の満足するような場を提供できると思うがな」


 エセルフリーダが笑みの形に唇の端を上げながら言う。

 しかし、ヨアンにはどうしても皮肉気に見えるのだが。


「ただ散歩してきただけ、では合わせる顔もありませんからな」

「これは、槍を持ってくるべきでしたか」

「おや、貴卿は剣の扱いに不安が?」

「いやいや、どうにも無作法でいけない。それに、旗を掲げてこそ、でありましょう」

「それもそうですな」


 ははは、と笑いが沸き起こる。

 この分だと、騎士らの戦いぶりには期待が出来そうだ。

 どうやら、エセルフリーダは騎士らを用いて奇襲をかけることを目論んでいるらしい。


「関係ないような顔してるが、兄ちゃんも従士なんだぜ」

「えっ」


 歩兵と共に後詰に控えていればよいと思ったのだが。

 エセルフリーダの方を見れば、彼女も騎士らと共に戦闘に加わるつもりらしかった。


「ついていかない訳には、行きませんか」

「だろうな」


 現実はいつも、非情である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ