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「やっぱりかわいい」
「桃花もかわいいよ」
「ハイハイ、アリガトー」
「何それ」
「瑠美の真似」
「私そんなこといわないし」
そうこうしてうちに予鈴が鳴って、短い昼休みは終わってしまった。
教室に戻り、退屈な午後の授業を睡魔と共にやり過ごす。
そんないつも通りの、なんでもないことでも、今はなんとなく色めいたような、眩しいような──大げさないい方をすれば、幸せすら感じていた。
友達と制服を交換しただけでそんな風に感じるなんてめでたい奴だなあと自分でも思うけど、でも本当のことなのだから仕方がないし、この幸せがもっと続いて欲しいとさえ思う。
ずっと、こんな風に桃花と一緒に過ごせたらって。
知り合ってまだ二ヶ月とちょっと。
同人誌にすればきっと三ミリもいかない厚さだけど。
でもそれは私と桃花だけの、特別な時間だから。
積み重ねた分だけ、どんどん増えていくから。
平面的な時間と立体的なこれとは、さすがに同じじゃないよね──と、壁にかかったアナログ時計を見ながら、ぼんやりそんなことを思った。 <了>




